虚像干渉

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1章

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 難波がいる中央国立国主会館に行くため車に戻った。
中央国立国主会館までは車で国立中央公園から二十分ほどかかる。しかし、爆撃された場所が此処から近いのか先ほどよりも道が崩れかけていたり、崩れていて危険な状態だった。
「くそっ」
小さく声をあげ舌打ちをした。
「とりあえず車で行ける場所までは行こうか」
中央国立公園を出て車で十分ほど走ったところで、人が一人歩けるほどしか道が残っていなかった。
「仕方ないな、此処からは歩いていくか」
車で行ければあと十分とかからずに目的地へ着けるが、歩くとなればその倍はかかってしまう。
「あと二十分はかかるな。難波が中央国立国主会館で、何をしているのか分からないが、急がないとやばいかな。少し走るか」
腕時計を見て僕は考えた。腕時計は夕方の五時を示していたが、空は青く、太陽からの日差しも、未だ弱まることを知らなかった。
「いくらなんでも夜遅くまで計画を実行したりしないよな。はあ、早く帰って家族で夜ご飯食べたいな」
難波よりも家族のことを考えたかったが、そうもいかなかった。
難波の親友は僕であり、僕の親友は難波であったからだ。
 走っていると、道が完全に崩れている場所へ出た。
「まじか。一番の近道のはずだったのに、仕方ない遠回りしていくか。待ってろよ難波、僕が今から止めに行ってやるからな。全世界を敵に回しても僕はお前の親友だ」
かっこつけてドラマなどでよく聞く台詞を言ってみたが後になって恥ずかしくなった。恥ずかしすぎて辺りを見渡したが、難波のことを恐れている人たちばかりで、此処にはもう誰も居なかった。
いや恐れ怯える人よりも、亡くなった人の方が多いのかもしれない。
遠回りをして走っていると、周りの光景に目を奪われた。右も左も車で通ってきた道よりも人の亡骸が多かった。この辺りは住宅街で溢れんばかりの人が住んでいた。幼い子供から年配のお年寄りまで、それは少子高齢化と言われている社会の中で、この街だけは幅広い層の人が住んでいた。
 どの亡骸も人間と見て分かるほどの原形を留めていなかった。僕が今まで見てきた亡骸の四割は体の原形を留めていなく、残りの六割はかろうじて体の原形と思われるものが見て取れた。
見ることのできるどの顔の表情も爆撃による恐怖でこわばっていた。僕もこの町で生まれ育った身で、近所付き合いも良かった僕を知らない人、僕が知らない人は殆どいなかった。しかし、原形を留めている亡骸も血だらけで、一目見ただけ、いや何度見直しても、それが誰なのかを知ることはできなかった。
そんな血の肉海で、亡骸の溢れた道に目を奪われ走っていると、目的の場所中央国立国主会館に着いていた。
ここにあるのは日本だけでなく、全世界のことについて書かれた歴史のある本から、最近発売されたばかりのライトノベルまで幅広くある、いわば図書館だった。でも、その辺にあるただの図書館ではない。
図書館とは名ばかりの地上五階、地下三階という計八階建て鉄筋コンクリートで作られている。全フロアにエアコンは完備され、本を探すのに便利なパソコンまである。フロアの階数が下がるほど、厳重な警備になっている。さらに、此処は読んだ本の数によってフロアを降りていくことができるという一風変わった制度を取り入れていた。
僕が初めてこの場所を知った時、中央国立国主会館という名前から、偉い人たちが集まり重大な会議をする場かと思っていた。
しかし、数週間後に足を運んでみるとただの図書館だった。ただのと言えば語弊があるが、図書館には変わりなかった。
会館の中に入った僕は、一目散に難波を探していた。
難波が此処に居ると国防省から聞いたが、一階にはいなかった。どこに居るのか分からなかったが、とりあえず各階をエレベータで回ってみることにした。
でも、そんなことをする必要はなくなっていた。エレベータのボタンを押すと電光板の矢印が上を指していた。此処のエレベータは階数がでないものだった。下から上がってくるエレベータを僕は待っていた。
難波がなぜ此処に居るのかと考えていると、すぐにエレベータは一階に来た。エレベータに乗ろうと歩き出した時、開いた扉の向こうから聞き覚えのある声が耳に届いた。
「久しぶりだな、ずっと久遠を待っていたんだ。久遠に俺の素晴らしい計画――第二フェーズを教えるために。その前に少しこっちに来てくれないか。お前はいつから警察の犬になったんだ? そうでないなら久遠、後つけられてるぞ。とりあえず、此処だと何かとぶが悪い、地下に行こう久遠、早くエレベータに乗るんだ。来るぞ警察が」
エレベータの扉が閉まってすぐ警察の声がした。
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