虚像干渉

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3章

盗聴器

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 コンコンコン……

「昴です……入ってもいいですか?」
「入っていいぞ」
 松尾は朝早くから起きていたのか、服も髪も全て整っていた。松尾の服は流石に私服ではなかった。しかし、昴と同様に昨日の黒い服とはかけ離れた色の服を着ていた。服は松尾の心情を表すかのように真っ赤な色をしていた。それもただの赤色ではなかった、トマトのように真っ赤だった。真っ赤に染められて作られたその服は、松尾のやる気を表していることに違いない――それだけ、今日久遠と会うことに熱意を燃やしていることが感じ取れた。
 椅子に深く腰をかけ机に向かっている松尾からは疲れを感じた。やる気はあっても昨日の今日だから松尾が疲れていてもおかしくはなかった。
「隊長、奴はいつ来るか分かりません、準備は万全でお願いします。それと、これまた僕の勝手なんですけど、一応俺たちの知りたい情報についての項目をまとめておきました」
 昴は昨日作った文書を松尾に渡した。松尾はその文書を受け取るや否や昴に質問した。
「昴、作ってくれたのは嬉しいが、後半はお前が聞きたいことじゃないのか」
 松尾はすぐに昴の質問について気が付いた。
昴はふつうの人なら、いや頭が良い人ですら分からないように自分の質問を紛れ込ませたはずなのに、松尾にあっさり見抜かれて驚きを隠せなかった。
「隊長、なんで分かったんですか初めて見せた文書ですよ。それに他と区別つかないでしょ」
 昴は文書を使われないのではないかと内心不安に思い焦り始めた。しかし、松尾が昴に言ったことは昴の驚きすらかき消した。
「実はな昴、ここだけの話なんだが、隊員たち全ての部屋に盗聴器を仕掛けてあるんだ。盗聴器と言えば聞こえが悪いが、これも隊員たちが外部に情報を漏らさないようにするためなんだ」
 昴は松尾の言葉を聞いて拍子抜けしていた。もし、松尾の言葉が本当なら……いや本当だろう機動隊の隊長が嘘を吐くはずがない、隊員たちの信用もかかっているんだから。だとすれば、昨日の昴の電話は全て松尾に聞かれていたことになる。
「それが本当なら、昨日の電話も知っているんですか。知っているとしたら……どこまで筒抜けになっているんですか?」
「悪いが昴の言うとおりだ。俺は全て知っている、昨日の電話の内容を……それにしてもお前の調査はすごいな、一人であれだけの情報を集めるだなんて」
 松尾は深く腰を下ろしていた椅子から立ち上がり、隣の机に置いてあるパソコンを取りに行った。松尾が先ほどまで座っていた所の机には資料が山積みになっていた。パソコンが置いてある机にはパソコン以外に松尾の私物が置いてあった。もちろん、家族の写真もそこにはあった。松尾は家族を大切にし、一番に考えていた。
 松尾は取ってきたパソコンの電源を入れると、立ち上がるまでの間、昴に話の続きをした。
「昴……電話の内容は全て聞かせて貰ったよ。今取ってきたパソコンの中には、全ての部屋の盗聴器のデータが入っている。昴は奴の妻志桜里の弟なんだってな。さすがに聞いたときは俺も驚いたよ。それで、お姉さんから情報は聞けたのか。詳しくは分からなかったから、お前の口から直接聞きたいな昴」
 松尾は立ち上がったパソコンに暗証番号をいれていた。昴の角度からは暗証番号を見ることはできなかった。たぶん、松尾は誰からも見ることができない角度を知っているのだろう。
「隊長の言った通り、僕は奴の妻の弟です。昨日聞けた話は難波を止めるために奴が考えている方法だけです。詳しくは今日直接聞いてと言われました。奴は志桜里の弟だといえば全ての考えを話してくれるだろうと、お姉ちゃんに言われました。それが資料の後半に書かれていることです。そう、隊長が気付いたところです」
「分かった。そういうことなら昴に今日は任せる。但し、情報を全て聞き出せよ。それと、昨日も言ったように初めは俺が奴と話をする、邪魔だけはするなよ」
「分かりました……」
 昴は松尾との話を終えて部屋から出た。
「はあ。それにしても話が全部筒抜けだったなんて。迂闊な真似はできないということか」
 昴は自分の部屋に戻る途中、洗濯機を見に行った。洗濯物自体は多くなかったため、すでに洗濯は終わっていた。昴は置いてあった籠に洗濯物を入れ自分の部屋に戻った。
 昴が洗濯物を部屋の物干し竿にハンガーにかけて干していると、内ポケットにしまってあった携帯電話が鳴りだした。森のくまさんが部屋の中に鳴り響いた。森のくまさんが流れたということは着信を意味していた。昴は焦って内ポケットにしまってあった携帯を取り出した。着信欄には松尾隊長と記されていた。
「はい昴です。どうしたんですか隊長?」
「奴が来たぞ、出迎えてやれ昴」
「分かりました」
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