おかえりなさい、シンデレラ(改訂版)

第12章 いざ、突破！

５

「ね、名前は？」
　珍しく、しつこく食い下がる信子に、ついに根負けしたのか…
その若いメイドは、信子の服を畳みながら
「ミキと言います」
　まだ幼さの残る、丸いほっぺたの女の子は、顏を赤くしてそう言う。
「ミキ？
　えっ、可愛い名前～！」
　この子って、もしかして、日本人なの？
　瞳の色は、薄い茶色なんだけど…
どこの国の血が混じっているのかは、わからない。
（おとぎ話の世界とはいえ）
　くっきりとした眉と、丸くて大きな瞳、少し彫りの深い、くっきりとした
顔立ちだ。
（この子、まるでお人形さんみたい！）
あらためて、線の細い、薄い顔立ちの自分の顏をかえりみて…
羨ましく思う信子だ。


「ね、日本人なの？」
　思わず聞くと、案の定、へっ？という顔をする。
やはり違うのかなぁ～と、まだ事情ののみ込めない信子は、当てが外れて
少しガッカリするのだった。
　だけど、この新しいお付きの人に、心が救われる心地がする。
これも王子の粋な計らいなのだろうか。
信子は素直に、ありがたいと思う。
「ねぇ、ミキさん！
　ちょっとだけ、庭に出てみない？」
この子ならばきっと、付き合ってくれるだろう…と、思い切って信子は
誘ってみた。
「ダメですよぉ」
マーサさんに、言われたでしょ、と渋る口調をするけれど…
少し瞳が揺れている。
（もしかして…これはいける？）
「ね、ちょっとだけ！
　ねぇ、ほんの少しだけ」
人の良さそうな顔をしている、若いメイドに、拝むようにして、
信子はねだってみる。
　するとやはり、にらんだ通り…ピシャリと断ることは、出来ないようだ。
「うーん」と困ったようにうなると、しばらく目を泳がせている。
（やはりこの子は、自分の思った通りの人なのか？）
期待する瞳を向ける。
ミキは、ちらっと辺りを見回すと
「じゃあ、ほんの少しだけ！
　1人じゃあ、ダメですよ！
　私と一緒ならば、ちょこっとだけですよ」
根負けしたように、困った顔でそう言った。