虚像干渉

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3章

能力の開花と質

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 松尾からの電話を終えた後、昴は本部の入り口へと向かっていた。入口に着くと久遠が待っていた。見た限りでは何も武装せずに軽装で来ていた。昴はこれならば隊長に会わせても安全だろうと思った。
「久遠さんですね。ようこそ、隊長のもとへ案内させて頂く……」
久遠が話を遮ってきた。昴は話を遮られるのに慣れていた。昨日裕衣の電話の時に遮られていたからだった。
「昴か、随分と大きくなったな」
 久遠は全てを知っているようだった。そのことに昴は違和感を覚えた。そして、昴はすぐにその違和感の正体に気付いた。違和感の正体は久遠が全てを知っていたことにだった。なぜなら、久遠は虚像干渉を使えないはずだったからだ。
「久遠さん。あなたは虚像干渉を使えなかったんじゃないんですか。なのになぜ、全てを知っているんですか?」
「簡単だよ。僕は再び虚像干渉を使えるようになった。ただ、それだけのことだよ」
「なんで虚像干渉が再び使えるようになったのか教えてください。久遠さんがその能力を使えるのなら、僕も対応を変えなければいけませんし」
「そうだな、簡単に言うと志桜里の作った薬のことは知ってるよな。その中の無効不死という薬を飲むと、虚像干渉が使えるようになったんだ。後で志桜里に聞いたことなんだが、どうも不老不死の薬の中に虚像干渉を弱める力があったみたいなんだ。無効不死を作るときに、志桜里が僕のために虚像干渉を使えるように改良してくれてたんだ。志桜里の作った薬によって、僕はまた能力を取り戻したということだ」
「分かりました。久遠さんは虚像干渉を使えるんですね。どうしようかな、このまま隊長に会わせるのは危険だな……」
「いや、虚像干渉を使えるのは僕や難波、志桜里だけでないかな。実はもう一人いるんだ。それは昴、お前だ」
 昴は久遠が言っていることを理解できなかった。
 現に今昴は虚像干渉を使うことはできないし、使った試しも一度もない。
「そんなわけないじゃないですか。僕は虚像干渉なんて使えないですよ」
「いや、虚像干渉は本来誰でも使うことができるはずなんだ。ただ、その人に本当に変えたい過去があるのなら――特に昴、お前は使えるはずだ。志桜里の弟なんだからな」
 どこまで久遠が知っているのか気になったが、今はそれよりも自分に虚像干渉が使えるだろうという話に驚いていた。
「僕は本当に虚像干渉は使えませんって」
昴は未だに信じられなかった。そもそも志桜里の夫ということだけで、自分が久遠を信じていいのか悩んでいた。
「そこまで言うのなら昴、今から使えることを証明しようか。そうだな昴、お前の部屋で試してみよう。確か昴の部屋はこの辺りだったね」
 久遠は昴の部屋の前に立っていた。
 昴の部屋に来る途中に向日葵に会った。久遠は向日葵に「十分だけ時間をくれ」と、言って、今昴の部屋の目の前にいる。
「時間は十分だ。その間に使えることを証明してやる。まず、昴が知りたい、本当に変えたい過去を思い出すんだ。なるべく克明にな」
 昴は未だに信じていなかった。
「分かった。でも、余り思いつかないんだよな」
「そうか……なら志桜里が殺されそうになった時を深く思ってみて、もしかしたら、昴ならそれで過去に行けるかもしれない。志桜里はね、僕と違うんだ虚像干渉の能力の質が……裕衣は深く思うことで過去に行ける、僕は目を瞑らないと基本的には過去には行けない――でも僕と志桜里が視ることのできる過去、未来は変わらないけどね」
 昴は深く思っていた。志桜里が殺されかけたあの時のことを――そして……
「昴。あと三分しかない急げ」
 久遠がそう言った時、昴の虚像干渉が目を覚ました。
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