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第二章 Lion Heart
breaking
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真っ暗な部屋の中で周防の言葉を反芻する。
いくら考えても別れにしか繋がらなくて、蜜は布団の中に潜り込んだまま声を押し殺して泣き続けた。
周防が困惑しているのがわかった。
抱きしめる腕がいつもより頼りなく、蜜をどう扱っていいのかわからないでいる。
もっと強く抱きしめてくれればよかったのに。
離さないって、好きだって、もっと。
でも周防は蜜よりアメフトを選びたいと思っているのだ。
今まで一度もそんなそぶりを見せなかったのに突然すぎる。
もしかして知らなかっただけで蜜の知らない水面下でこっそりと進んでいたのか?
決まったころに話せば反対されないと思って?
そんな卑怯なことをする人じゃないって知っているのに疑惑が頭の中から消えてくれない。周防を信用しきれない。
何度か着信があったけれど出なかった。
メッセージも見ないまま電源を落とした。
頭の中が混乱していてどうしたらいいのかわからないのだ。
冷静に受け止めてあげたい気持ちと、別れたくない未練と。ぐちゃぐちゃで持てあます感情をどうなだめればいいのか。
翌日は具合が悪いとずる休みをした。
嘘じゃなかった。
眠れないまま朝を迎えたら顔は腫れて酷いことになっているし、泣きすぎで頭が重くズキズキとする。
こんな状態を見られたくなかった。
母は腫れぼったい顔を風邪と勘違いして、嘘を信じて学校へ連絡してくれたようだった。
枕元に冷たい飲み物と口当たりのいいゼリーが運ばれてくる。
「時々顔を出すけどゆっくり休むのよ」
「うん、ありがと」
「お風呂上りに外に出たから風邪なんか引くのよ。でもレオくんはあの時間にどうしたのかしらね?」
「知らない」
これ以上考えたくなかった。
答えの出ない難問にパンクしてしまいそうだ。
頭から布団をかぶるとあやすように、トン、と撫でられた。まるで子供にするように。
それが涙腺を刺激してさらに泣けてきてしまった。震える身体を気づかれないよう必死に抑える。
「じゃあ、おやすみなさい」
部屋の電気を消して母が部屋から出ていった。
電源を落としたままの電話を遠くへ放ってひたすら現実逃避をし続けた。
こんなことをしても無意味だってわかっているけれど、せめてそれくらいしかできない。
昼になっておかゆを持った母が顔を出して、その後に父が果物を切って持ってきてくれた。
こんな風に家族に心配をかけてしまうのは蜜がまだ子供だからだ。
周防だって面倒だと思っているに違いない。
蜜がいなければとっくに母校へと行けただろうに。つき合っているからといって足を引っ張る蜜をどう思っただろう。
やっぱり子どもなんかと付き合うんじゃなかったと悔やんでいるかもしれない。もう別れようと言われたら?
暗い部屋で一人で閉じこもっていたら悪い考えばかりが浮かんできて、気が滅入って仕方ない。
もう破局しかないのかもしれない。
うつらうつらと夢を見ていたら大きな手に頭を撫でられた。
優しい手のひら。
愛おし気に触られると安心してしまう。
気持ちよくてうっとりと目を開けるとそこには周防がいた。
「先生?」
寝すぎて掠れた声を酷い風邪だと思ったのだろう。申し訳なさそうに顔をしかめた。
「大丈夫か」と心配そうな声がかかる。
「昨日寒かったのに外に連れ出して悪かったな。具合は? 少しは落ち着いたか?」
「……まあ、」
まさか仮病とは言いにくく言葉を濁すと安心したように息を吐いた。
「よかった。熱はなさそうだな」
ずる休みとは思わなかったのだろうか。
それとも知っててフリをしてくれている?
蜜は布団を顎まで上げるとそっと目を伏せた。
さっさとけりをつけようと別れを切り出しに来たのかもしれない。こんなめんどくさい子どもなんかすぐに捨ててやるって。
だけど周防は特に何を言うでもなく、優しい瞳で蜜を見つめるだけだった。そこに愛情があるように感じてしまって蜜はどうしていいのかわからなくなる。
まだ信じていたい。
その瞳の中にうつされていたい。
「先生」
口を開いたのは蜜が最初だった。
「ん?」
「こんなめんどくさい子どもでごめんなさい」
聞こえるかどうかの小さな声に周防はちゃんと答えてくれる。
「めんどくさくないよ。蜜のこと好きだなあって見てた」
「うそ」
「うそじゃないよ。ホントに好き。やばいくらい好きだよ。大切に思ってるから嘘をつきたくない」
やばいくらい好きなのは蜜の方だ。
この人を絶対に離したくないと願うほどに。好きだからこそ離れていくのを許せないでいる。
「ぼくも怖いくらい先生が好き」
伝えたいのはそれだけ。
周防は蜜に笑っていて欲しいというけれど、蜜だってそうだ。周防が幸せで笑っていてくれればいいと願っている。
「好き」
「そっか。じゃあ引き分けってことにしとこ」
周防は蜜の頬に触れた。
いくら考えても別れにしか繋がらなくて、蜜は布団の中に潜り込んだまま声を押し殺して泣き続けた。
周防が困惑しているのがわかった。
抱きしめる腕がいつもより頼りなく、蜜をどう扱っていいのかわからないでいる。
もっと強く抱きしめてくれればよかったのに。
離さないって、好きだって、もっと。
でも周防は蜜よりアメフトを選びたいと思っているのだ。
今まで一度もそんなそぶりを見せなかったのに突然すぎる。
もしかして知らなかっただけで蜜の知らない水面下でこっそりと進んでいたのか?
