虚像干渉

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序章

久遠竜也

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 風になびくカーテンの隙間から差し込む眩い光が、僕を眠りから覚ました。
 いつもは心臓にまで響く目覚まし時計に驚かされて起きる目覚めの悪い朝だが、久しぶりに静かな空間を暖かく包み込む日の光を浴びた僕の目覚めはとても良かった。
 一人で寝るには無駄に広いベッドの上に胡坐をかき、散らかった布団を手に取り無造作に畳んだ。無駄に広いベッドなのは、それ自体が元々一人用に作られていない家具だからだった。僕の親は、僕に一緒に寝る相手がいないことを分かりながらもこのダブルベッドを選んだ。僕は買って貰う立場だったから何も口にはしなかったが、僕の予想どおりベッドを買ってから一度もそれが本来の目的を果たしたことはなかった。今となっては狭い部屋の一角を占めるだけの邪魔ものになっている。
 しかも寝相が悪いがために、毎朝散らかる布団を畳まなければいけなかった。そこに僕の綺麗好きな性格が混ざり、それを畳むのに十分以上もかけてしまっていた。僕はいつも布団を畳み終えると駆け足で階段を下りる。僕の場合は、起きるのが遅いという典型的な理由の急ぎではなく、かなりその枠から外れた遅刻ギリギリの理由がある。そう、それは何故か毎朝二人分の布団を畳まないといけないからである。
 ただ、今日はいつもと違って、台所に顔を出した時に母がちょうど朝ご飯の支度を終えたところだった。
「あら、今日は珍しく早いわね」
 僕と話しながらも、母は手を止めることなくテーブルの上に朝食を並べ始めていた。
 ご飯に味噌汁、そして焼き鮭、もはや定番ともいえる朝ご飯だった。母が朝食を並べている間に、僕はコップにお茶を注ぎ、二人分の箸を持って料理が置かれた前の席に座った。
「昨日の寝相が良かったのかな。布団畳むのが楽だったんだ」
「いつもそうならいいのにね。だって竜也も大変だよね。毎日同じことの繰り返しで、どうしたら寝相が良くなるのかしら。知りたいものね」
 母は僕の向かいに座り、一緒に朝ご飯を食べた。
 いつもは遅刻ギリギリのためパンを流し込むように食べて、すぐに身支度を済ませて母に「行ってきます」とだけ言って、返事を聞く前にすでに足が学校に向かっている。
 朝ご飯を食べている間に母と会話を交わすことはなく、僕は真向かいにあるテレビを眺めていた。
 僕の家ではテーブルがリビングの中央ではなく、壁の角に沿うように置かれている。壁とテーブルに囲まれた場所に僕はいつも座る。親にはそこは窮屈だとよく言われるが、僕はその窮屈な空間でも悪くないと思っている。僕は束の間の朝ご飯の時間に、ニュースを見て学校に行くのが日常的になっていて、その席がそのテレビを見るのに最適な場所だったからだ。
 今日も朝早くから生放送をしているニュースを見ていた。
 ニュースでは毎朝のように今の政治のままでは駄目だと政治評論家が出演して語っているが、結局のところは政治評論家一人が何を言おうが政治を変えることはできない。それを知りながらもテレビに出てまで語る評論家の考えることは僕には到底理解できない。
 しかし、ニュースを見ている人の立場からすれば、この人たちの言っていることはあながち間違ってはいないのだと思う。しかし、実際のところ国会議員や総理大臣にはそれなりの考えがあって政治を行っているのだから、評論家が一人ニュースに出て語っているようじゃ話にならない。
 僕自身、政治のことは良く分からないが先の人たちは頑張ってくれていると思う。ただもう少し国民の意見を取り入れ参考にすればいいのではないかと思うときもある。
 ニュースも毎日放送されるが犯罪を報道しない日はない。平和になりつつある日本でも未だに犯罪は減らない。誰もがいつ犯罪に巻き込まれてもおかしくない日々を過ごしているのだ。
 そんなことを考えていると朝ご飯を食べ終わっていた。母は僕から少し経って食べ終わった。
 母は自分が食べ終わると僕がすでに食べ終わっていることを確認し、自分と僕の分の食器をシンクに運び洗っていた。
 僕は学校へ行く準備を始めた。顔を洗って、歯を磨いて、トイレを済ませて、そして制服に着替える。全ての準備を終えると玄関に行き靴を履く。
「いってきます」
 そう母に学校へ行くことを伝えて家を出る。母はこの頃には既に食器洗いを終え、各部屋の掃除を始めている。
その掃除機はごみだけではなく僕の声までも吸い込んでいた。
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