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番外編
水沢裕美
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仕事を終えた裕美は、大粒の雫を傘で受け流しながら小走りで家へと帰った。
傘で受け止められなかった雫は服を濡らしていた。裕美は玄関に滴り落ちる雫を眺めながら一息吐いた。
靴の中まで濡れていた足で家の中を歩いた。足跡がつくほど靴下は濡れていなかったが、髪から滴る雫は一定の間隔で跡を残していった。
「はぁ……」
裕美は再び一息吐いて、玄関の突き当たりにある居間の箪笥から服を取り出した。
濡れた服はドシっと鈍い音を立てて畳に落ちた。裕美は畳が濡れることは考えずに、ワンピースに着替えた。白い生地で作られ服は彼女の綺麗さを際立たせていた。ただ、彼女は綺麗と言われることが少ない。
今のワンピース姿で春人と並んで歩けば少し年の離れた姉弟と間違われるだろう。なぜなら裕美は幼い顔立ちをしている。だから、周りからはいつも可愛いともてはやされる。
服を着替え終わった裕美は、春人が雨に濡れて風邪をひかないようにタオルを玄関の隅に置いた。
それを置くと同時に春人の姿と懐かしい人影が見えた。
「ただいま、お母さん」
「おかえりなさい、春くん」
「お母さん……」
「二人とも身体冷えてるでしょ。お風呂入っておいで。春くん、先に入っておいで」
「分かった」
春人は母の言う通りお風呂に身体を温めにいった。
裕美は春人がお風呂に入るのを確認した後、春人が連れてきた女の子に話しかけた。
「寒かったよね。春くんがお風呂から出たら入っといで」
「ありがとうございます」
「でも、驚いたわね。春くんが女の子を連れてくるなんて。保育園以来かしらね」
「……」
女の子は何かを言おうとしたが、裕美には聞こえなかった。
「心ちゃんだよね?」
心乃は頷くことしか出来なかった。
「やっぱり。春くんは心ちゃんだって気づいてるの? 確か最後に会ったのは保育園の時だよね」
「ううん、多分気づいてないと思います。それに……私も春人くんも、お互いのことを好きなっちゃったんです」
心乃は頷いた後、そのまま俯いていた。
「心ちゃん。あの時は私たちが引き離しちゃって悪いことしたと思ってるの。でもね、私は別に春くんと心ちゃんが幸せになりたいって思うのなら付き合ってもいいと思うんだ。確かに、春くんと心ちゃんの関係を知ってる人からすれば反対も多いと思うよ。心ちゃんもそう思ってるんじゃない?」
「……はい」
「でもね、その関係は法律には触れないの。ただ、デメリットばかりを周りの人が取り上げるから、みんな諦めちゃうのよね。心ちゃんはどうなの? 諦められるの?」
「……ううん。私も春人くんのことずっと前から好きだった。今もそれにこれからも……だから私は春人くんと一緒に幸せになりたいです」
心乃は涙目になりながらも、服の袖で雫がこぼれ落ちないよう拭っていた。
「心ちゃん、よく言った。これだけは覚えておいてね、私たちは心ちゃんの味方だからね。それに、あなたたちを引き離したのは心ちゃんの両親なの。私たちは最後まで反対したんだけど……。やっぱり法律に触れなくても、デメリットばかりをみちゃうんだね大人って」
「でも、お母さんたちが味方でいてくれるだけで、私はとても嬉しいです。それに、とても心強いです。ありがとうございます」
「お母さんか……。あの子はなんていうんだろね……」
「お母さんお風呂上がったから、あの子を入れてあげて」
「うん。心ちゃん、今はまだ春くんには言わないほうがいいかもね」
「うん、そうですね」
心乃がお風呂にいくと、春人が不思議そうな顔で裕美を見ていた。
「お母さん、何の話してたの?」
「ん、お家の方に電話しないとねって話してたの。あの子に後で電話貸してあげね。私は先にあの子の家に電話してくるね」
