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第三章 sugar sugar honey
【最終話】再びの春
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風が柔らかく吹いていた。
窓の外は春色に染まり、花壇に植えられた花が色とりどりに揺れている。
「そろそろ新入生が来ますね」
図書室の本を整理していた先生が時計を指さした。
「そうですね、がんばってきます」
着なれないスーツのネクタイをキュっと押えて蜜は姿勢を正した。
大学を卒業して念願の司書になった蜜が選んだのは大学に付属している図書館への勤務だった。
通学している学生だけじゃなく市民やあらゆる人たちに開放している図書館は、ひとの出入りも多く専門的なことを求められるらしい。その為の知識はたくさん学んできたつもりだ。
赴任して初めての春。
新入司書としてのデビューだ。
「そんなに緊張しなくてもいいですよ。あ、来ましたね」
今日は今年入学したばかりの高校生たちへのオリエンテーションの日だった。担任に付き添われてゾロゾロと廊下を進んでくる。
「おはようございます。どうぞよろしくお願いいたします」
頭を下げた周防と向き合う。
今朝も顔を合わせているのに他人のふりをするのはどこかむずがゆい。
つい数時間前は一緒にご飯を食べて、ちょっとだけイチャついていたからなおさらだ。
蜜が赴任したのは周防の勤務する学校とも提携している図書館だった。
さすが文武両道を目指しているだけあって進学率もものすごく高い。専門的な知識を必要としている学生たちはここへ通うとのことだった。
「初めまして。担当の佐藤蜜です。わからないことはどうぞ気軽に聞いてくださいね」
胸にかけたプレートを見て誰かがヒソっと囁いた。
「さとうみつだって」
「甘くて可愛い名前だよな」
社会人になってもきれいに整った顔立ちは変わらず、さらに磨きがかかったと言われる容貌を生徒たちがポワっとした瞳で見つめている。
周防はゴホっと軽い咳ばらいをすると「迷惑かけんなよ」と凄んだ。
「佐藤先生になんかしたらマジでぶっとばす」
ホントにやりかねないから気をつけてね、と心の中で思いつつ蜜はニコニコとした表情を崩さない。
「では使い方や施設の中を説明するのでついてきてください」
ゾロゾロと生徒を引き連れて館内を案内した。
その指に担任と同じ指輪が光っていることを誰が気がつくだろうか。
長い遠距離生活を終えてすぐに二人は同棲を始めた。
離れている間は忙しくてなかなか会えなかったけれど、気持ちは全然ぶれなかった。
だから当然のように一緒に暮らすことを決めた。
やっと罪悪感や距離を考えずにイチャつける今は甘いハネムーン中のようなものだ。首筋にあるキスマークをしっかりと締めたネクタイでごまかしている。
オリエンテーションは一通り案内をして元の場所に戻ってくると終了だ。
「何か質問などはありませんか?」
ぐるりと取り囲まれながら質問を受けると一斉に手が上がった。
「恋人はいますか?」
「高校生と付き合う気はありますか?」
図書館と全然関係ない質問が飛び交う。
「お前らふざけんなよ! 質問の意味が違うだろーが」
周防は牙をむくように生徒たちに吠えて、蜜はクスクスと笑いながらそれに答えた。
「恋人はいます。絶賛同棲中なので他の人に興味はありません。あと、高校生と付き合うつもりもありません」
チラっと指輪を見せながらきっぱりとお断りを入れると、うおーっと野太い声が上がった。男泣きらしい。
周防を見ると顔を赤くして照れているようだった。まさかこんなにハッキリと言われるとは思わなかったのだろう。
当たり前だろ、と蜜は思った。
高校生の時に周防を好きになってそれからずっと好きなまま。気持ちは深くなる一方だ。
周防以外を好きになることはないと思う。
一生ずっと周防に恋をしている。
甘いものが大好きで。かっこよくてアメフトを愛していて、獅子って強い名前を持っているくせに優しくてちょっと弱くて涙もろい。
そんなあなたが大好きだって毎日叫んでも足りないくらい、愛してる。
「じゃあ先生の恋人ってどんな人ですか」
さらにくいつく質問に蜜は微笑んだ。
「とっても素敵な人ですよ。好きすぎてメロメロです」
またしても断末魔の叫びが響き渡った。
周防は今にも抱きついてキスをしてきそうな勢いだ。今夜はきっと寝かせてもらえない。
「ですよね、周防先生」
「そーゆーわけだ。残念だったな」
勝ち誇った表情を浮かべる周防はまるで子供のようでおかしくなって笑ってしまう。
「つーわけでお前ら失恋決定。諦めてもう帰るぞ。はい進んで。行った行った~」
「え~じゃあ佐藤先生またねえ~」
追いやるように生徒たちを誘導する周防の指に自分の指をそっと絡めた。誰にも見られないように背中の後ろで。
「可愛い生徒たちですね」
「お前ほどじゃないよ」
外そうとした指をさらに絡め周防は囁いた。
「俺の恋人もめちゃくちゃ可愛くて最高。大好きなの」
周防は幸せそうに笑うとかすめるようにキスをした。
「蜜、愛してるよ」
「……ばか」
照れ隠しに背中を追いやって、生徒と戻っていくのを見つめている。振り返って小さく手を振る周防が愛おしくて仕方がない。
