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メルディーナへようこそ②

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メルシティー、メルシティー

お降りの方は足元にご注意下さい~


リオラ達と別れ、更に三十分程経った頃。
漸く目的の場所に到着したようだ。
流れる音声と共に、フレイは自身の分の荷物だけを降ろし始めた。

「ケチ」と小さくぼやくと、凄い勢いで睨まれた。

どうやら聞こえてしまったらしい。

シロイは慌てて自分で荷物を下ろした。


長時間座っていた為、腰を摩りながら汽車の出口へと向かう。

途中、同年代の人が多く降車する為少し時間が掛かってしまった。


「は~、やっと着いた~。」

外に出て直ぐ、負担を掛けた腰を軽く伸ばす。

フレイもそれなりに溜まっていたのか、身体を捻っている。

「えっと、今日の予定は始業式だけ?だったよね?」

「よく知ってたわね、授業は明日からよ。」


きっと、もう僕はフレイに出来ない子だと思われている。

悔しい。

だが、今はそんな小さな事関係ない!

やっと魔法の勉強が出来るのだ!

この約一ヶ月間、フレイに魔法の基礎を教えて貰った。

しかし、「土を感じろ」やら「シュッてしてボーン」とか意味不明な事を言ってくる始末。

あれはもう教えるとかそんな次元じゃなかった。


「楽しみだな~魔法!」


今からウキウキが止まらない!
だが、そんな期待は直ぐ無くなった。

「そういえばあんた魔法使えないじゃない。習ったところでどうすんの?」

...そう、今迄筋トレに集中しすぎてその問題を忘れていたのだ。
 宛ら、鶏が鷹に飛ぶ教えを乞うものと同じ事。

時間が経てば解決すると思って、何も考えていなかった。


(ほんとだ。魔力が戻らなかったら魔法習っても意味ないじゃん。)


「...確か、反対側のに乗れば帰れるんだっけ?」


もう翡翠さんの元に帰ろう。
そして土下座して、また居候させて貰おう。

確か街のパン屋でバイト募集の広告を見たな。

「大丈夫よ。今帰らなくても定期試験に合格出来なかったら強制的に帰して貰えるわよ。」

「そ、それってつまり...」

そうなった場合に思い当たる事は一つしかない。

「退学ね。その場合バイトも就職も絶望ね!」


満面の笑みで答えるフレイ。
ただ、その笑みには悪意が含まれている事は嫌というほど分かる。

全然大丈夫じゃない。
確かに試験等ある事は冊子で見たような気がする。
でも、合格出来なかったら退学って..。

しかし僕は重要な事に気付いた。


(フレイでも合格してるんだから、僕が気にする必要ないじゃないか!)

何故こんな簡単な事に気付かなかったのか。
よし、一先ず退学はなさそうだな。



不安が消えた直後、いきなり足の脛に衝撃が走った。

フレイが思いきり蹴り上げてきたのだ。


「な、何するんだよ!」


つま先に鋼鉄でも入れているような硬さ。
シロイは耐えきれず座り込む始末だ。

「むかついたから。」


この娘は「むかつく」というだけで人を蹴るらしい。

(これも絶対翡翠さんに報告チクってやる。)

しかもこんな状況の僕を嘲笑い、どんどん先へ進んで行ってしまう。

慌てて、シロイは尋常じゃない痛みに耐えフレイの後を追った。

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