どんなことも乗り越えようね

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番外編

花咲夢乃③

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「春人くん、大丈夫?」
 真っ先に怪我人へと駆け寄った花咲歩乃華が声を上げた。
 私は幼少期の春人の容姿しか知らなかった為、大きく成長した春人の姿は初めて見た。母が春人のことを一目見て判断できたのに私は違和感を覚えた。母も私と同じで春人には長い間会っていないはずだったからだ。
「お母さん……?」
 母は春人の意識は朦朧としているが、そこまで大きな怪我をしていないと判断すると、私にストレッチャーを用意させた。母が春人の肩に手を添えて、私が足首に手を掛けて春人を持ち上げてストレッチャーへと乗せた。
 助手席に母が乗り、私はストレッチャーを救急車へと運んだ。
 病院へ向かい始めた頃、微かに揺れる振動で春人が目を開けた。春人は私を見つめていた。まるで、忘れている何かを喉元まで声に出せそうなほど、思い出しているように思えた……

 病院の集中治療室で春人は手当てを受けていた。
 私は春人の手当てには参加しなかった。それよりも先に伝えたい相手がいた。
「……心乃」
 私は携帯を取り出し心乃に連絡をした。
「どうしたのお姉ちゃん?」
「心乃……春人くんが事故にあって集中治療室で今手当てを受けてるの。心乃、今から降りてこれる? 心乃?」
「……」
 心乃からの返事は無かった。ただ、心乃の息を切らす音だけが耳に届いた。階段を駆け下りる音も廊下を走る音も、段々と携帯から聞こえる音よりも大きくなっていた。
 集中治療室へと続く廊下の曲がり角から心乃の姿が見えた。
(心乃……泣いてないんだ。なんでかな、私の方が凄く泣きたいんだよ。心乃は強いんだね)
 泣いていない心乃を見て、自分が泣きたくなっている事に気づいた。
 心乃の事を一番大切に思って、幸せになって欲しいって思って、その願っていた心乃の幸せが壊れそうになっているのに、泣いていない心乃を見て、私は本当に心乃のことが一番大切で、心乃のことでも涙を流せることを知った。
「はぁ、はぁ……。お姉ちゃん、春人くん……春人くんは大丈夫なの?」
「電話が繋がって良かった。うん、軽傷ですんだけどね。でもね、心乃……」
 私は胸が苦しくなった。心乃は別れを告げる為に親の病院を使ったとはいえ、母親が反対した為にした行為であって、それに風邪を引いていたのは本当のことで、それを考えると私は心乃に春人が置かれている状況を話していいのか分からなかった。
「良かった。でも、でもねってなに?」
 私は深く息を吸って、心を落ちつかせた。
(今の心乃なら記憶喪失のことを話しても大丈夫だよね……)
 一つ自分に言い聞かせて口を開いた……
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