おかえりなさい、シンデレラ(改訂版)

第18章 パン屋の王子様

１７

「１週間前？相手は誰だ？」
　すかさず、ハンスが言う。
「さぁ、どうだかなぁ」
はぐらかすように、ニヤリと笑うと、男はグラスを持ち上げて、
「あれ？もう、カラだなぁ」
カラカラとグラスを振ると、意味あり気にハンスに向ける。
仕方がないなぁ～
ハンスは、軽く手をあげると
「もう1杯、この人に頼む」
すかさずバーテンに向かって、声をかけた。

「まいど！」
　男はさらに目を光らせると、舌なめずりをするように、無遠慮な目で
彼女を見つめる。
「どうやら、こちらさん、訳ありのようだねぇ～
　あのオバサン、何やら物騒な話をしてたからなぁ」
ヘラヘラと笑うと、さり気ない調子で、ボソリと言う。
「ま、オレは…関係ないけどな！」
そう言うと、新しくコトンと置かれたグラスを軽く、目の高さに
持ち上げる。
「ま、早く見つかるといいな」
冷めたようにそう言うと、黙ってコップに口をつけると、そのまま
そっぽを向くので、ハンスはあわてて
「待ってくれ！どこへ行ったか、知らないか？」
男に向かって、声をかける。
せっかく、なけなしの金を払ったのだから、それなりの成果がないと困る、
とハンスはやっきになって、男の方を見た。

　男は、もう関係ないぞ…とチラリとハンスを見る。
「そうだなぁ」
もったいぶった調子で、ひと言言うと、値踏みするように、
ハンスとアナスタシアを見つめる。
それからそっぽを向くと、
「なんでも、王子に会いに行くと、とか言ってたなぁ」
さらりと言う。
「あれは…ちょっとヤバそうな感じだったなぁ」
ニヤリとすると、黒光りをする瞳を向けた。