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第二章 Lion Heart

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 いつまでもずる休みをするわけにもいかない。
 仕方なく学校に行き始めた蜜だけど、心ここにあらずで何にも身に入らなかった。
 太一や裕二と話をしていても上の空で、授業中もぼんやりしてしまう。

 恋にうつつを抜かすやつらをばかだなと思っていたけれど、自分こそ最大のばかだった。

 さすがにぼんやりしすぎたのだろう。担任に職員室に呼ばれてしまった。

「どうした? なんか悩み事か?」

 他の教師たちもいる場所でそんなことを聞かれて答えるあほがどこにいる。公開処刑か。
 タイミングよく周防がいないのが救いだった。
 こんな姿を見られたくはない。

「なんでもないです」

「なんでもないって、優秀な佐藤の様子がおかしいって他の先生たちも心配している。なんでもいい。相談に乗るぞ」

 話せるはずがない。
 そこの不在教師と恋愛の末、遠くに行くと言われて傷心です。僕を捨てるつもりなんですかね、どうなんでしょう。
 そう言ったらどうなるのか。修羅場かな。

 蜜はニコリと笑顔を浮かべた。

「すみません。少し進路のことで悩んでいて。でも自分で考えたいんです。ダメですか?」

 答えはこれで正しいはず。
 案の定担任は納得したらしく「いつでも相談に乗るから」と安堵の表情を浮かべた。
 それなりに優秀な蜜が問題を起こしたら困るとでも思っているのだろう。
 
 解放されて職員室を出たところで周防と小石川とばったりと会ってしまった。最悪だ。
 蜜はペコリと頭を下げると反対方向へと足を向けた。頼むから絡んでこないでくれ。

「蜜」

 周防の呼びかけを聞こえないふりをして早足で廊下を進んだ。
 珍しく小石川は黙っている。仲のいい二人のことだ。もう筒抜けなんだろう。

 教室に戻るとなぜか太一と裕二が残っていた。

「あれ、今日は部活休みなのか?」

「そう。珍しくお互い時間があったから蜜を待ってた。どっか遊びに行こうぜ」

 正直そんな気分じゃないけれど、家に帰っても気が滅入るだけなので行くことにした。
 
「どこいく?」

「カラオケは?」

「いいね。いこいこ」

 並んで歩きながらどうでもいいことを話していると少しだけ気分が紛れる。

 飲み放題のジュースを持って個室に入り、小腹を満たすための食事を頼むとさっそく太一が歌いだした。相変わらず上手だ。
 タンバリンをシャラシャラならしたり、裕二のおかしなコーラスがはいったりしているうちに楽しくなってきて笑ってしまった。

「やっと笑ったな」

 裕二が嬉しそうに蜜を見ていた。

「少し元気がなさそうだから心配してた」

 そんなに顔に出ていたのか。驚くと太一も頷いている。

「なんでも話せよ。友達だろ」

 話してもいいんだろうか。
 一人で抱えているには重すぎて楽になりたいとも思ってしまう。

 言いよどむ蜜を気遣ってか、先に裕二が話し始めた。

「じゃあ俺の話聞いて。最近めっちゃスランプでさ……野球やめようかなって」

「え、マジで?」

「もともとそんなに上手な方じゃなくてさ。高校に入るとさらに実力の差がね……試合でもヤジられるし自分のせいで負けたりするとマジでめげる」

「それはきついな……」

 裕二の告白に、蜜だけじゃない、みんなが悩んだり問題にぶち当たったりしていると気づかされる。
 自分ばかりが大変だと思うのは傲りだ。

「でもここでやめたら勿体なくね? おれたちも応援に行くからさ」

 な、と同意を求められて頷いた。

「行く。がんばって~裕二~ってハートのウチワを振ってやる」

「いや、それは勘弁だわ」

 次はおれ~と言いながら太一も悩みを打ち明けだした。
 それはちょっとだけハードな恋の悩みで、恋愛初心者の蜜と裕二には対応しきれない内容だった。
 ふたりして太一の話を聞きながらドキドキと恥ずかしい思いをしただけで何の役にも立たない。

「はい蜜の番」とマイク替わりにポッキーを持たされた。

「レオくんとなんかあっただろ」

「うん……って、え? なんで?」

 二人には付き合っていることは言っていなかったはずだ。動揺する蜜に「ごめんなー」と二人は謝った。

「隠したいだろうから黙っていたけど……気づいてた」

 ばれてた?! うそ、なんで、いつ?!

 慌てる様子が気の毒に思われたのか「蜜のせいじゃないよ」とフォローが入る。

「バレバレなのはレオくんの方ね。あの人大人なのにめっちゃヘタクソだわ。マジで大丈夫かってハラハラするよな」

「蜜大好きオーラがすっごいの。でもなんの噂にもなってないから安心して。蜜はほら、憧れる奴もガチ恋してるやつも多いから、ハートを飛ばしてるのが1人や2人増えたところで誰も何とも思わないっていうか。お前もかくらいで」

「そうそう。誰かのものにならないで欲しいって願望に目隠しされてるっていうか」

「だから安心して話してくれ」

 真剣な表情の2人を信じて重い口を開く。

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