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第三章 sugar sugar honey

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 ハーフタイムを挟んで陣地が変わったらしく、さっきより周防の姿が見やすくなった。
 前に会った時より体がおおきくなった。顔つきも精悍でいかにもスポーツマンという感じだ。
 きっと選手と一緒に鍛えているのだろう。
 周防ってそういう人だ。
 しんどい事こそ一緒にやろうとしてくれる。

 ああ、好きだなあと改めて思う。

 ごめんね先生。
 もっと大人にならなきゃっていつも思っているんだけど、うまくいかなくて。

 試合が有利に進むのを見ながら、きっとこのチームなら周防の夢を叶えてくれるんだろうなと思った。

「あれ……」

 いつの間にか涙がこぼれていた。
 ずっとギリギリに保っていた平常心が1人になって崩れたのか。だけど誰も気がつかない。それでいい。
 誰も見ないでほしい。

 ホイッスルが鳴って試合は終了した。
 大差をつけての圧勝だった。わあっと盛り上がる周防のチームを眺めながらこれからどうしようかと考える。

 太一たちと合流して一緒に遊ぶ気にはなれなかった。

「蜜!!」

 慌てたような声に振り返ると周防だった。
 まだ応援席に残っていた人たちが何事かと注目する。グラウンドを見ると選手たちはベンチを片づけていて、周防だけが走ってここに来たらしかった。

「先生。おめでとうございます」

 勝利を祝ったら「そんなのどうだっていいんだよ」と両肩を掴まれた。
 
「なんで泣いてたの」

「泣いてなんか……」

「わかんだよ、いくら遠くたって。見えてんの俺には。……こっち来て」

 周防は腕を掴むとグイグイ歩き始め、誰の来なさそうな倉庫の裏へといざなった。向かい合うと手を繋ぐ。

「なあ、さっきのあれ誰? 太一の彼女? なんでデートみたいになってんの?」

 矢継ぎ早の質問に余裕のなさが表れている。こんな姿を見るのは珍しい。もしかして周防もヤキモチを焼くのか?

「裕二の彼女と、運転してくれた人」

「お、彼女できたんだ。よかったなって言っといて。で運転してくれた人って何? なんで腕を組んだり彼女ヅラさせてんの?」

 至近距離で覗かれて思わず顎を引いた。射貫かれるような強い視線だった。「蜜教えて」と耳を噛まれる。

「あの女って何?」

 試合で興奮しているのかいつもより強引な周防にクラクラした。あまりの刺激に自制心が保てなくなる。

「先生、待って」

「待たない。まじで腹立ててんの。いなくなったと思ったら一人で泣いてるし、あの女に泣かされたの? なんかされた?」

 されたのは周防のチームの青木って奴だけど、それは言っていいのか。迷って口にした。

「青木って人。レオさんって呼んでた、あの人にうるさいって注意されて。それで邪魔すんなって。うるさくしてごめんなさい。だけどあの人と先生は一心同体なんでしょ。そういう関係なの?」

「は? 青木?」と首を傾げている。

「なんであいつ?」

「先生の事好きなんじゃないの。夜も一緒にいたでしょう?」

 言ってしまった。だけど周防はさらに訳が分からないという顔をする。

「だって先生に電話した時に、名前呼ばれていたでしょう? あんな夜遅くに。自分の家に連れ込むほど親しいってことでしょう?」

 むきになってしまった。
 かっこつけることもできず腹の中を全部ぶちまける。情けない。

 遠くから周防を探す声が聞こえてきた。これからまだやることがあるのだろう。

「ああ……くそ、時間がないな」

 忌々し気にグランウンドの方に視線を流しつつ、押しつけるように鍵を手渡してきた。周防の車の鍵だ。

「裏の方に職員用の駐車場があるから。乗って待ってて。絶対逃げんなよ」

 そして少し考えると「あとさ」と呟いた。

「お前今日泊りだから、おうちに連絡しといて」

 呼ぶ声に返事をしながら強く蜜を抱きしめた。

「あと太一にも先に帰ってもらって。もう他の人の車に乗るな」

 まるで嵐のようにとんでもないことを言って周防は走っていってしまった。
 お泊り?
 周防のうちに?

 ぎゅーんと胸が苦しくなる。
 初めて先生のうちに連れて行ってもらえる。しかも夜も二人きりで。
 ドキドキが激しくなってきた。

 はやる気持ちで車に乗り込むと懐かしい匂いがした。初めてドライブした日も、最後にデートした時もこの匂いに包まれていたんだ。

 助手席に座ると目立ちそうだから後ろ座席で小さくなって周防が来るのをまった。
 生徒たちがゾロゾロと大きなカバンを背負って帰っていく。とにかくでかい。蜜と同じ年とは思えない精悍さだ。

 それらがいなくなるとようやく周防が戻ってきた。

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