95 / 119
第三章 sugar sugar honey
4
しおりを挟む
試合は周防たちのチームが圧倒的に強かった。
特に青木という選手のうまさは何も知らない蜜が見ても明らかなほどだ。素早い動きや試合運びなど、彼を中心に回っていく。
途中の休憩タイムになると、ほっと息をついた。いつの間にか夢中になって手に汗を握っていたのだ。
それは蜜だけじゃなくみんな同じようで、我に返ったように顔を見合わせた。
「なんかすごくない」
ちょっとだけ見たら遊びに行くつもりだった太一も興奮気味だった。
「うん、ルールとかあまりわかんないけどすごかった」
盛り上がる太一たちに声をかけて蜜はそっと席を抜け出した。少し一人になりたかった。
かっこよかった。
体が震えるほど興奮している。周防が夢中になる意味がよくわかった。
あんなに激しいのに緻密な作戦。攻めて崩され立て直して突き進む情熱。熱さと冷たさが同時に存在するスポーツがアメフトなんだ。
「はあ、これは仕方ないよなあ……」
蜜より優先したくなる気持ちも、まるでヒーローのように活躍する選手を大切にする気持ちもわかる。夢を追いかけるってこういうことなんだ。
フェンス越しにぼんやりと眺めていると不意に声をかけられた。
振り返るとさっき周防を呼びに来たヒーロー、青木だった。
「あんた、レオさんの前の学校の人?」
不躾な質問にムッとしつつも「そうですけど」と答える。初対面相手にあんたって失礼な奴だ。
「あのさ何しに来たの? 女連れてきゃあきゃあ騒いで。こっちはマジで試合やってんのに冷やかしなら帰ってくんない?」
「冷やかしじゃない。ちゃんと応援するつもりで」
「だったらさ~騒ぐなよな。めっちゃ浮いてんのわかんない? レオさんのこと困らせんなよな」
相手の言い分はもっともだったので蜜は黙った。
確かに女性陣の声は大きいし、黄色い歓声を上げるたび周りから見られている。
「それはごめんなさい。注意します」
素直に謝ると、つまらなそうに唇を尖らせた。
「レオさんの集中がいまいちなのはあんたたちが来たせいだ。俺たちは全国を目指してるし、レオさんを連れていくつもりなんだからさ、邪魔すんなよな」
やっぱりあの日周防を呼んだのは彼だ。
レオさんと呼ぶ声に親密さが混ざっている。
「……周防先生とは、」
言いかけて口をつぐんだ。
これ以上言葉にしてなんて返ってきたら納得できるんだろう。蜜の願う言葉じゃなかったら。不安な想像が本当だとわかってしまったら。
彼はふんっと鼻を荒くして続けた。
「俺にとってレオさんは特別だからな。あの人に憧れてアメフトを始めた。そして俺が全国に行くためにあの人が必要だからコーチとして呼んでもらった。あの人と俺とは一心同体なんだ。だからこれ以上乱さないでくれる?」
青木は言いたいことだけ言うと、踵を返して戻っていった。こんなことを言うためだけに来たのか。蜜を牽制しに。
ため息が漏れた。
応援席に戻ると彼女たちはキャッキャと賑やかに話しまくっていた。
蜜が戻ったのを見ると、リサが腕を絡めてくる。
「おっかえりい~」
その無神経さにものすごくむかついた。
親切で連れてきてくれたことには感謝しているけど、さっきから騒ぎすぎだ。もう少しおとなしく見てくれればいいのに、と心の悪魔が囁いている。
「おなかもすいたしどっかでご飯食べようって話していたんだけどなんか食べたいものがある?」
甘えるようにすりついてくるのをそっと押し返して「ごめんね」と謝った。
「みんなで行ってきて。ぼくはまだ見てるから」
例えそばにいれなくても周防の雄姿を目に焼き付けておきたい。
真剣に指示をだしたり声も限りに叫んだり、どこを切り取ってもかっこよくていつまでも見ていたい。
もし周防が青木と特別な関係になっていても、好きでいることだけはやめることはできないから。
太一は立ち上がると「わかった」といった。