裕美は春人を自室に戻るよう促し、心乃の家に電話を掛けた……
傘で受け止められなかった雫は服を濡らしていた。裕美は玄関に滴り落ちる雫を眺めながら一息吐いた。
靴の中まで濡れていた足で家の中を歩いた。足跡がつくほど靴下は濡れていなかったが、髪から滴る雫は一定の間隔で跡を残していった。
「はぁ……」
裕美は再び一息吐いて、玄関の突き当たりにある居間の箪笥から服を取り出した。
濡れた服はドシっと鈍い音を立てて畳に落ちた。裕美は畳が濡れることは考えずに、ワンピースに着替えた。白い生地で作られ服は彼女の綺麗さを際立たせていた。ただ、彼女は綺麗と言われることが少ない。
今のワンピース姿で春人と並んで歩けば少し年の離れた姉弟と間違われるだろう。なぜなら裕美は幼い顔立ちをしている。だから、周りからはいつも可愛いともてはやされる。
服を着替え終わった裕美は、春人が雨に濡れて風邪をひかないようにタオルを玄関の隅に置いた。
それを置くと同時に春人の姿と懐かしい人影が見えた。
「ただいま、お母さん」
「おかえりなさい、春くん」
「お母さん……」
「二人とも身体冷えてるでしょ。お風呂入っておいで。春くん、先に入っておいで」
「分かった」
春人は母の言う通りお風呂に身体を温めにいった。
裕美は春人がお風呂に入るのを確認した後、春人が連れてきた女の子に話しかけた。
「寒かったよね。春くんがお風呂から出たら入っといで」
「ありがとうございます」
「でも、驚いたわね。春くんが女の子を連れてくるなんて。保育園以来かしらね」
「……」
女の子は何かを言おうとしたが、裕美には聞こえなかった。
「心ちゃんだよね?」
心乃は頷くことしか出来なかった。
「やっぱり。春くんは心ちゃんだって気づいてるの? 確か最後に会ったのは保育園の時だよね」
「ううん、多分気づいてないと思います。それに……私も春人くんも、お互いのことを好きなっちゃったんです」
心乃は頷いた後、そのまま俯いていた。
「心ちゃん。あの時は私たちが引き離しちゃって悪いことしたと思ってるの。でもね、私は別に春くんと心ちゃんが幸せになりたいって思うのなら付き合ってもいいと思うんだ。確かに、春くんと心ちゃんの関係を知ってる人からすれば反対も多いと思うよ。心ちゃんもそう思ってるんじゃない?」
「……はい」
「でもね、その関係は法律には触れないの。ただ、デメリットばかりを周りの人が取り上げるから、みんな諦めちゃうのよね。心ちゃんはどうなの? 諦められるの?」
「……ううん。私も春人くんのことずっと前から好きだった。今もそれにこれからも……だから私は春人くんと一緒に幸せになりたいです」
心乃は涙目になりながらも、服の袖で雫がこぼれ落ちないよう拭っていた。
「心ちゃん、よく言った。これだけは覚えておいてね、私たちは心ちゃんの味方だからね。それに、あなたたちを引き離したのは心ちゃんの両親なの。私たちは最後まで反対したんだけど……。やっぱり法律に触れなくても、デメリットばかりをみちゃうんだね大人って」
「でも、お母さんたちが味方でいてくれるだけで、私はとても嬉しいです。それに、とても心強いです。ありがとうございます」
「お母さんか……。あの子はなんていうんだろね……」
「お母さんお風呂上がったから、あの子を入れてあげて」
「うん。心ちゃん、今はまだ春くんには言わないほうがいいかもね」
「うん、そうですね」
心乃がお風呂にいくと、春人が不思議そうな顔で裕美を見ていた。
「お母さん、何の話してたの?」
「ん、お家の方に電話しないとねって話してたの。あの子に後で電話貸してあげね。私は先にあの子の家に電話してくるね」
裕美は春人を自室に戻るよう促し、心乃の家に電話を掛けた……
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