sugar sugar honey! 甘くとろける恋をしよう

乃木のき

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第三章 sugar sugar honey

未来への一歩

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 待ち合わせの場所に行くとクラクションが鳴らされた。車の窓が開いて周防がこっちと手を振る。
 卒業して初めてのデートだ。

「ご卒業おめでとうございます」

「ありがとうございます」

 頭を下げると周防は感慨深そうに息をついた。

「そっかーもう高校生じゃないのか。早く卒業すればいいなって思ったりもしたけど、いざしちゃうと少し寂しいような」

「早くすればいいって思ってたんですか?」

 今まで一度もそんなそぶりを見たことがない。周防は眉を寄せると「まあねえ」と言葉を濁した。

「やっぱ隠れるようにしてるのがね、ちょっとだけアレだなあって思うこともあったかな」

 自分たちがどれだけ真剣に恋愛をしていると言っても、まわりはそう受け取ってくれない。ニュースで騒がれることもあるように教育者が生徒に手を出すのはタブーとされている。

 それでも一緒にいたくて付き合う道を選んだ。間違えてると思ったことは一度もない。周防が蜜を想ってくれている気持ちは本物だったし蜜だってそうだ。

「もう高校生じゃないから、なんだってできますよ」

 二人で歩いていても問題じゃない。休日に会うのも、ご飯に行くのもコソコソと隠れなくていい。
 悪いことをしていないのにうしろめたさを感じなくてもいいのだ。

 そういうつもりで言ったのに周防は頬を赤く染めた。

「大胆だね、蜜くん」

「へ?」

「なんだってできるって……会ってすぐに誘ってくるなんて」

「やっ、そうじゃなくて!」

 言わんとするところが分かってしまって慌てて手を振った。
 そういう意味じゃなくて、いや、それも含めてと言うか、でも今はそういうつもりじゃなくて。

 オタオタとする蜜をおかしそうに見ながら「うそ」と周防は笑った。

「わかるよ。もうふたりで出かけることに言い訳しなくていいってことだろ」

「わかってるなら意地悪言わないでください」

 唇を尖らせるとむにっとつままれた。

「焦る蜜を見たかっただけ」

「性格わるっ」

「ごめん。怒らないで笑ってな」

 ヘニャっと眉を落として困った顔を見せられたらそれ以上不貞腐れることが出来ない。この顔に弱いのだ。
 普段はかっこいい大人なのに途端に可愛さを出してくるなんて卑怯だ。胸がきゅうんと音を立てた。

「先生ずるいよ」

「なんで? なんもしてないだろー」

 わかってない周防は腑に落ちない顔をしている。
 自分の良さに無頓着すぎる。周防は蜜のことを心配だっていうけれど、それはこっちのセリフでもある。

「惚れたら負けっていうけど実感しますよね」

「俺なんて負けっぱなしだよ、あ、ついた」

 ゆっくりと山の中を走っていた車は一軒のおしゃれなお店に到着した。緑の中にぽつんとあるログハウス風の建物に明かりが灯り、お客様の到来を歓迎しているようだった。

「わ、いい匂い」

 食欲をそそる匂いが外まで漂って、早くおいでと誘っているようだ。

「気に入るといいんだけど」

 階段を上って頑丈そうな木の扉を開けるとすぐに暖炉が見えた。パチパチと盛んに燃えている火は本物で赤やオレンジの炎を爆ぜている。
 天井は高くどっしりとした梁に支えられ大きなファンがゆったりと羽を回していた。

「いらっしゃいませ」

 清潔な黒いエプロンに身を包んだ男の人が愛想のいい笑顔を見せた。

「ご予約の周防様ですね。こちらへどうぞ」

 案内されたのは窓際の席で、山から見下ろす海が夕焼けに染まる景色を堪能できた。出窓にはキャンドルが灯されゆらゆらとグラデーションを揺らす。

「素敵なお店ですね」

「俺も初めてなんだけど、ほかの先生方にいいお店はないかって聞いたらここをオススメされてさ。料理もおいしいって言うし、好きなものを頼んで」

 蜜の卒業祝いをするために探ってくれたと思うと頬が緩んだ。
 メニューを見るとステーキなどの洋食がメインらしい。おすすめのコースを頼むことにした。

 料理を待っている間に飲み物が届く。
 ノンアルコールのカクテルドリンクはまるで宝石箱のように煌めいて、飲むのがもったいないくらいだった。
 
「では改めて、卒業おめでとう」

「ありがとうございます」

 小さくグラスを合わせると口に含んだ。果実の甘酸っぱさと炭酸が喉を弾く感じがものすごく美味しい。

 向かい合って座って食事を待ちながらいろんなことを話した。
 周防たちのチームはかなりいい仕上がりになってきて、夏には海外遠征に行く予定らしかった。

「蜜と離れるのは寂しいけど、結局おれもあちこち行く羽目になるからあんま住む場所とか関係ないかもな」

 近くにいたって会えない時は多いし、きっとすれ違いも多い。今はお互い自分のことをがんばる時なんだろう。

「でもいつか一緒に住みたいって思ってるけど、そう言ったら重たい?」

 聞かれて急いで首を振った。

「全然! 先生がそう思ってくれてて嬉しい……いつかがあるなら、離れていてもがんばれそう」

「それは俺も一緒」

 周防は四角い箱を取り出すと、蜜の前へと差し出した。
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