9 / 22
番外編
花咲夢乃③
しおりを挟む
「春人くん、大丈夫?」
真っ先に怪我人へと駆け寄った花咲歩乃華が声を上げた。
私は幼少期の春人の容姿しか知らなかった為、大きく成長した春人の姿は初めて見た。母が春人のことを一目見て判断できたのに私は違和感を覚えた。母も私と同じで春人には長い間会っていないはずだったからだ。
「お母さん……?」
母は春人の意識は朦朧としているが、そこまで大きな怪我をしていないと判断すると、私にストレッチャーを用意させた。母が春人の肩に手を添えて、私が足首に手を掛けて春人を持ち上げてストレッチャーへと乗せた。
助手席に母が乗り、私はストレッチャーを救急車へと運んだ。
病院へ向かい始めた頃、微かに揺れる振動で春人が目を開けた。春人は私を見つめていた。まるで、忘れている何かを喉元まで声に出せそうなほど、思い出しているように思えた……
病院の集中治療室で春人は手当てを受けていた。
私は春人の手当てには参加しなかった。それよりも先に伝えたい相手がいた。
「……心乃」
私は携帯を取り出し心乃に連絡をした。
「どうしたのお姉ちゃん?」
「心乃……春人くんが事故にあって集中治療室で今手当てを受けてるの。心乃、今から降りてこれる? 心乃?」
「……」
心乃からの返事は無かった。ただ、心乃の息を切らす音だけが耳に届いた。階段を駆け下りる音も廊下を走る音も、段々と携帯から聞こえる音よりも大きくなっていた。
集中治療室へと続く廊下の曲がり角から心乃の姿が見えた。
(心乃……泣いてないんだ。なんでかな、私の方が凄く泣きたいんだよ。心乃は強いんだね)
泣いていない心乃を見て、自分が泣きたくなっている事に気づいた。
心乃の事を一番大切に思って、幸せになって欲しいって思って、その願っていた心乃の幸せが壊れそうになっているのに、泣いていない心乃を見て、私は本当に心乃のことが一番大切で、心乃のことでも涙を流せることを知った。
「はぁ、はぁ……。お姉ちゃん、春人くん……春人くんは大丈夫なの?」
「電話が繋がって良かった。うん、軽傷ですんだけどね。でもね、心乃……」
私は胸が苦しくなった。心乃は別れを告げる為に親の病院を使ったとはいえ、母親が反対した為にした行為であって、それに風邪を引いていたのは本当のことで、それを考えると私は心乃に春人が置かれている状況を話していいのか分からなかった。
「良かった。でも、でもねってなに?」
私は深く息を吸って、心を落ちつかせた。
(今の心乃なら記憶喪失のことを話しても大丈夫だよね……)
一つ自分に言い聞かせて口を開いた……
真っ先に怪我人へと駆け寄った花咲歩乃華が声を上げた。
私は幼少期の春人の容姿しか知らなかった為、大きく成長した春人の姿は初めて見た。母が春人のことを一目見て判断できたのに私は違和感を覚えた。母も私と同じで春人には長い間会っていないはずだったからだ。
「お母さん……?」
母は春人の意識は朦朧としているが、そこまで大きな怪我をしていないと判断すると、私にストレッチャーを用意させた。母が春人の肩に手を添えて、私が足首に手を掛けて春人を持ち上げてストレッチャーへと乗せた。
助手席に母が乗り、私はストレッチャーを救急車へと運んだ。
病院へ向かい始めた頃、微かに揺れる振動で春人が目を開けた。春人は私を見つめていた。まるで、忘れている何かを喉元まで声に出せそうなほど、思い出しているように思えた……
病院の集中治療室で春人は手当てを受けていた。
私は春人の手当てには参加しなかった。それよりも先に伝えたい相手がいた。
「……心乃」
私は携帯を取り出し心乃に連絡をした。
「どうしたのお姉ちゃん?」
「心乃……春人くんが事故にあって集中治療室で今手当てを受けてるの。心乃、今から降りてこれる? 心乃?」
「……」
心乃からの返事は無かった。ただ、心乃の息を切らす音だけが耳に届いた。階段を駆け下りる音も廊下を走る音も、段々と携帯から聞こえる音よりも大きくなっていた。
集中治療室へと続く廊下の曲がり角から心乃の姿が見えた。
(心乃……泣いてないんだ。なんでかな、私の方が凄く泣きたいんだよ。心乃は強いんだね)
泣いていない心乃を見て、自分が泣きたくなっている事に気づいた。
心乃の事を一番大切に思って、幸せになって欲しいって思って、その願っていた心乃の幸せが壊れそうになっているのに、泣いていない心乃を見て、私は本当に心乃のことが一番大切で、心乃のことでも涙を流せることを知った。
「はぁ、はぁ……。お姉ちゃん、春人くん……春人くんは大丈夫なの?」
「電話が繋がって良かった。うん、軽傷ですんだけどね。でもね、心乃……」
私は胸が苦しくなった。心乃は別れを告げる為に親の病院を使ったとはいえ、母親が反対した為にした行為であって、それに風邪を引いていたのは本当のことで、それを考えると私は心乃に春人が置かれている状況を話していいのか分からなかった。
「良かった。でも、でもねってなに?」
私は深く息を吸って、心を落ちつかせた。
(今の心乃なら記憶喪失のことを話しても大丈夫だよね……)
一つ自分に言い聞かせて口を開いた……
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる