上 下
76 / 250
第8章 私を探して…

   9

しおりを挟む
「狭苦しくて、申し訳ない」
 信子の視線に気付くと、王子があわてて早口で言う。
「いえ、そんなぁ~大きいくらいですよ」
 とんでもない、と信子も手を振って答える。
おそらくだけど、たぶん私の家よりも…
反射的にそう言いかけて、自分の家はどうだっただろう、と信子は
頭をひねる。
(あれ、家?
 どうしてそんなこと…思ったんだろう?)
 家のことも、家族のことも、まるで覚えていない、というのに…
この家を見ていたら、何か懐かしい思いがする。
何だか自分の記憶を刺激されるような…そんな予感がしていた。
「へぇ~キミの家、こんな感じなのかぁ」
信子の様子には、王子は気付かない。
のんきな顔で、ひとり言を言うように、
「小さいけれど、意外と居心地もいいんだよなぁ」
ニッコリと微笑んだ。

 
 ここに、この人と一緒に、しばらく過ごすのか…
急にそう思いが至ると、信子の顏が熱くなる。
(もしかして、私…本当に、この王子様と一緒になるの?)
これまでに、そんなことを、これっぽちも考えていなかったなぁ~と思う。
「ここに住むの、いやかい?」
急に無口になった信子を見ると、てっきりこの家が気に入らないのか?
と王子は勘ぐり、ガッカリとした声になる。
「あのぉ~やっぱり、王子様も一緒に?」
念のため、確認してみよう…と聞いてみる。
もしかしたら、信子だけかもしれない。
 だが王子は軽くヘラリと笑うと、
「それは、もちろんだろ?」
婚約者を1人には出来ないし…
いともあっさりと、うなづく。
それを耳にして、信子は照れたように、モジモジとする。
顏を真っ赤にさせて、困ったようにうつむいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家に住み着いている妖精に愚痴ったら、国が滅びました

猿喰 森繁 (さるばみ もりしげ)
ファンタジー
【書籍化決定しました!】 11月中旬刊行予定です。 これも多くの方が、お気に入り登録してくださったおかげです ありがとうございます。 【あらすじ】 精霊の加護なくして魔法は使えない。 私は、生まれながらにして、加護を受けることが出来なかった。 加護なしは、周りに不幸をもたらすと言われ、家族だけでなく、使用人たちからも虐げられていた。 王子からも婚約を破棄されてしまい、これからどうしたらいいのか、友人の屋敷妖精に愚痴ったら、隣の国に知り合いがいるということで、私は夜逃げをすることにした。 まさか、屋敷妖精の一声で、精霊の信頼がなくなり、国が滅ぶことになるとは、思いもしなかった。

アラフォー料理人が始める異世界スローライフ

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日突然、異世界転移してしまった料理人のタツマ。 わけもわからないまま、異世界で生活を送り……次第に自分のやりたいこと、したかったことを思い出す。 それは料理を通して皆を笑顔にすること、自分がしてもらったように貧しい子達にお腹いっぱいになって貰うことだった。 男は異世界にて、フェンリルや仲間たちと共に穏やかなに過ごしていく。 いずれ、最強の料理人と呼ばれるその日まで。

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜

アーエル
ファンタジー
女神に愛されて『加護』を受けたために、元の世界から弾き出された主人公。 「元の世界へ帰られない!」 だったら死ぬまでこの世界で生きてやる! その代わり、遺骨は家族の墓へ入れてよね! 女神は約束する。 「貴女に不自由な思いはさせません」 異世界へ渡った主人公は、新たな世界で自由気ままに生きていく。 『小説家になろう』 『カクヨム』 でも投稿をしています。 内容はこちらとほぼ同じです。

倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~

乃神レンガ
ファンタジー
 謎の白い空間で、神から異世界に送られることになった主人公。  二重取りの神授スキルを与えられ、その効果により追加でカード召喚術の神授スキルを手に入れる。  更にキャラクターメイキングのポイントも、二重取りによって他の人よりも倍手に入れることができた。  それにより主人公は、本来ポイント不足で選択できないデミゴッドの種族を選び、ジンという名前で異世界へと降り立つ。  異世界でジンは倒したモンスターをカード化して、最強の軍団を作ることを目標に、世界を放浪し始めた。  しかし次第に世界のルールを知り、争いへと巻き込まれていく。  国境門が数カ月に一度ランダムに他国と繋がる世界で、ジンは様々な選択を迫られるのであった。  果たしてジンの行きつく先は魔王か神か、それとも別の何かであろうか。  現在毎日更新中。  ※この作品は『カクヨム』『ノベルアップ+』にも投稿されています。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

アナスタシアお姉様にシンデレラの役を譲って王子様と幸せになっていただくつもりでしたのに、なぜかうまくいきませんわ。どうしてですの?

奏音 美都
恋愛
絵本を開くたびに始まる、女の子が憧れるシンデレラの物語。 ある日、アナスタシアお姉様がおっしゃいました。 「私だって一度はシンデレラになって、王子様と結婚してみたーい!!」 「あら、それでしたらお譲りいたしますわ。どうぞ、王子様とご結婚なさって幸せになられてください、お姉様。  わたくし、いちど『悪役令嬢』というものに、なってみたかったんですの」 取引が成立し、お姉様はシンデレラに。わたくしは、憧れだった悪役令嬢である意地悪なお姉様になったんですけれど…… なぜか、うまくいきませんわ。どうしてですの?

殿下、人違いです。殿下の婚約者はその人ではありません

真理亜
ファンタジー
第二王子のマリウスが学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付けた相手は人違いだった。では一体自分の婚約者は誰なのか? 困惑するマリウスに「殿下の婚約者は私です」と名乗り出たのは、目も眩まんばかりの美少女ミランダだった。いっぺんに一目惚れしたマリウスは、慌てて婚約破棄を無かったことにしようとするが...

【完結】騙し打ちみたいで、その婚約は怒りますよ!〜両方の父親が勝手に出した婚約届け〜

BBやっこ
恋愛
男女の関係は、難しいと言うものの 急速に進むこともあるらしい。 今回は両方の父親の婚約者の届け出だけど。 想像、いや妄想していたあれこれをすっ飛ばし婚約へ? もっと恋人の時間を楽しみたかった、相手は彼で良いのだけどロマンチック不足が不満! 私が怒り出したのを恋人が、いや婚約者が諌める方法は…そして、家族は?

処理中です...