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第三章 sugar sugar honey

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「気に入ってくれるといいんだけど」

「これ、」

 シンプルにラッピングされた重みのある箱を開けると、中には腕時計が入っていた。
 シルバーのベルトに星空のような深い色合いのダイヤル。下の方には小さな窓枠があって、それぞれ違う時刻を表している。

「お祝いに何がいいか悩んだけど、時計だったら使えるかなって。ワールドタイムが表示できるからどんなに離れていても同じく時間を刻めるだろ。どこにいたって一緒に時間が動くっていいなって」

 ほら、と周防は自分の腕も見せた。

「同じタイプの色違い。蜜のすむ場所と俺のいる場所が表示できるようにしてあるんだ」

 どちらの針もカチカチと同じリズムで動いている。周防と蜜の時間が並んで歩いているようだ。

「嬉しい」

 箱から取り出し手首に添えてみる。
 ラグジュアリーな濃紺は蜜の肌によく映えた。

「いいんですか? こんな素敵なものをもらっても」

「貸して」

 周防は時計を受け取ると蜜の手首にはめてパチンとバックルを止めた。ズシリとした重みが心地いい。

「うん、似合ってる」

 そのまま指先を唇に当てて囁いた。柔らかな感触が伝わってくる。

「蜜、一緒の時間を過ごしていこう。……ってサムイ?」

 照れ笑いをする周防に今すぐ抱きついてしまいたかった。

「やばい。嬉しい。どうしよう、今すぐハグしてキスしたい」

 この気持ちをうまく言葉にできない。
 周防の腕の中で蜜の時間も動く。どこにいても過ぎる時間は一緒だ。

「先生。ありがとう。すごく嬉しくて困ったな。早く2人きりになりたい」

「おいおい。せっかくの蜜からの甘えタイムが外って、もったいない事をしたな」

 ここが周防の家だったら今すぐにでも抱き合えるのに。
 残念ながらレストランで人の目があって、これから食事が始まるという場面なのだ。
 タイミングなあ……と周防はがっかりしている。

 でも安心してほしい。
 この愛おしい気持ちはすぐに消えそうもなく、食事を堪能してからでも充分与えられるものだから。

 前菜から運ばれてきた食事はオススメしてもらっただけあって、どれも美味しく満たされるものだった。丁寧に作られているのが分かる。
 お腹はいっぱいなのに最後のデザートまでペロリと食べてしまった。食後のドリンクを飲みながらもう一度腕にはめられた時計を眺めた。

「これから毎日使います。めちゃくちゃカッコいいし肌にしっくりはまりますね」

「見た時これだなって。蜜っぽいなって思ったけどほんとに似合ってる。喜んでもらえてよかったわ」

「先生のも素敵です」

 周防のものは周りに赤い差し色が入っていて、パワフルなイメージにぴったりだった。
 同じデザインなのに見た感じが全然違う。

「いつか同じ時間を合わせような」

「はい」

 その時こそはそばにいるということで。そう遠くない未来に叶うことを願っている。

 食事が終わるとすっかり夜になっていた。
 眼下にはキラキラと瞬く夜景が広がっている。あの中にいろんな人が生活していて、誰かを好きになったり愛し合っていると思うとすごく温かな光に見えた。

「先生」

 この時間が終わって欲しくなくて名前を呼んだ。
 生徒として出会って恋をして、周防といるときはずっと高校生だった。それが終わってしまった。
 これからは教師と生徒じゃない。制限がなく自由になって喜ばしいのにどこかさみしい。

「どした?」

「ううん。呼びたかっただけ」

「蜜に先生って呼ばれるのも終わりだな」

「……なんて呼べばいいんでしょうか」

「ん~レオ?」

「呼び捨てですか。それはちょっと」

「レオさん。レオくん」

「それもちょっと」

 みんなが呼んでいないものがいい。やっぱり先生が一番しっくりくる。

「しばらくは先生で」

「なんか悪いことしてるみたいだな」

 周防はおかしそうに笑った。
 
「でもいいよ、俺も先生って呼ばれるのが一番しっくりする」
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