忘却の少年は、幸せを求めるが幸せにはなれない

麻呂マロン

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少女と母④

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眩しい光と共に意識は浮上した。

光源は窓から差し込む陽光。



そして、早々に鼻腔を突くのは焼き立てのパンの匂い。
とても美味しそうだ。



そろそろ起きなければ、とまだ寝起きの鈍い体に力を込める。



立ち上がって、直ぐ目に付いたのは昨夜皺がつかないように干しておいた制服。




「これ着ないとダメかな、、、」


こんな高級品自分が着ていいものなのか。


意を決して、ゆっくりと袖を通す。


驚く程にサイズは寸分違わず自分にピッタリだ。
採寸もしてないのにどうやって合わせたのだろう。


魔法、、、?チート過ぎるでしょ、、。



だが、これしきの事で驚いていたらここから先、身が持ちそうにない。






溜息を吐きながら、扉へと腕を伸ばした。





「翡翠さん、おはようございます」



いつもと同じ様に朝食を淡々と準備している背中。

昨夜の事もあり少し緊張する。


違和感なく言えただろうか。


「シロイ、おはよう。朝御飯出来てるよ」





「は、はい、頂きます」


だが、出迎えてくれたのはいつも通りの翡翠の姿だった。
まるで昨日の事はなかったようだ。


気にしていたのは、自分だけだったのだろうか。




何処か安心しつつ、いつも自分が座っている場所へと腰掛ける。


目の前には丁度いい具合に焼けたパンとお肉に野菜。

チーズは自家製のものだろう。
丁度いい焼き具合のパンの熱でトロリと溶け、独特の香りを放ち、実に食欲を誘う。



どれも手が込んでいて凄く美味しそうだ。



「いただきます」


やはり、いつもながら翡翠が作った朝食は絶品だ。

「そういえば、その制服似合っているじゃないかい!」


朝食の準備でバタバタしていた為、シロイの制服姿をしっかりと見ていなかったのだろう。


支度を終わらせた翡翠は、タオルで手を拭きながら改めてこちらじっと見つめてくる。

別にそこまでは問題は無い。


普段から馴染みの無い服装をしていたら誰でも注目するだろう。


当たり前だ。





??


一体いつまで見れば気が済むのだろうか、20秒くらいの沈黙が続いた。


そればかりか、翡翠さんの眼孔は瞬きする事なくどんどん広がっていく。




えっ、なんなんだ!?その目は!?

というかそんなに目開けてて乾燥しないのか!

何か可笑しいのか?



なんで何も喋らないんだ?


見られている、という緊張で汗がタラタラと身体から流れて来る。




やめてくれ!

僕は人にじっと見られるのが苦手なんだ!


って事はつい最近分かったのだが。



実をいうと、その原因を作ったのは翡翠だという事はシロイは知らない。





「そんなに見られると恥ずかしいです。」



遂にその眼力に耐えられなくなる。

照れ臭そうに頬を掻いて訴えるが、その思いは届かなかった。


もう、翡翠さんが何を考えているのか分からない。




はい、30秒経過、、、、40、41、42、43....




そして、漸く翡翠の目はゆっくりと瞬きを始めた。




もうやだ、、、怖い。

というか、何気に最長記録じゃない?これ。
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