「じゃあ迎えが必要になったら連絡して。その辺で飯食ってる」
「うん、ありがと。勝手いってごめんね」
「いいって。蜜の分なんか買ってこよっか?」
「ううん、あとで何か買うから大丈夫」
リサは何か言いたげだったけど、結局はみんなについていって蜜だけが残された。
特に青木という選手のうまさは何も知らない蜜が見ても明らかなほどだ。素早い動きや試合運びなど、彼を中心に回っていく。
途中の休憩タイムになると、ほっと息をついた。いつの間にか夢中になって手に汗を握っていたのだ。
それは蜜だけじゃなくみんな同じようで、我に返ったように顔を見合わせた。
「なんかすごくない」
ちょっとだけ見たら遊びに行くつもりだった太一も興奮気味だった。
「うん、ルールとかあまりわかんないけどすごかった」
盛り上がる太一たちに声をかけて蜜はそっと席を抜け出した。少し一人になりたかった。
かっこよかった。
体が震えるほど興奮している。周防が夢中になる意味がよくわかった。
あんなに激しいのに緻密な作戦。攻めて崩され立て直して突き進む情熱。熱さと冷たさが同時に存在するスポーツがアメフトなんだ。
「はあ、これは仕方ないよなあ……」
蜜より優先したくなる気持ちも、まるでヒーローのように活躍する選手を大切にする気持ちもわかる。夢を追いかけるってこういうことなんだ。
フェンス越しにぼんやりと眺めていると不意に声をかけられた。
振り返るとさっき周防を呼びに来たヒーロー、青木だった。
「あんた、レオさんの前の学校の人?」
不躾な質問にムッとしつつも「そうですけど」と答える。初対面相手にあんたって失礼な奴だ。
「あのさ何しに来たの? 女連れてきゃあきゃあ騒いで。こっちはマジで試合やってんのに冷やかしなら帰ってくんない?」
「冷やかしじゃない。ちゃんと応援するつもりで」
「だったらさ~騒ぐなよな。めっちゃ浮いてんのわかんない? レオさんのこと困らせんなよな」
相手の言い分はもっともだったので蜜は黙った。
確かに女性陣の声は大きいし、黄色い歓声を上げるたび周りから見られている。
「それはごめんなさい。注意します」
素直に謝ると、つまらなそうに唇を尖らせた。
「レオさんの集中がいまいちなのはあんたたちが来たせいだ。俺たちは全国を目指してるし、レオさんを連れていくつもりなんだからさ、邪魔すんなよな」
やっぱりあの日周防を呼んだのは彼だ。
レオさんと呼ぶ声に親密さが混ざっている。
「……周防先生とは、」
言いかけて口をつぐんだ。
これ以上言葉にしてなんて返ってきたら納得できるんだろう。蜜の願う言葉じゃなかったら。不安な想像が本当だとわかってしまったら。
彼はふんっと鼻を荒くして続けた。
「俺にとってレオさんは特別だからな。あの人に憧れてアメフトを始めた。そして俺が全国に行くためにあの人が必要だからコーチとして呼んでもらった。あの人と俺とは一心同体なんだ。だからこれ以上乱さないでくれる?」
青木は言いたいことだけ言うと、踵を返して戻っていった。こんなことを言うためだけに来たのか。蜜を牽制しに。
ため息が漏れた。
応援席に戻ると彼女たちはキャッキャと賑やかに話しまくっていた。
蜜が戻ったのを見ると、リサが腕を絡めてくる。
「おっかえりい~」
その無神経さにものすごくむかついた。
親切で連れてきてくれたことには感謝しているけど、さっきから騒ぎすぎだ。もう少しおとなしく見てくれればいいのに、と心の悪魔が囁いている。
「おなかもすいたしどっかでご飯食べようって話していたんだけどなんか食べたいものがある?」
甘えるようにすりついてくるのをそっと押し返して「ごめんね」と謝った。
「みんなで行ってきて。ぼくはまだ見てるから」
例えそばにいれなくても周防の雄姿を目に焼き付けておきたい。
真剣に指示をだしたり声も限りに叫んだり、どこを切り取ってもかっこよくていつまでも見ていたい。
