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第18章 パン屋の王子様

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 彼とは毎日、市場で買い出しに行く時に出会った。
パン屋の息子だ。
気のせいかもしれないけれど…アナスタシアが買い物に行くと、
いつもオマケをくれるのだ。
時折売れ残りのクロワッサンや、フランスパンを分けてくれたりする。
こんなことをして、怒られたりしないのか、と思うけれども…
「パンは飽きるほど、見てるからねぇ。
 そんなに毎日食べなくても、平気なんだよ!」
と、何だかよく訳の分からないことを、ニコリとしながら言う。
 ときには、彼女のお金が足りなくて、困っている時も…
「じゃ、端数はいいよ」
などと、優しいことを言ってくれる。

 ここで美しい娘ならば…
(自分に気があるのでは?)などと、当然のように、受け止める
のかもしれないけれども。
アナスタシアは、自分の容姿には、もともと自信がないのだ。
赤毛だし、団子っ鼻だし、そばかすもあるし。
きれいなお母さんや、化粧上手な姉さんのドリゼラほどに、きれいではないので…
言われなくても、十分にわかっているのだ。
 そんな自分なのに、王子様の花嫁に…
などと母さんがもくろむのは、身の程知らずもいいところだ。
それはむろん、彼女は痛いほど、わかっていた。
 さらに言えば、むしろ自分には、こんな普通の男性が、1番お似合いだ…
そう言う風に、彼女は思っていた。
そうして今こうして、自分を見ているハンスが、
どうやら自分のことを、少なからず想っている…というのも、
すでに勘づいていた。

 彼女はわざと、そっぽを向くと…
「私、あなたと遊んでいるヒマなんてないのよ!」
ピシャリと言う。
「そうなの?何か手伝おうか?」
ところが全くへこむことなく、むしろ身を乗り出して、彼女のことを
見守っている。
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わざと大きくため息をついて、丸い目をハンスに向けた。
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