86 / 119
第二章 Lion Heart
旅立ち
しおりを挟む
午前中に沖縄を出発した周防たち一行は昼遅くには地元へと戻っていた。
空港へは家族のお迎えが来ていて、日焼けした子供たちから楽しそうに話を聞いている。
蜜はこの後の便だから、周防が総一郎さんたちに会うことはなかった。
ちょっとだけよかったと思ってしまう。
蜜への愛おしさは日に日に増して、自分でもコントロールするのが難しくなってきている。
観覧車でのキスもそうだ。
大人なキスはしないように気をつけていたのに、あんなに必死に周防を思ってくれる蜜を見ていたら止まらなくなってしまった。
怯えた舌が可愛かった。
まだ慣れなくて、何も知らない無垢を穢すことが怖いのに興奮する。
蜜をどうにかしてしまいそうで怖い。
親が迎えに来れない生徒をバスに乗せて学校まで戻ると早々に片づけておきたい事務仕事をし始める。夕方になって後発の先生たちが戻ってきて、その中に小石川の姿もあった。
「お疲れ」
「楽しかったな~沖縄」
まだ沖縄のテンションでご機嫌な小石川はこそっと周防に耳打ちをした。
「みっつのうち、お迎えに来てたわ」
「そうか、よかった」
仕事だから無理かもしれないと言っていたけど時間に都合をつけてくれたのだろう。
「みっつはお母さん似なんだな。めっちゃキレイでみんなザワザワしてた」
志穂さんと蜜は性別も年齢も違うのにすごく似ている。遺伝ってすごいと見るたび感心してしまう。
おっとりとしているくせに人の目を惹いてしまう二人が並んでいれば華やかで圧倒されるだろう。
「いや~通おうかな、ゆめのや」
「あの人は裏方だから出てこないよ。っていうか、お前も早く書類を片づけろよ」
いつまでもおしゃべりに花が咲く小石川をおいやって、早々に仕事を片づけた。
周防にはこれからもうひとつ大きな仕事があるのだ。
この場所を離れることを、母や姉たちに言わなければならない。
無責任だと罵られるだろうか。母を捨てるのかと怒られるかもしれない。だけどもう戻れない。
頼まれたお土産はちゃんと買ったし、さらに空港でも上乗せした。
物で釣るつもりじゃないけど、これで少しだけご機嫌取りをしながらうまくやりきろう。
自宅へ帰ると食事のいい匂いがしている。
帰宅に合わせて作ってくれているのかもしれない。おなかがグウっと音を立てた。
「お帰り」
玄関に出てきたのは姉で、愛衣は待ちきれずにはしゃいで眠ってしまったそうだ。どうりで静かだ。
「楽しかった?」
「ああ、沖縄いいよ。今度行ってきなよ」
リビングに行くと母がソファに腰かけていた。今日は体調もいいらしい。顔色がよくてほっとする。
「お帰り、獅子」
「ただいま」
せっかちすぎるとは思ったけれど時間が経てば言い出せなくなる。
周防は荷物を置くのも待たずにガバリと頭を下げた。
「お願いがあります!」
「やだ何事?!」
突然何事かと母も姉をびっくりしている。そりゃそうだ。修学旅行から帰宅早々の嘆願。でもこの勢いに乗って言ってしまいたい。
蜜が背中を押してくれている。
「母校からアメフトのコーチをやらないかって誘われています。どうか行かせてください」
「その前にお土産どこよ」
マイペースな姉がその勢いをサクっと殺しにかかる。
「……これ。頼まれてたのと美味しそうなのと」
「やった。ありがと!」
ガサガサと包みを開けながら何でもないように先を促す。
「それで?」
「あ、うん。距離があるから通うのは難しくて、向こうにアパートを借りて住むことになると思う。そしたら母さんを置いていかなきゃいけなくて……でも、もう一度アメフトに挑戦したい」
チラっと母を見ると、母も一緒になってお土産の包みを開けながら「いいんじゃないの」と言った。
「え?」
「行けばいいと思うよ。よかったじゃないの。声をかけてもらえるなんてすごいわ」
「でも、」
いいのか。
あんなに悩んだのにこんなにあっさり。
「怪我とかしないように気をつけて」
そう言うと母と姉は顔を見合わせると頷き合った。何か企んでいる顔つきだ。
「こっちも言おうかと思っていたんだけどね。この家リフォームして同居しようかと思っているの」
空港へは家族のお迎えが来ていて、日焼けした子供たちから楽しそうに話を聞いている。
