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第三章 sugar sugar honey
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広めの1Kの部屋にはそれなりに家財道具もそろっていたし自炊している形跡があった。
「先生料理作れるんですか?」
「それなりにな。体が資本だし、栄養の取り方とかもアドバイスできるから色々勉強してるところ」
今夜の食事は周防が手作りをふるまってくれるそうだ。何が出てくるのか不安半分楽しみ半分という感じ。蜜はあまり得意ではないから料理のできる人はすごいと思う。
「そうだ。ゆめのやのお菓子持ってきました。デザートにどうぞ」
なかなか通えないと嘆いていたので詰め合わせて持ってきたのだ。渡せてよかった。周防は感激のあまり言葉を失っている。なにもそこまでと思ったけれど、喜んでくれるならよかった。
「マジ! 蜜天使! ありがとう。これで遅くに帰ってきてもご褒美があるから乗り越えられそう」
「そんなに喜んでもらえるなら今度はもっと持ってきますよ」
蜜は部屋を見渡すと、ここで周防が毎日生活しているのかと密かに感動していた。
今まで蜜の家はまるっとバレていたのに周防のプライベートは何も知らないままだ。こうして中に入れてもらえたのが嬉しい。先に青木や他の生徒たちも来ているのかと思えば少し憎たらしいけど。
「そういや、さっきの話だけど青木が夜に来たって何? そんなこと言ったっけ」
まるで心を読んだようなタイミングだった。言葉に詰まったけれど、正直に口に出した。
「前に先生から電話が来た時にすぐそばで名前を呼ぶ声がして。そのあとすぐに電話を切りましたよね」
「それさ、勘違いだわ」
勘違いとは。あれだけはっきり聞こえた声が幻聴だとでも?
ムッとする蜜に「違うそっちじゃなくて」と慌てて訂正が入る。
「あの時家じゃなくて寮の方にいたんだわ。遠くからきてる選手も多くて、みんな寮暮らしなんだよ。で、練習中に怪我した奴を救急病院に連れて行って、診察につき合って、やっと寮に連れて帰って」
「寮……」
「そう。俺たちも泊れる部屋があってな。疲れたからそのまま泊まることにしたんだ。で、やっと電話が出来たと思ったらゴタゴタが起きて呼ばれたんだよな」
「そう、なんですか……じゃあ誰もここに連れてきていない?」
「あったり前だろ。なんで他の奴なんか入れなきゃなんないの」
「……前にもこのやり取りありましたよね?」
「あったな」
蜜が車で送ってもらった時のことだ。
他の生徒にもこんなことをしているのかという蜜に「なんで俺がそんなことをしなきゃならんのよ」と周防は言ったのだ。
それは蜜だけが特別ってことで。今もそうだっていうことで。
「じゃあぼくだけ?」
「蜜だけ」
熱い視線に見つめられて目を閉じた。
触れる唇が柔らかく蜜を溶かしていく。ずっとしたかった。抱きしめあって好きって気持ちをそのまま混ぜ合いたい。
すぐに舌が潜り込んできて大人のキスに変わっていく。
今夜こういうことをするつもりなんだと意思表示を受け入れる。蜜も真似るように舌を絡めていった。
「……んっ」
息が苦しくて口を離すと、ふ、と息がかかった。
「鼻で息して」
「鼻」
「そう」
もう一度繰り返す。まるでシロップのように甘い唾液がお互いの口の中で混ざり合ってぐちゅぐちゅととろけた。いつまでも味わっていたくなる。
でもやっぱり呼吸がうまくできなくて体を離すと、2人の息があがっていた。唇がヒリヒリしている。
「ごめんがっついた」
ふるふると首を振る。周防だけじゃない、蜜だってもっとして欲しくて先を望んでいた。
「お風呂入るだろ。今お湯を張ってくるからまってて。ずっとグラウンドにいたから砂埃がすごいんだ」
周防は立ち上がるとバスルームに消えて、しばらくしてお湯をためる音がした。戻ってくると新しいタオルと買ったばかりの下着を渡してくれる。
「ゆっくり入っておいで。その間に食事の用意をしてるから」
「先生は?」
「なーにー一緒に入りたいの?」
ニヤニヤと返されて「違うから」と即答した。
「先生が先にどうぞって意味です」
「いえいえ~蜜からどうぞ。覗かないと思うから安心しろ」
「ばか。覗き厳禁ですからね」
タオルを持ってバスルームに行くとちょうどお湯がたまったところだった。
周防の家の風呂に入っていると思えばすごく不思議な気分だった。これからどうなるんだろう。
もし周防が求めてくれたら応えるつもりだ。
