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第20章 森の奥
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突然現れたガラスの靴を、じぃっと女は見つめると、
「わかったわ」とつぶやく。
「私…あなたの言うことに従うわ」
話しかけているのは、誰?と相手を探すのだが、やはりその姿は
見当たらない。
大臣の息子は、刀のつかを握りしめると、鋭い目付きで辺りを
見回している。
その場で、ハンスだけが…一体何が起こっているのか、まったく
理解が出来ないようだ。
ポカンと口を開けたまま、ボンヤリと彼女のことを見ていた。
(そうか、みんなも見えていないんだなぁ)
エラは慎重に、身体をかがめる。
この声は、魔法使いのおばあさんの声だ。
おそらくは、どこかで身をひそめたまま、自分に向かって
話しかけているのだろう…
ゆっくりと腰をかがめると、ふぅ~っと息を大きく吐き出す。
本当いうと、まだ迷いがあるのだ。
1度は覚悟を決めたとはいえ、自分の決定に、自信はあるのか、
というと、まったくないのだ。
それでも心を決めて、ゆっくりと足元に、その靴を静かに置く。
そうして足を、スルリと滑り込ませる。
ヒンヤリとした、冷たくて固い感触が、足裏に伝わってきた。
「あぁっ!」
いきなりアナスタシアの口から、声が漏れる。
どうやらうっすらと…彼女のことを、思いだしたようだ。
「えっ、ちょっと待って!あなたは…」
どうして、と口の中でつぶやきながら、落ち着かない様子で、
エラの方を食い入るように見つめる。
可哀想な子だ…
アナスタシアは、その娘のことを、そう思っていた。
実は母親や、姉のドリゼラのように、彼女のことをバカにしていたわけでも、
嫌っていたわけでもないのだ。
彼女にとって、その娘は…新しい父親の単なる連れ子、という認識だったのだ。
(ただし頭の中に、まだモヤがかかっていて、はっきりとその顔立ちや
名前が、思い浮かぶわけではないのだ)
あの問題の靴を、再び奪って、代わりに自分が履こう…
などという発想は、彼女にはまったくない。
もとからアナスタシアには、そんなことをする大胆さもないのだ。
だがまさか、この瞬間に、もう1度、お目にかかれるとは思わなかった。
なので…これから何が起こるのだろう、と固唾を飲んで、見守っていた。
エラの足先が、靴の底に触れた瞬間…まるで吸い込まれるように、ぴたっと
靴の中に納まっていた。
「わかったわ」とつぶやく。
「私…あなたの言うことに従うわ」
話しかけているのは、誰?と相手を探すのだが、やはりその姿は
見当たらない。
大臣の息子は、刀のつかを握りしめると、鋭い目付きで辺りを
見回している。
その場で、ハンスだけが…一体何が起こっているのか、まったく
理解が出来ないようだ。
ポカンと口を開けたまま、ボンヤリと彼女のことを見ていた。
(そうか、みんなも見えていないんだなぁ)
エラは慎重に、身体をかがめる。
この声は、魔法使いのおばあさんの声だ。
おそらくは、どこかで身をひそめたまま、自分に向かって
話しかけているのだろう…
ゆっくりと腰をかがめると、ふぅ~っと息を大きく吐き出す。
本当いうと、まだ迷いがあるのだ。
1度は覚悟を決めたとはいえ、自分の決定に、自信はあるのか、
というと、まったくないのだ。
それでも心を決めて、ゆっくりと足元に、その靴を静かに置く。
そうして足を、スルリと滑り込ませる。
ヒンヤリとした、冷たくて固い感触が、足裏に伝わってきた。
「あぁっ!」
いきなりアナスタシアの口から、声が漏れる。
どうやらうっすらと…彼女のことを、思いだしたようだ。
「えっ、ちょっと待って!あなたは…」
どうして、と口の中でつぶやきながら、落ち着かない様子で、
エラの方を食い入るように見つめる。
可哀想な子だ…
アナスタシアは、その娘のことを、そう思っていた。
実は母親や、姉のドリゼラのように、彼女のことをバカにしていたわけでも、
嫌っていたわけでもないのだ。
彼女にとって、その娘は…新しい父親の単なる連れ子、という認識だったのだ。
(ただし頭の中に、まだモヤがかかっていて、はっきりとその顔立ちや
名前が、思い浮かぶわけではないのだ)
あの問題の靴を、再び奪って、代わりに自分が履こう…
などという発想は、彼女にはまったくない。
もとからアナスタシアには、そんなことをする大胆さもないのだ。
だがまさか、この瞬間に、もう1度、お目にかかれるとは思わなかった。
なので…これから何が起こるのだろう、と固唾を飲んで、見守っていた。
エラの足先が、靴の底に触れた瞬間…まるで吸い込まれるように、ぴたっと
靴の中に納まっていた。
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