蜜はこの後の便だから、周防が総一郎さんたちに会うことはなかった。
ちょっとだけよかったと思ってしまう。
蜜への愛おしさは日に日に増して、自分でもコントロールするのが難しくなってきている。
観覧車でのキスもそうだ。
大人なキスはしないように気をつけていたのに、あんなに必死に周防を思ってくれる蜜を見ていたら止まらなくなってしまった。
怯えた舌が可愛かった。
まだ慣れなくて、何も知らない無垢を穢すことが怖いのに興奮する。
蜜をどうにかしてしまいそうで怖い。
親が迎えに来れない生徒をバスに乗せて学校まで戻ると早々に片づけておきたい事務仕事をし始める。夕方になって後発の先生たちが戻ってきて、その中に小石川の姿もあった。
「お疲れ」
「楽しかったな~沖縄」
まだ沖縄のテンションでご機嫌な小石川はこそっと周防に耳打ちをした。
「みっつのうち、お迎えに来てたわ」
「そうか、よかった」
仕事だから無理かもしれないと言っていたけど時間に都合をつけてくれたのだろう。
「みっつはお母さん似なんだな。めっちゃキレイでみんなザワザワしてた」
志穂さんと蜜は性別も年齢も違うのにすごく似ている。遺伝ってすごいと見るたび感心してしまう。
おっとりとしているくせに人の目を惹いてしまう二人が並んでいれば華やかで圧倒されるだろう。
「いや~通おうかな、ゆめのや」
「あの人は裏方だから出てこないよ。っていうか、お前も早く書類を片づけろよ」
いつまでもおしゃべりに花が咲く小石川をおいやって、早々に仕事を片づけた。
周防にはこれからもうひとつ大きな仕事があるのだ。
この場所を離れることを、母や姉たちに言わなければならない。
無責任だと罵られるだろうか。母を捨てるのかと怒られるかもしれない。だけどもう戻れない。
頼まれたお土産はちゃんと買ったし、さらに空港でも上乗せした。
物で釣るつもりじゃないけど、これで少しだけご機嫌取りをしながらうまくやりきろう。
自宅へ帰ると食事のいい匂いがしている。
帰宅に合わせて作ってくれているのかもしれない。おなかがグウっと音を立てた。
「お帰り」
玄関に出てきたのは姉で、愛衣は待ちきれずにはしゃいで眠ってしまったそうだ。どうりで静かだ。
「楽しかった?」
「ああ、沖縄いいよ。今度行ってきなよ」
リビングに行くと母がソファに腰かけていた。今日は体調もいいらしい。顔色がよくてほっとする。
「お帰り、獅子」
「ただいま」
せっかちすぎるとは思ったけれど時間が経てば言い出せなくなる。
周防は荷物を置くのも待たずにガバリと頭を下げた。
「お願いがあります!」
「やだ何事?!」
突然何事かと母も姉をびっくりしている。そりゃそうだ。修学旅行から帰宅早々の嘆願。でもこの勢いに乗って言ってしまいたい。
蜜が背中を押してくれている。
「母校からアメフトのコーチをやらないかって誘われています。どうか行かせてください」
「その前にお土産どこよ」
マイペースな姉がその勢いをサクっと殺しにかかる。
「……これ。頼まれてたのと美味しそうなのと」
「やった。ありがと!」
ガサガサと包みを開けながら何でもないように先を促す。
「それで?」
「あ、うん。距離があるから通うのは難しくて、向こうにアパートを借りて住むことになると思う。そしたら母さんを置いていかなきゃいけなくて……でも、もう一度アメフトに挑戦したい」
チラっと母を見ると、母も一緒になってお土産の包みを開けながら「いいんじゃないの」と言った。
「え?」
「行けばいいと思うよ。よかったじゃないの。声をかけてもらえるなんてすごいわ」
「でも、」
いいのか。
あんなに悩んだのにこんなにあっさり。
「怪我とかしないように気をつけて」
そう言うと母と姉は顔を見合わせると頷き合った。何か企んでいる顔つきだ。
「こっちも言おうかと思っていたんだけどね。この家リフォームして同居しようかと思っているの」
6
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
3年F組クラス転移 帝国VS28人のユニークスキル~召喚された高校生は人類の危機に団結チートで国を相手に無双する~
代々木夜々一
ファンタジー
高校生3年F組28人が全員、召喚魔法に捕まった!
