御手洗さんの言うことには…

４５

ソータローのこと…２４

「別にって…色々あるでしょ？
　ここを出てから、おじいさんの家に来るまで」
　焦れたように、清子が言う。
「それがね、不思議なんだ」
どこか浮世離れした顔で、宗太郎はボゥッとした顔になる。
「それが…あの頃の記憶って、ほとんどないんだ。
　気が付いたら、母さんと二人っきりになってた…」
「えっ？」
　そんな訳がない。
　話をはしょり過ぎでしょ？
清子はそう思うのだが…
どうもそうではないらしい。
「本当なんだ。
　母さんが言うには、ボクはズーッと寝込んでいて、病院にいた、
　と言うんだけど…」
自分のことなのに、記憶があやふやなんだ…
なぜか自信がなさそうに、清子を見つめる。
「それが、まるで、覚えていないんだ」
「えっ？」
　そんな、ドラマみたいなことが、本当にあるの？
どうしても、清子にはわからない。
「だけど、本当なんだ」
「じゃ、オジサンは？」
清子は混乱しながらも、何とか平静を装う。
「父さん？
　それが、よくわからないんだ」
「いつから？」
「この街を出てから」

　辛抱強く、清子は話を聞いていた。
初めは、宗太郎は面倒くさがって、適当に言っているのだろう…
と、思っていたのだが。
じぃっと話を聞いているうちに、どうやらそれが本当のこと
らしい…
宗太郎を見ていたら、そう信じる他ない、と気が付く。
「ウソみたいだけど、本当の話なんだ」
信じてくれよ、と宗太郎はこの幼なじみの顔を見つめる。
うーん
清子は少し考えると、
「じゃあ、それって、どこの病院？」
　必要とあらば、そこの病院を探してみるのも、手だ…
半ば本気で、清子はそう考えた。