これからもずっとそばにいるから。
甘くとろけるように愛しあいましょう。
ぼくはずっとあなたに夢中だ。
fin
窓の外は春色に染まり、花壇に植えられた花が色とりどりに揺れている。
「そろそろ新入生が来ますね」
図書室の本を整理していた先生が時計を指さした。
「そうですね、がんばってきます」
着なれないスーツのネクタイをキュっと押えて蜜は姿勢を正した。
大学を卒業して念願の司書になった蜜が選んだのは大学に付属している図書館への勤務だった。
通学している学生だけじゃなく市民やあらゆる人たちに開放している図書館は、ひとの出入りも多く専門的なことを求められるらしい。その為の知識はたくさん学んできたつもりだ。
赴任して初めての春。
新入司書としてのデビューだ。
「そんなに緊張しなくてもいいですよ。あ、来ましたね」
今日は今年入学したばかりの高校生たちへのオリエンテーションの日だった。担任に付き添われてゾロゾロと廊下を進んでくる。
「おはようございます。どうぞよろしくお願いいたします」
頭を下げた周防と向き合う。
今朝も顔を合わせているのに他人のふりをするのはどこかむずがゆい。
つい数時間前は一緒にご飯を食べて、ちょっとだけイチャついていたからなおさらだ。
蜜が赴任したのは周防の勤務する学校とも提携している図書館だった。
さすが文武両道を目指しているだけあって進学率もものすごく高い。専門的な知識を必要としている学生たちはここへ通うとのことだった。
「初めまして。担当の佐藤蜜です。わからないことはどうぞ気軽に聞いてくださいね」
胸にかけたプレートを見て誰かがヒソっと囁いた。
「さとうみつだって」
「甘くて可愛い名前だよな」
社会人になってもきれいに整った顔立ちは変わらず、さらに磨きがかかったと言われる容貌を生徒たちがポワっとした瞳で見つめている。
周防はゴホっと軽い咳ばらいをすると「迷惑かけんなよ」と凄んだ。
「佐藤先生になんかしたらマジでぶっとばす」
ホントにやりかねないから気をつけてね、と心の中で思いつつ蜜はニコニコとした表情を崩さない。
「では使い方や施設の中を説明するのでついてきてください」
ゾロゾロと生徒を引き連れて館内を案内した。
その指に担任と同じ指輪が光っていることを誰が気がつくだろうか。
長い遠距離生活を終えてすぐに二人は同棲を始めた。
離れている間は忙しくてなかなか会えなかったけれど、気持ちは全然ぶれなかった。
だから当然のように一緒に暮らすことを決めた。
やっと罪悪感や距離を考えずにイチャつける今は甘いハネムーン中のようなものだ。首筋にあるキスマークをしっかりと締めたネクタイでごまかしている。
オリエンテーションは一通り案内をして元の場所に戻ってくると終了だ。
「何か質問などはありませんか?」
ぐるりと取り囲まれながら質問を受けると一斉に手が上がった。
「恋人はいますか?」
「高校生と付き合う気はありますか?」
図書館と全然関係ない質問が飛び交う。
「お前らふざけんなよ! 質問の意味が違うだろーが」
周防は牙をむくように生徒たちに吠えて、蜜はクスクスと笑いながらそれに答えた。
「恋人はいます。絶賛同棲中なので他の人に興味はありません。あと、高校生と付き合うつもりもありません」
チラっと指輪を見せながらきっぱりとお断りを入れると、うおーっと野太い声が上がった。男泣きらしい。
周防を見ると顔を赤くして照れているようだった。まさかこんなにハッキリと言われるとは思わなかったのだろう。
当たり前だろ、と蜜は思った。
高校生の時に周防を好きになってそれからずっと好きなまま。気持ちは深くなる一方だ。
周防以外を好きになることはないと思う。
一生ずっと周防に恋をしている。
甘いものが大好きで。かっこよくてアメフトを愛していて、獅子って強い名前を持っているくせに優しくてちょっと弱くて涙もろい。
そんなあなたが大好きだって毎日叫んでも足りないくらい、愛してる。
「じゃあ先生の恋人ってどんな人ですか」
さらにくいつく質問に蜜は微笑んだ。
「とっても素敵な人ですよ。好きすぎてメロメロです」
またしても断末魔の叫びが響き渡った。
周防は今にも抱きついてキスをしてきそうな勢いだ。今夜はきっと寝かせてもらえない。
「ですよね、周防先生」
「そーゆーわけだ。残念だったな」
勝ち誇った表情を浮かべる周防はまるで子供のようでおかしくなって笑ってしまう。
「つーわけでお前ら失恋決定。諦めてもう帰るぞ。はい進んで。行った行った~」
「え~じゃあ佐藤先生またねえ~」
追いやるように生徒たちを誘導する周防の指に自分の指をそっと絡めた。誰にも見られないように背中の後ろで。
「可愛い生徒たちですね」
「お前ほどじゃないよ」
外そうとした指をさらに絡め周防は囁いた。
「俺の恋人もめちゃくちゃ可愛くて最高。大好きなの」
周防は幸せそうに笑うとかすめるようにキスをした。
「蜜、愛してるよ」
「……ばか」
照れ隠しに背中を追いやって、生徒と戻っていくのを見つめている。振り返って小さく手を振る周防が愛おしくて仕方がない。
これからもずっとそばにいるから。
甘くとろけるように愛しあいましょう。
ぼくはずっとあなたに夢中だ。
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