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第三章 sugar sugar honey
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「どーしたの、太一も裕二も?!」
「レオくん久しぶり!」
近くで見る周防はいつものほわっとした顔つきと全然違って、スイッチがオンになっているのがわかった。蜜の知らない周防だった。
凛々しく引き締まった身体にジャージがよく似合っている。
「みんな元気そうだな。試合見に来てくれたのか?」
「そう。あとこの近くのデートスポットに寄ろうと思って」
「あー楽しそうな週末をお過ごしなんですねえ」
憎たらし気に太一を睨んで、それから蜜を見た。
「蜜も。来てくれたんだな」
「一度見てみたくて。すみません、お邪魔して」
「いいよ、楽しんでいって」
そばにいる女子たちに気がつかないはずはないのに、そのことには何も触れない。すぐに太一の彼女だということには気がついたのだろう。前から年上の人と付き合っていると公言しているから。
「レオさん!」
選手の一人が周防を呼びに来た。
アメフトをやっているというには細身で小柄な選手だった。バランスの整った綺麗な体つきをしている。
「レオさん、そろそろ試合です」
その声に聞き覚えがあった。
レオさんと呼ぶイントネーションや、声のトーンが、あの夜電話越しに聞こえたものと同じだった。
「今行く。じゃあ、ゆっくり見てって」
絡んだ視線を引きはがすようにその人はグイっと周防の腕を引っ張った。腕を組みながら周防を連れていく。
「どこ行ってんだって監督が怒ってますよ」
「ヤバ。急ごう」
名残惜し気に蜜を見ながらも、彼に引っ張られるように周防は戻っていった。
「感じ悪~」と太一が呟いた。
気のせいかと思ったけどそうじゃなかった。
こちらに対して対抗意識を燃やしているような。今は自分たちのものなんだからと主張するような。
モヤモヤする。
断りきらずに腕をひかれる周防も周防だ。一人で歩けるって断ればいいのに。
だけどそれを顔に出すのも情けない。
嫉妬だ。蜜の知らない世界に嫉妬している。
「あっちに応援席があるから、ぼくはそこで見ていようかな。みんなは遊びに行ってきてよ」
「いや。俺も見たいから一緒に見る」
傷心の蜜を一人にしないぞという心意気が感じられた。ありがたいけど一人にもなりたい。さっきから複雑な心境になってばかりだ。
「初めて見るからワクワクだよお~」とリサだけは興奮している。マイペースな人だ。
間もなくプレイボールの合図がかかると、一気に格闘技の様相を見せ始めた。他の球技とは違って体当たりが当然で、あちらこちらでぶつかりあっている。ボールの行方を追うよりタックルに目を奪われる。
「やだ、痛そう~」
リサが高い声をあげて蜜にしがみついた。声が響いたのか周りの視線が突き刺さる。
ペコペコと頭を下げながら、そっと腕を外した。
周防が真剣に試合に挑んでいるときは蜜も一緒に戦うつもりでいるのだ。邪魔をしないでほしい。
でも……ふいに、さっきの光景がよぎった。
レオさんと親し気に呼んでいた彼はただの生徒なんだろうか。
あの夜はあの人と一緒に? プライベートでも仲良くするほど近しいのか。それとも___。
わあっと歓声が上がる。
ハッと我に返って試合に目をやると、さっきの彼がすばしっこくタックルの間を抜けてスルスルとボールを前線に運んでいるところだった。
何方向からも襲い来るタックルを華麗にかわし、パスを送った。
そのまま受け止めた選手が転がるように白線を超える。ドッとどよめきが起こる。彼は嬉しそうに手を上げてアピールしながらフィールド上を駆け抜けた。
「ナイスだ青木!」
嬉しそうな、興奮している周防の声が聞こえた。
走ってきた青木と呼ばれた彼とハイタッチをして、またフィールドへと送り出している。
選手とコーチという間柄がどんなものか蜜にはわからない。だけどそれ以上に深い結びつきを感じてしまう。