蜜こそ周防ともっと深く結ばれたい。でも不義理なことはしたくないと言っていた気持も尊重したい。
いいや。なるようになれだ。
「先生料理作れるんですか?」
「それなりにな。体が資本だし、栄養の取り方とかもアドバイスできるから色々勉強してるところ」
今夜の食事は周防が手作りをふるまってくれるそうだ。何が出てくるのか不安半分楽しみ半分という感じ。蜜はあまり得意ではないから料理のできる人はすごいと思う。
「そうだ。ゆめのやのお菓子持ってきました。デザートにどうぞ」
なかなか通えないと嘆いていたので詰め合わせて持ってきたのだ。渡せてよかった。周防は感激のあまり言葉を失っている。なにもそこまでと思ったけれど、喜んでくれるならよかった。
「マジ! 蜜天使! ありがとう。これで遅くに帰ってきてもご褒美があるから乗り越えられそう」
「そんなに喜んでもらえるなら今度はもっと持ってきますよ」
蜜は部屋を見渡すと、ここで周防が毎日生活しているのかと密かに感動していた。
今まで蜜の家はまるっとバレていたのに周防のプライベートは何も知らないままだ。こうして中に入れてもらえたのが嬉しい。先に青木や他の生徒たちも来ているのかと思えば少し憎たらしいけど。
「そういや、さっきの話だけど青木が夜に来たって何? そんなこと言ったっけ」
まるで心を読んだようなタイミングだった。言葉に詰まったけれど、正直に口に出した。
「前に先生から電話が来た時にすぐそばで名前を呼ぶ声がして。そのあとすぐに電話を切りましたよね」
「それさ、勘違いだわ」
勘違いとは。あれだけはっきり聞こえた声が幻聴だとでも?
ムッとする蜜に「違うそっちじゃなくて」と慌てて訂正が入る。
「あの時家じゃなくて寮の方にいたんだわ。遠くからきてる選手も多くて、みんな寮暮らしなんだよ。で、練習中に怪我した奴を救急病院に連れて行って、診察につき合って、やっと寮に連れて帰って」
「寮……」
「そう。俺たちも泊れる部屋があってな。疲れたからそのまま泊まることにしたんだ。で、やっと電話が出来たと思ったらゴタゴタが起きて呼ばれたんだよな」
「そう、なんですか……じゃあ誰もここに連れてきていない?」
「あったり前だろ。なんで他の奴なんか入れなきゃなんないの」
「……前にもこのやり取りありましたよね?」
「あったな」
蜜が車で送ってもらった時のことだ。
他の生徒にもこんなことをしているのかという蜜に「なんで俺がそんなことをしなきゃならんのよ」と周防は言ったのだ。
それは蜜だけが特別ってことで。今もそうだっていうことで。
「じゃあぼくだけ?」
「蜜だけ」
熱い視線に見つめられて目を閉じた。
触れる唇が柔らかく蜜を溶かしていく。ずっとしたかった。抱きしめあって好きって気持ちをそのまま混ぜ合いたい。
すぐに舌が潜り込んできて大人のキスに変わっていく。
今夜こういうことをするつもりなんだと意思表示を受け入れる。蜜も真似るように舌を絡めていった。
「……んっ」
息が苦しくて口を離すと、ふ、と息がかかった。
「鼻で息して」
「鼻」
「そう」
もう一度繰り返す。まるでシロップのように甘い唾液がお互いの口の中で混ざり合ってぐちゅぐちゅととろけた。いつまでも味わっていたくなる。
でもやっぱり呼吸がうまくできなくて体を離すと、2人の息があがっていた。唇がヒリヒリしている。
「ごめんがっついた」
ふるふると首を振る。周防だけじゃない、蜜だってもっとして欲しくて先を望んでいた。
「お風呂入るだろ。今お湯を張ってくるからまってて。ずっとグラウンドにいたから砂埃がすごいんだ」
周防は立ち上がるとバスルームに消えて、しばらくしてお湯をためる音がした。戻ってくると新しいタオルと買ったばかりの下着を渡してくれる。
「ゆっくり入っておいで。その間に食事の用意をしてるから」
「先生は?」
「なーにー一緒に入りたいの?」
ニヤニヤと返されて「違うから」と即答した。
「先生が先にどうぞって意味です」
「いえいえ~蜜からどうぞ。覗かないと思うから安心しろ」
「ばか。覗き厳禁ですからね」
タオルを持ってバスルームに行くとちょうどお湯がたまったところだった。
周防の家の風呂に入っていると思えばすごく不思議な気分だった。これからどうなるんだろう。
もし周防が求めてくれたら応えるつもりだ。
蜜こそ周防ともっと深く結ばれたい。でも不義理なことはしたくないと言っていた気持も尊重したい。
いいや。なるようになれだ。
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