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第10章 運命の歯車が回り始める

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「護衛の者を増やしましょうか?」
 大臣の息子は、王子と信子の空気を察して、声をかける。
彼はフェンシングの腕に、自信があったのだが…
ここはもっと、人手が必要だ…と悟ったようだ。
「いや、いい」
王子がそう言いかけて、あわてて口をつぐむ。
ふと不安そうにする、信子の顔に気付いたからだ。
黙ってじぃっと、こちらを見ているので、王子は信子をかえりみる。
「うん、そうだな。それで頼む」と言い直した。


 一方、約束を果たせずに、男はスゴスゴとうなだれて、女が待ちかまえて
いる森の入り口まで、戻って来ると…
マントをかぶり、人目を避けるようにして、乗り合い馬車に、身をひそめて
いる女が、男を待ちかまえていた。
なんだかあわてた様子で、戻って来た男を見て、
これはもしかして、何かしでかしたなぁ、とすぐに女はピンときた。
「で、どうだったの?」
馬車の中をのぞき込む男に向かって、女がせかすように聞く。
「もちろん、行ってきたよ。
 ちゃんと見て来た。
 …だから…約束の残りを払ってもらおうか」
ちゃっかりと、手を差し出した。
女はピシャリとその手をたたくと、
「何を言ってるの?
 どうせ、シッポを巻いて、逃げ出したんでしょ?」
にらみつけるようにすると、男は一瞬ビクリと肩をこわばらせた。
「やっぱりね」
納得したようにうなづくと、
「失敗した人に、渡す金など、ありません」
険しい目付きをして、ピシャリと言い放つ。
「えぇ~っ!」
男は情けない声を出すと、
「約束が違うじゃないかぁ」
男はくちびるを突き出す。
「王子と女の様子を探って来てくれ、という話だったろ?」
その目は、すきあらば奪ってやれという、小ズルイ色を帯びていた。
 すると女は、冷ややかな目で見返すと、
「見て来るだけなら、子供だって出来るでしょ?」と冷たく言い放つ。
「だって、王子だぞ?
 下手に手出しは出来ないだろ?」
何とか女をごまかそう…と、男はワンチャン狙っていたのだが、
どうもそれは難しそうだ…
ようやく男は、悟るのだった。
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