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第三章 sugar sugar honey

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 試合は周防たちのチームが圧倒的に強かった。
 特に青木という選手のうまさは何も知らない蜜が見ても明らかなほどだ。素早い動きや試合運びなど、彼を中心に回っていく。

 途中の休憩タイムになると、ほっと息をついた。いつの間にか夢中になって手に汗を握っていたのだ。
 それは蜜だけじゃなくみんな同じようで、我に返ったように顔を見合わせた。

「なんかすごくない」

 ちょっとだけ見たら遊びに行くつもりだった太一も興奮気味だった。

「うん、ルールとかあまりわかんないけどすごかった」

 盛り上がる太一たちに声をかけて蜜はそっと席を抜け出した。少し一人になりたかった。
 
 かっこよかった。
 体が震えるほど興奮している。周防が夢中になる意味がよくわかった。
 あんなに激しいのに緻密な作戦。攻めて崩され立て直して突き進む情熱。熱さと冷たさが同時に存在するスポーツがアメフトなんだ。

「はあ、これは仕方ないよなあ……」

 蜜より優先したくなる気持ちも、まるでヒーローのように活躍する選手を大切にする気持ちもわかる。夢を追いかけるってこういうことなんだ。
 フェンス越しにぼんやりと眺めていると不意に声をかけられた。
 振り返るとさっき周防を呼びに来たヒーロー、青木だった。

「あんた、レオさんの前の学校の人?」

 不躾な質問にムッとしつつも「そうですけど」と答える。初対面相手にあんたって失礼な奴だ。

「あのさ何しに来たの? 女連れてきゃあきゃあ騒いで。こっちはマジで試合やってんのに冷やかしなら帰ってくんない?」

「冷やかしじゃない。ちゃんと応援するつもりで」

「だったらさ~騒ぐなよな。めっちゃ浮いてんのわかんない? レオさんのこと困らせんなよな」

 相手の言い分はもっともだったので蜜は黙った。
 確かに女性陣の声は大きいし、黄色い歓声を上げるたび周りから見られている。

「それはごめんなさい。注意します」

 素直に謝ると、つまらなそうに唇を尖らせた。

「レオさんの集中がいまいちなのはあんたたちが来たせいだ。俺たちは全国を目指してるし、レオさんを連れていくつもりなんだからさ、邪魔すんなよな」

 やっぱりあの日周防を呼んだのは彼だ。
 レオさんと呼ぶ声に親密さが混ざっている。

「……周防先生とは、」

 言いかけて口をつぐんだ。
 これ以上言葉にしてなんて返ってきたら納得できるんだろう。蜜の願う言葉じゃなかったら。不安な想像が本当だとわかってしまったら。

 彼はふんっと鼻を荒くして続けた。

「俺にとってレオさんは特別だからな。あの人に憧れてアメフトを始めた。そして俺が全国に行くためにあの人が必要だからコーチとして呼んでもらった。あの人と俺とは一心同体なんだ。だからこれ以上乱さないでくれる?」

 青木は言いたいことだけ言うと、踵を返して戻っていった。こんなことを言うためだけに来たのか。蜜を牽制しに。
 ため息が漏れた。
 
 応援席に戻ると彼女たちはキャッキャと賑やかに話しまくっていた。
 蜜が戻ったのを見ると、リサが腕を絡めてくる。

「おっかえりい~」

 その無神経さにものすごくむかついた。
 親切で連れてきてくれたことには感謝しているけど、さっきから騒ぎすぎだ。もう少しおとなしく見てくれればいいのに、と心の悪魔が囁いている。

「おなかもすいたしどっかでご飯食べようって話していたんだけどなんか食べたいものがある?」

 甘えるようにすりついてくるのをそっと押し返して「ごめんね」と謝った。

「みんなで行ってきて。ぼくはまだ見てるから」

 例えそばにいれなくても周防の雄姿を目に焼き付けておきたい。
 真剣に指示をだしたり声も限りに叫んだり、どこを切り取ってもかっこよくていつまでも見ていたい。

 もし周防が青木と特別な関係になっていても、好きでいることだけはやめることはできないから。

 太一は立ち上がると「わかった」といった。

「じゃあ迎えが必要になったら連絡して。その辺で飯食ってる」

「うん、ありがと。勝手いってごめんね」

「いいって。蜜の分なんか買ってこよっか?」

「ううん、あとで何か買うから大丈夫」

 リサは何か言いたげだったけど、結局はみんなについていって蜜だけが残された。
 
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