焼きもちを焼いているせいで余計にそう思うのかもしれない。
今は蜜じゃなく、あの人の先生なのだ。そう思い知らされる。
「レオくん久しぶり!」
近くで見る周防はいつものほわっとした顔つきと全然違って、スイッチがオンになっているのがわかった。蜜の知らない周防だった。
凛々しく引き締まった身体にジャージがよく似合っている。
「みんな元気そうだな。試合見に来てくれたのか?」
「そう。あとこの近くのデートスポットに寄ろうと思って」
「あー楽しそうな週末をお過ごしなんですねえ」
憎たらし気に太一を睨んで、それから蜜を見た。
「蜜も。来てくれたんだな」
「一度見てみたくて。すみません、お邪魔して」
「いいよ、楽しんでいって」
そばにいる女子たちに気がつかないはずはないのに、そのことには何も触れない。すぐに太一の彼女だということには気がついたのだろう。前から年上の人と付き合っていると公言しているから。
「レオさん!」
選手の一人が周防を呼びに来た。
アメフトをやっているというには細身で小柄な選手だった。バランスの整った綺麗な体つきをしている。
「レオさん、そろそろ試合です」
その声に聞き覚えがあった。
レオさんと呼ぶイントネーションや、声のトーンが、あの夜電話越しに聞こえたものと同じだった。
「今行く。じゃあ、ゆっくり見てって」
絡んだ視線を引きはがすようにその人はグイっと周防の腕を引っ張った。腕を組みながら周防を連れていく。
「どこ行ってんだって監督が怒ってますよ」
「ヤバ。急ごう」
名残惜し気に蜜を見ながらも、彼に引っ張られるように周防は戻っていった。
「感じ悪~」と太一が呟いた。
気のせいかと思ったけどそうじゃなかった。
こちらに対して対抗意識を燃やしているような。今は自分たちのものなんだからと主張するような。
モヤモヤする。
断りきらずに腕をひかれる周防も周防だ。一人で歩けるって断ればいいのに。
だけどそれを顔に出すのも情けない。
嫉妬だ。蜜の知らない世界に嫉妬している。
「あっちに応援席があるから、ぼくはそこで見ていようかな。みんなは遊びに行ってきてよ」
「いや。俺も見たいから一緒に見る」
傷心の蜜を一人にしないぞという心意気が感じられた。ありがたいけど一人にもなりたい。さっきから複雑な心境になってばかりだ。
「初めて見るからワクワクだよお~」とリサだけは興奮している。マイペースな人だ。
間もなくプレイボールの合図がかかると、一気に格闘技の様相を見せ始めた。他の球技とは違って体当たりが当然で、あちらこちらでぶつかりあっている。ボールの行方を追うよりタックルに目を奪われる。
「やだ、痛そう~」
リサが高い声をあげて蜜にしがみついた。声が響いたのか周りの視線が突き刺さる。
ペコペコと頭を下げながら、そっと腕を外した。
周防が真剣に試合に挑んでいるときは蜜も一緒に戦うつもりでいるのだ。邪魔をしないでほしい。
でも……ふいに、さっきの光景がよぎった。
レオさんと親し気に呼んでいた彼はただの生徒なんだろうか。
あの夜はあの人と一緒に? プライベートでも仲良くするほど近しいのか。それとも___。
わあっと歓声が上がる。
ハッと我に返って試合に目をやると、さっきの彼がすばしっこくタックルの間を抜けてスルスルとボールを前線に運んでいるところだった。
何方向からも襲い来るタックルを華麗にかわし、パスを送った。
そのまま受け止めた選手が転がるように白線を超える。ドッとどよめきが起こる。彼は嬉しそうに手を上げてアピールしながらフィールド上を駆け抜けた。
「ナイスだ青木!」
嬉しそうな、興奮している周防の声が聞こえた。
走ってきた青木と呼ばれた彼とハイタッチをして、またフィールドへと送り出している。
選手とコーチという間柄がどんなものか蜜にはわからない。だけどそれ以上に深い結びつきを感じてしまう。
焼きもちを焼いているせいで余計にそう思うのかもしれない。
今は蜜じゃなく、あの人の先生なのだ。そう思い知らされる。
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