sugar sugar honey! 甘くとろける恋をしよう

乃木のき

文字の大きさ
上 下
79 / 119
第二章 Lion Heart

3

しおりを挟む
 いつまでもずる休みをするわけにもいかない。
 仕方なく学校に行き始めた蜜だけど、心ここにあらずで何にも身に入らなかった。
 太一や裕二と話をしていても上の空で、授業中もぼんやりしてしまう。

 恋にうつつを抜かすやつらをばかだなと思っていたけれど、自分こそ最大のばかだった。

 さすがにぼんやりしすぎたのだろう。担任に職員室に呼ばれてしまった。

「どうした? なんか悩み事か?」

 他の教師たちもいる場所でそんなことを聞かれて答えるあほがどこにいる。公開処刑か。
 タイミングよく周防がいないのが救いだった。
 こんな姿を見られたくはない。

「なんでもないです」

「なんでもないって、優秀な佐藤の様子がおかしいって他の先生たちも心配している。なんでもいい。相談に乗るぞ」

 話せるはずがない。
 そこの不在教師と恋愛の末、遠くに行くと言われて傷心です。僕を捨てるつもりなんですかね、どうなんでしょう。
 そう言ったらどうなるのか。修羅場かな。

 蜜はニコリと笑顔を浮かべた。

「すみません。少し進路のことで悩んでいて。でも自分で考えたいんです。ダメですか?」

 答えはこれで正しいはず。
 案の定担任は納得したらしく「いつでも相談に乗るから」と安堵の表情を浮かべた。
 それなりに優秀な蜜が問題を起こしたら困るとでも思っているのだろう。
 
 解放されて職員室を出たところで周防と小石川とばったりと会ってしまった。最悪だ。
 蜜はペコリと頭を下げると反対方向へと足を向けた。頼むから絡んでこないでくれ。

「蜜」

 周防の呼びかけを聞こえないふりをして早足で廊下を進んだ。
 珍しく小石川は黙っている。仲のいい二人のことだ。もう筒抜けなんだろう。

 教室に戻るとなぜか太一と裕二が残っていた。

「あれ、今日は部活休みなのか?」

「そう。珍しくお互い時間があったから蜜を待ってた。どっか遊びに行こうぜ」

 正直そんな気分じゃないけれど、家に帰っても気が滅入るだけなので行くことにした。
 
「どこいく?」

「カラオケは?」

「いいね。いこいこ」

 並んで歩きながらどうでもいいことを話していると少しだけ気分が紛れる。

 飲み放題のジュースを持って個室に入り、小腹を満たすための食事を頼むとさっそく太一が歌いだした。相変わらず上手だ。
 タンバリンをシャラシャラならしたり、裕二のおかしなコーラスがはいったりしているうちに楽しくなってきて笑ってしまった。

「やっと笑ったな」

 裕二が嬉しそうに蜜を見ていた。

「少し元気がなさそうだから心配してた」

 そんなに顔に出ていたのか。驚くと太一も頷いている。

「なんでも話せよ。友達だろ」

 話してもいいんだろうか。
 一人で抱えているには重すぎて楽になりたいとも思ってしまう。

 言いよどむ蜜を気遣ってか、先に裕二が話し始めた。

「じゃあ俺の話聞いて。最近めっちゃスランプでさ……野球やめようかなって」

「え、マジで?」

「もともとそんなに上手な方じゃなくてさ。高校に入るとさらに実力の差がね……試合でもヤジられるし自分のせいで負けたりするとマジでめげる」

「それはきついな……」

 裕二の告白に、蜜だけじゃない、みんなが悩んだり問題にぶち当たったりしていると気づかされる。
 自分ばかりが大変だと思うのは傲りだ。

「でもここでやめたら勿体なくね? おれたちも応援に行くからさ」

 な、と同意を求められて頷いた。

「行く。がんばって~裕二~ってハートのウチワを振ってやる」

「いや、それは勘弁だわ」

 次はおれ~と言いながら太一も悩みを打ち明けだした。
 それはちょっとだけハードな恋の悩みで、恋愛初心者の蜜と裕二には対応しきれない内容だった。
 ふたりして太一の話を聞きながらドキドキと恥ずかしい思いをしただけで何の役にも立たない。

「はい蜜の番」とマイク替わりにポッキーを持たされた。

「レオくんとなんかあっただろ」

「うん……って、え? なんで?」

 二人には付き合っていることは言っていなかったはずだ。動揺する蜜に「ごめんなー」と二人は謝った。

「隠したいだろうから黙っていたけど……気づいてた」

 ばれてた?! うそ、なんで、いつ?!

 慌てる様子が気の毒に思われたのか「蜜のせいじゃないよ」とフォローが入る。

「バレバレなのはレオくんの方ね。あの人大人なのにめっちゃヘタクソだわ。マジで大丈夫かってハラハラするよな」

「蜜大好きオーラがすっごいの。でもなんの噂にもなってないから安心して。蜜はほら、憧れる奴もガチ恋してるやつも多いから、ハートを飛ばしてるのが1人や2人増えたところで誰も何とも思わないっていうか。お前もかくらいで」

「そうそう。誰かのものにならないで欲しいって願望に目隠しされてるっていうか」

「だから安心して話してくれ」

 真剣な表情の2人を信じて重い口を開く。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

伝える前に振られてしまった私の恋

喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋 母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。 第二部:ジュディスの恋 王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。 周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。 「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」 誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。 第三章:王太子の想い 友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。 ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。 すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。 コベット国のふたりの王子たちの恋模様

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

処理中です...