もし周防が青木と特別な関係になっていても、好きでいることだけはやめることはできないから。
太一は立ち上がると「わかった」といった。
「じゃあ迎えが必要になったら連絡して。その辺で飯食ってる」
「うん、ありがと。勝手いってごめんね」
「いいって。蜜の分なんか買ってこよっか?」
「ううん、あとで何か買うから大丈夫」
リサは何か言いたげだったけど、結局はみんなについていって蜜だけが残された。
5
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
初戀
槙野 シオ
BL
どうすることが正解で、どうすることが普通なのかわからなかった。
中三の時の進路相談で、おまえならどの高校でも大丈夫だと言われた。模試の結果はいつもA判定だった。進学校に行けば勉強で忙しく、他人に構ってる暇なんてないひとたちで溢れ返ってるだろうと思って選んだ学校には、桁違いのイケメンがいて大賑わいだった。
僕の高校生活は、嫌な予感とともに幕を開けた。
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。
47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!
のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、
ハサンと名を変えて異世界で
聖騎士として生きることを決める。
ここでの世界では
感謝の力が有効と知る。
魔王スマターを倒せ!
不動明王へと化身せよ!
聖騎士ハサン伝説の伝承!
略称は「しなおじ」!
年内書籍化予定!
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
創作BL)相模和都のカイキなる日々
黑野羊
BL
「カズトの中にはボクの番だった狛犬の『バク』がいるんだ」
小さい頃から人間やお化けにやたらと好かれてしまう相模和都は、新学期初日、元狛犬のお化け・ハクに『鬼』に狙われていると告げられる。新任教師として人間に混じった『鬼』の狙いは、狛犬の生まれ変わりだという和都の持つ、いろんなものを惹き寄せる『狛犬の目』のチカラ。霊力も低く寄ってきた悪霊に当てられてすぐ倒れる和都は、このままではあっという間に『鬼』に食べられてしまう。そこで和都は、霊力が強いという養護教諭の仁科先生にチカラを分けてもらいながら、『鬼』をなんとかする方法を探すのだが──。
オカルト×ミステリ×ラブコメ(BL)の現代ファンタジー。
「*」のついている話は、キスシーンなどを含みます。
※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています。
※Pixiv、Xfolioでは分割せずに掲載しています。
===
主な登場人物)
・相模和都:本作主人公。高校二年、お化けが視える。
・仁科先生:和都の通う高校の、養護教諭。
・春日祐介:和都の中学からの友人。
・小坂、菅原:和都と春日のクラスメイト。

ふつつかものですが鬼上司に溺愛されてます
松本尚生
BL
「お早うございます!」
「何だ、その斬新な髪型は!」
翔太の席の向こうから鋭い声が飛んできた。係長の西川行人だ。
慌てん坊でうっかりミスの多い「俺」は、今日も時間ギリギリに職場に滑り込むと、寝グセが跳ねているのを鬼上司に厳しく叱責されてーー。新人営業をビシビシしごき倒す係長は、ひと足先に事務所を出ると、俺の部屋で飯を作って俺の帰りを待っている。鬼上司に甘々に溺愛される日々。「俺」は幸せになれるのか!?
俺―翔太と、鬼上司―ユキさんと、彼らを取り巻くクセの強い面々。斜陽企業の生き残りを賭けて駆け回る、「俺」たちの働きぶりにも注目してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる