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第三章 sugar sugar honey

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 自宅へ帰ると両親はすでにそろっていて、豪華な食事が用意されていた。全部蜜の好物ばかりだ。

「おめでとう蜜!」

 パパーンと高らかにクラッカーを鳴らされると三和がびっくりして泣き出した。慌てて慰める。

「もー何やってるんだよ」

「だって嬉しくて。お祝いにはパーンかなって、急いで用意したのに。ごめんね三和」

「でもありがと。三和一緒にふーってしよっか」

 ふーだよ、と教えると泣き止んで、やる気満々になった。
 抱っこしながら一緒にケーキのろうそくを吹き消した。まるで誕生会のように華やかだ。三和はすっかりご機嫌になっている。

「にーちゃんおめでと!」

「ん~三和ありがとーなあ」

 あまりの可愛さにホッペにちゅっちゅしていたらカメラのシャッターが切られて、見ると父がスマホで連写していた。母は動画を撮っているらしくじっとスマホを抱えたままだ。

「お父さんも母さんもなにやってんだよ」

「いや、君たちの可愛さについ」

 こういうのどかな一家団欒ももうすぐ最後になるのか。周防に言われた言葉を思い出す。そうだ、いまのうちにたくさん親孝行しておこう。

 テーブルを囲んで4人でお祝いをした。
 どれもおいしくておなか一杯になってもケーキを食べた。みんな楽しそうに笑いあっている。
 この家族でよかった。

 部屋に戻ると太一や裕二からもお祝いのメッセージが届いていた。二人ともこれから試験が待っているのに、心から喜んでおめでとうを言ってくれた。
「蜜に続くぞ~」「おお~」とノリがいい。

 そしてリサさんからも。

 実はあの時、なかなか関係の進まない周防と蜜の背中を押すために当て馬になってくれたのがリサさんだったそうだ。

「そんな時はヤキモチ大作戦。誰かの存在をみせつければ一発よ」と提案され、みんながそれに乗ったという。

 後から太一が申し訳なさそうに教えてくれた。
 勝手に話してごめんと。いつまでも一歩が出せない二人の応援をしたかったと頭を下げた。

 リサさんも高校の時の先生と付き合って長いという。しかも相手は女性で、境遇が似ているからよくわかると言った。

「わたしも先生が大好きで、隠れてつき合ってきたからわかるよ。しんどいことも多いし、先生にたくさん負担をかけて負い目を感じたりね。でもそれを乗り越えたら強いきずなが出来るからがんばって」

 今は同棲し、結婚も視野に入れているとリサさんは話してくれた。
 結婚なんて考えたこともなかったけれど、付き合った先にそういう選択もあるのだとリサさんは先駆者の背中を見せてくれる。

 初めて会ったのに姉にように感じたのは、そういうところからだったのかもしれない。

 周防から電話が来たのはかなり遅くなってからだった。

「遅くなってごめんな。お祝いしてもらった?」

「はい、すごいご馳走でした。あと友達からも連絡が来ていて、ぼく、みんなに愛されてるんだなあってしみじみしちゃって」

 蜜が困ったときに助けの手を伸ばしてくれて、いいことがあった時はわがことのように喜んでくれる。
 そんな友達に出会えたことはまるで奇跡のようだと思う。

「ほんとにみんなのこと大好きだなあって改めて」

「そうだな。蜜がいつも一生懸命だからみんな応援したくなるんだよな。でも一番蜜を想ってるのが俺だって忘れてない?」

「ふふ。先生にも愛されてるなあって思ってますよ」

「本当? わかってる? 蜜が思ってる以上かもしれないよ。今度会った時に実践してみせるわ」

「ばか、エロ教師」

 そう言いながら、実際は大切にしてくれていることも知っている。
 あの時以来も何度か泊まりに行ったけれど、周防は無理に関係を進めようとはしなかった。キスをしたり少しだけ触りあう程度で、最後までしていない。
 それはとりあえずのケジメらしく卒業まで待つそうだ。
 あれだけヤラしいことをしているくせに、それとこれはまた違うという。

「エロ教師って言われたからには期待に応えないとな」

 周防はビデオ通話に変えると「顔見せて」とおねだりをした。

「可愛い蜜を見せて」

 小さな画面の中に周防の顔が現れる。今日もかっこよくてうっかり見惚れてしまった。

「誰もこない?」

「……と思いますけど、何するつもりですか?」

「ん? なんか俺の事以外を想っていたからお仕置きかなって」

 声に艶が増す。いつも周防の家で二人きりの時に耳に吹き込まれる声だ。やらしくて色っぽくてすぐに蜜をとろとろにする声。

「ヤダ」

「じゃないよ。脱いでみて?」

「バカ変態教師」

「えー。じゃあ俺が脱ぐから見てて」

 言うとスルスルとジャージを脱いで筋肉質な身体を惜しげもなく画面にうつした。さすがに下は履いていたけど、画面に近寄られるとめちゃくちゃ恥ずかしい。

 挙動がおかしくなって視線をさまよわせると「蜜」と呼ばれた。

「俺の事だけ見て」

「……見てる」

「触る?」






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