決まったころに話せば反対されないと思って?
そんな卑怯なことをする人じゃないって知っているのに疑惑が頭の中から消えてくれない。周防を信用しきれない。
何度か着信があったけれど出なかった。
メッセージも見ないまま電源を落とした。
頭の中が混乱していてどうしたらいいのかわからないのだ。
冷静に受け止めてあげたい気持ちと、別れたくない未練と。ぐちゃぐちゃで持てあます感情をどうなだめればいいのか。
翌日は具合が悪いとずる休みをした。
嘘じゃなかった。
眠れないまま朝を迎えたら顔は腫れて酷いことになっているし、泣きすぎで頭が重くズキズキとする。
こんな状態を見られたくなかった。
母は腫れぼったい顔を風邪と勘違いして、嘘を信じて学校へ連絡してくれたようだった。
枕元に冷たい飲み物と口当たりのいいゼリーが運ばれてくる。
「時々顔を出すけどゆっくり休むのよ」
「うん、ありがと」
「お風呂上りに外に出たから風邪なんか引くのよ。でもレオくんはあの時間にどうしたのかしらね?」
「知らない」
これ以上考えたくなかった。
答えの出ない難問にパンクしてしまいそうだ。
頭から布団をかぶるとあやすように、トン、と撫でられた。まるで子供にするように。
それが涙腺を刺激してさらに泣けてきてしまった。震える身体を気づかれないよう必死に抑える。
「じゃあ、おやすみなさい」
部屋の電気を消して母が部屋から出ていった。
電源を落としたままの電話を遠くへ放ってひたすら現実逃避をし続けた。
こんなことをしても無意味だってわかっているけれど、せめてそれくらいしかできない。
昼になっておかゆを持った母が顔を出して、その後に父が果物を切って持ってきてくれた。
こんな風に家族に心配をかけてしまうのは蜜がまだ子供だからだ。
周防だって面倒だと思っているに違いない。
蜜がいなければとっくに母校へと行けただろうに。つき合っているからといって足を引っ張る蜜をどう思っただろう。
やっぱり子どもなんかと付き合うんじゃなかったと悔やんでいるかもしれない。もう別れようと言われたら?
暗い部屋で一人で閉じこもっていたら悪い考えばかりが浮かんできて、気が滅入って仕方ない。
もう破局しかないのかもしれない。
うつらうつらと夢を見ていたら大きな手に頭を撫でられた。
優しい手のひら。
愛おし気に触られると安心してしまう。
気持ちよくてうっとりと目を開けるとそこには周防がいた。
「先生?」
寝すぎて掠れた声を酷い風邪だと思ったのだろう。申し訳なさそうに顔をしかめた。
「大丈夫か」と心配そうな声がかかる。
「昨日寒かったのに外に連れ出して悪かったな。具合は? 少しは落ち着いたか?」
「……まあ、」
まさか仮病とは言いにくく言葉を濁すと安心したように息を吐いた。
「よかった。熱はなさそうだな」
ずる休みとは思わなかったのだろうか。
それとも知っててフリをしてくれている?
蜜は布団を顎まで上げるとそっと目を伏せた。
さっさとけりをつけようと別れを切り出しに来たのかもしれない。こんなめんどくさい子どもなんかすぐに捨ててやるって。
だけど周防は特に何を言うでもなく、優しい瞳で蜜を見つめるだけだった。そこに愛情があるように感じてしまって蜜はどうしていいのかわからなくなる。
まだ信じていたい。
その瞳の中にうつされていたい。
「先生」
口を開いたのは蜜が最初だった。
「ん?」
「こんなめんどくさい子どもでごめんなさい」
聞こえるかどうかの小さな声に周防はちゃんと答えてくれる。
「めんどくさくないよ。蜜のこと好きだなあって見てた」
「うそ」
「うそじゃないよ。ホントに好き。やばいくらい好きだよ。大切に思ってるから嘘をつきたくない」
やばいくらい好きなのは蜜の方だ。
この人を絶対に離したくないと願うほどに。好きだからこそ離れていくのを許せないでいる。
「ぼくも怖いくらい先生が好き」
伝えたいのはそれだけ。
周防は蜜に笑っていて欲しいというけれど、蜜だってそうだ。周防が幸せで笑っていてくれればいいと願っている。
「好き」
「そっか。じゃあ引き分けってことにしとこ」
周防は蜜の頬に触れた。
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