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第18章 パン屋の王子様

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 あのいなくなった”下女”のように、馬や馬車に乗れたら、
いいのだろうけれど…
残念ながら、どちらもアナスタシアは出来ないのだ。
この生活をし始めてから、よかったことは、少し体つきがスッキリ
してきたことと、青白かった顔色が、血色がよくなってきたことだ。
町まで行くのに、大体徒歩で1時間近くかかる。
本当はもっと早く着くのだろうけれど、足が悪いせいか、所々で
休憩するために、どうしてもそれくらい、かかってしまうのだ。
 その間姉のドリゼラが、お腹を空かせて待っているのでは…と、
彼女はとても気になるのだけれども。
こればかりは、どうしようもない。
 本来ならば、自分か姉かどちらかが、よい伴侶を見付けたら
いいのだろうなぁ~と、彼女もかすかに、思ってはいた。

 森の中を抜けようとしていると、こちらに近付いて来る馬車がある。
もしかして、あの人だろうか…と、アナスタシアは内心期待して、
ワクワクしながら歩いていると…
「おや?そこを歩くお嬢さんは、どこのプリンセスですかな?」
やけに元気な声が聞こえてきた。
 アナスタシアは真面目なので、こんな風にナンパされるのは、
慣れてはいないのだ。
(何 気取ったこと、言ってるの?この人!)
若干バカにしたように、声の方を振り向いた。
 馬車…といっても、貴族の乗るような、立派なものではない。
後ろに荷台がくっついているような、日常的に使う荷馬車だ。
 彼女はツンとした顔で、そちらを見ると、顔なじみの男性の顏を
見付けた。
「あらぁ~誰かと思ったら、ハンスじゃないのぉ」
思いっ切り大きな声でそう言うと…
先程までこわばっていた顔が、いきなりホッとほぐれるのを感じる。
ヘラッとした顔をしていると…
「王子じゃなくて、悪かったな!」
その男性は軽口をたたくけれども、実際は口元がゆるんでいる。
何だか嬉しそうに、へらぁ~とゆるんだ顔をしていた。
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