放り出されたのは闘技場。武器は一人に一つだけ与えられた特殊スキルがあるのみ!何万人もの観衆が見つめる中、召喚した魔法使いにざまぁし、王都から大脱出!
3年F組は一年から同じメンバーで結束力は固い。中心は陰で「キングとプリンス」と呼ばれる二人の男子と、家業のスーパーを経営する計算高きJK姫野美姫。
逃げた深い森の中で見つけたエルフの廃墟。そこには太古の樹「菩提樹の精霊」が今にも枯れ果てそうになっていた。追いかけてくる魔法使いを退け、のんびりスローライフをするつもりが古代ローマを滅ぼした疫病「天然痘」が異世界でも流行りだした!
原住民「森の民」とともに立ち上がる28人。圧政の帝国を打ち破ることができるのか?
ちょっぴり淡い恋愛と友情で切り開く、異世界冒険サバイバル群像劇、ここに開幕!
※カクヨムにも掲載あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。
愛人契約しました
長月〜kugatu〜
BL
多額の親の借金を背負う哲は妻帯者である営業部長の田中と身体の関係があった。
不毛だが、愛する田中との生活を続ける哲の前に現れた新しく専務取締役に就任した如月淳一によって現実を知らされる。傷心の哲に淳一が持ちかけたのが愛人契約だった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
創作BL)相模和都のカイキなる日々
黑野羊
BL
「カズトの中にはボクの番だった狛犬の『バク』がいるんだ」
小さい頃から人間やお化けにやたらと好かれてしまう相模和都は、新学期初日、元狛犬のお化け・ハクに『鬼』に狙われていると告げられる。新任教師として人間に混じった『鬼』の狙いは、狛犬の生まれ変わりだという和都の持つ、いろんなものを惹き寄せる『狛犬の目』のチカラ。霊力も低く寄ってきた悪霊に当てられてすぐ倒れる和都は、このままではあっという間に『鬼』に食べられてしまう。そこで和都は、霊力が強いという養護教諭の仁科先生にチカラを分けてもらいながら、『鬼』をなんとかする方法を探すのだが──。
オカルト×ミステリ×ラブコメ(BL)の現代ファンタジー。
「*」のついている話は、キスシーンなどを含みます。
※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています。
※Pixiv、Xfolioでは分割せずに掲載しています。
===
主な登場人物)
・相模和都:本作主人公。高校二年、お化けが視える。
・仁科先生:和都の通う高校の、養護教諭。
・春日祐介:和都の中学からの友人。
・小坂、菅原:和都と春日のクラスメイト。
恋なし、風呂付き、2LDK
蒼衣梅
BL
星座占いワースト一位だった。
面接落ちたっぽい。
彼氏に二股をかけられてた。しかも相手は女。でき婚するんだって。
占い通りワーストワンな一日の終わり。
「恋人のフリをして欲しい」
と、イケメンに攫われた。痴話喧嘩の最中、トイレから颯爽と、さらわれた。
「女ったらしエリート男」と「フラれたばっかの捨てられネコ」が始める偽同棲生活のお話。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる