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第三章 sugar sugar honey
初めての夜
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「ちゃんと待ってたな」
後部座席にいる蜜を確認すると安堵するような微笑みを見せた。
「コンビニに寄っていい? さすがに俺の下着とかじゃサイズも合わないし色々買っていこ。ご飯もあるものでいいか?」
「ほんとに行っていいんですか?」
「いいよ。散らかってるけどそれは勘弁な」
車は知らない街を走る。
周防が暮らしている場所なんだとキョロキョロと車窓の景色を楽しんでいるとバックミラー越しにこちらを見ている視線とぶつかった。
「車に乗ってるときの蜜って子供みたいだよな」
クスクスと笑っているけどバカにしてるわけじゃないんだろう。
「だって面白くないですか? 知らない街なのにいつもみるチェーン店があったり、見たことのない景色なのに同じように生活している人がいたり。なんか生きてるんだなって」
「え、そんなすっげースケールのでかいこと考えてたんだ」
信号が赤に変わると周防は後ろを振り返った。日に焼けて真っ黒になった顔が楽しそうに笑っている。
「じゃあ俺が何を考えてるかわかる?」
「おなかすいたなーとか、ご飯何にしようかなーとかですか」
「なんだいその食欲魔人は。そんな卑しい人に見えんのか」
「見えてますね」
うそ。
多分同じことを考えてる。
一緒に過ごすこれからにドキドキしているはずだ。言えば自意識過剰って笑われるかもしれないから黙っておくけど。
初めて一緒に過ごす夜なのだ。
「そういうことにしておくか。知ったら嫌いになるかもしれないし」
「なりません」
「ホント? じゃあ、あとで教えるわ」
いつもよりテンションが高くて周防も緊張しているのかなと思った。
大人だから慣れているのかもしれないけど、こういうのってどこか気恥ずかしくて落ち着かなくなる。
コンビニで歯ブラシや下着セットをかごに入れると、会計の前に蜜は車へと追いやられた。
「他にも適当に買い物するから先に車で待ってて」
「一緒に買いますよ」
「……いーから。ここは大人に任せて」
押し切らえるように車に戻ると、スマホにいくつかのメッセージが届いていた。太一からだった。
『がんばれ!』とたった一言。
先に帰ってほしいと連絡をしたとき、太一はすごく嬉しそうだった。こんなに不義理をしてしまったのに怒りもしないで。
帰ったら何かご馳走しないとなあとスマホを眺めていたら戻ってきた周防に見咎められた。
「誰から?」
「太一からです。もう帰り道の途中だって」
「あとは?」
リサのことを気にしているのかと思ったら急にかわいく思えてきて、ほら、とスマホを見せた。
「あとは裕二から。めっちゃ景色の綺麗な場所があったって写真が送られてきました」
「ああ、今度行ってみよっか」
画面を見ながら提案されて「今度」という響きに顔をあげた。
「ほんと? 一緒に行ってくれるの?」
「当たり前だろ。蜜以外に誰と行くっつんだよ。こっちきてから学校と家の往復くらいでどこも行ってないんだよな。一緒に色々行ってみようぜ」
「行く! 行きたい」
後部座席から身を乗り出すと、チョイチョイっと指に誘われた。
「いつまで後ろに座ってんの。そろそろ隣においで」
学校からだいぶ離れたしもう大丈夫。
もし見られても誰も蜜のことを知らないから隠れることはない。
「あ、うん、へへ」
照れ笑いを浮かべながら助手席に移動するとやっといつもの距離に戻れた。ここしばらく感じていた不安が嘘のように消えていく。
シートベルトを締めるのをじっと見ていた周防も同じことを思っていたらしかった。
「やっと蜜に会えたって感じ」
「……ぼくもそう思ってました。先生」
視線が絡み合う。
だけどここはコンビニの駐車場で、さすがにキスをするわけにもいかない。
「早く帰ろう」
周防は真顔になると急いでエンジンをかけた。
この先の信号が全部青だったのは誰かが蜜たちの気持ちを汲んでくれたからかもしれない。
周防の住むマンションはこじんまりとして、小さな庭もついているような庶民的なところだった。
ベランダに朝顔の鉢が置かれているから、小学生が住んでいるのだろう。
「一階に住んでいる人は庭いじりもできるって楽しんでいるみたいだけどな。なんかそういうのがホッとするなってここに決めたんだ」
エレベーターはなく三階まで階段で昇る。
コンクリートの硬質さも和らいで見えるのは窓から見える景色がのどかだからか。
「大家さんが緑好きみたいで、結構木が植えてあって面白いだろ」
まるで実家のようで安心するんだよなと周防は笑った。
後部座席にいる蜜を確認すると安堵するような微笑みを見せた。
「コンビニに寄っていい? さすがに俺の下着とかじゃサイズも合わないし色々買っていこ。ご飯もあるものでいいか?」
「ほんとに行っていいんですか?」
「いいよ。散らかってるけどそれは勘弁な」
車は知らない街を走る。
周防が暮らしている場所なんだとキョロキョロと車窓の景色を楽しんでいるとバックミラー越しにこちらを見ている視線とぶつかった。
「車に乗ってるときの蜜って子供みたいだよな」
クスクスと笑っているけどバカにしてるわけじゃないんだろう。
「だって面白くないですか? 知らない街なのにいつもみるチェーン店があったり、見たことのない景色なのに同じように生活している人がいたり。なんか生きてるんだなって」
「え、そんなすっげースケールのでかいこと考えてたんだ」
信号が赤に変わると周防は後ろを振り返った。日に焼けて真っ黒になった顔が楽しそうに笑っている。
「じゃあ俺が何を考えてるかわかる?」
「おなかすいたなーとか、ご飯何にしようかなーとかですか」
「なんだいその食欲魔人は。そんな卑しい人に見えんのか」
「見えてますね」
うそ。
多分同じことを考えてる。
一緒に過ごすこれからにドキドキしているはずだ。言えば自意識過剰って笑われるかもしれないから黙っておくけど。
初めて一緒に過ごす夜なのだ。
「そういうことにしておくか。知ったら嫌いになるかもしれないし」
「なりません」
「ホント? じゃあ、あとで教えるわ」
いつもよりテンションが高くて周防も緊張しているのかなと思った。
大人だから慣れているのかもしれないけど、こういうのってどこか気恥ずかしくて落ち着かなくなる。
コンビニで歯ブラシや下着セットをかごに入れると、会計の前に蜜は車へと追いやられた。
「他にも適当に買い物するから先に車で待ってて」
「一緒に買いますよ」
「……いーから。ここは大人に任せて」
押し切らえるように車に戻ると、スマホにいくつかのメッセージが届いていた。太一からだった。
『がんばれ!』とたった一言。
先に帰ってほしいと連絡をしたとき、太一はすごく嬉しそうだった。こんなに不義理をしてしまったのに怒りもしないで。
帰ったら何かご馳走しないとなあとスマホを眺めていたら戻ってきた周防に見咎められた。
「誰から?」
「太一からです。もう帰り道の途中だって」
「あとは?」
リサのことを気にしているのかと思ったら急にかわいく思えてきて、ほら、とスマホを見せた。
「あとは裕二から。めっちゃ景色の綺麗な場所があったって写真が送られてきました」
「ああ、今度行ってみよっか」
画面を見ながら提案されて「今度」という響きに顔をあげた。
「ほんと? 一緒に行ってくれるの?」
「当たり前だろ。蜜以外に誰と行くっつんだよ。こっちきてから学校と家の往復くらいでどこも行ってないんだよな。一緒に色々行ってみようぜ」
「行く! 行きたい」
後部座席から身を乗り出すと、チョイチョイっと指に誘われた。
「いつまで後ろに座ってんの。そろそろ隣においで」
学校からだいぶ離れたしもう大丈夫。
もし見られても誰も蜜のことを知らないから隠れることはない。
「あ、うん、へへ」
照れ笑いを浮かべながら助手席に移動するとやっといつもの距離に戻れた。ここしばらく感じていた不安が嘘のように消えていく。
シートベルトを締めるのをじっと見ていた周防も同じことを思っていたらしかった。
「やっと蜜に会えたって感じ」
「……ぼくもそう思ってました。先生」
視線が絡み合う。
だけどここはコンビニの駐車場で、さすがにキスをするわけにもいかない。
「早く帰ろう」
周防は真顔になると急いでエンジンをかけた。
この先の信号が全部青だったのは誰かが蜜たちの気持ちを汲んでくれたからかもしれない。
周防の住むマンションはこじんまりとして、小さな庭もついているような庶民的なところだった。
ベランダに朝顔の鉢が置かれているから、小学生が住んでいるのだろう。
「一階に住んでいる人は庭いじりもできるって楽しんでいるみたいだけどな。なんかそういうのがホッとするなってここに決めたんだ」
エレベーターはなく三階まで階段で昇る。
コンクリートの硬質さも和らいで見えるのは窓から見える景色がのどかだからか。
「大家さんが緑好きみたいで、結構木が植えてあって面白いだろ」
まるで実家のようで安心するんだよなと周防は笑った。
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