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第二章 Lion Heart
一歩。
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高校生活最大の楽しみといえば修学旅行だ。
今は蜜の受け持ちクラスじゃないから一緒に移動することは叶わない。だけど行先は同じなのだ。
「ワクワクドキドキ初めての旅行♡」
と、小石川が心の声をアテレコするから後頭部を教科書ではたいてやる。放課後の周防の教務室でのことだった。
「お前が言うとやらしくて18禁だわ」
「いやいやいや、絶対レオの頭の中の方が18禁だろ。20禁くらいのやばいやつ」
「うっせ。人の頭の中を勝手に覗くな」
「え、マジでヤバイくらいの妄想が……?!」
えっちーとはしゃぐ小石川を追い出そうとしたら「まてまて」と引き留められた。
「これマジの話。少しくらい二人きりになれるように協力してあげよっか」
「結構です。学校行事でそんなことをするつもりはありません」
「え、そんなつもりって別にエッチできるほどのものをあげるつもりはないんですけど」
「ばーか」
こっちはそういうことを考えないように必死なんだよ。
えっちどころか手を繋ぐのも一苦労なんだよ。キスなんてご褒美中のご褒美だ。
この前の水族館デートからかなり経っているけど、あれ以来接触はほとんどない。そもそも会える時間が圧倒的に足りない。
蜜不足で妄想がはかどってばかりだ。
「なんだつまんね」
問題発言をかます小石川を遠慮なく追い出すと同時にスマホがブルブルと震えた。
懐かしい番号に慌ててでると、周防の高校の時のアメフト部の顧問、水野からだった。
「先生ご無沙汰しています」
「おおレオ、今大丈夫か?」
あれから10年近くたつというのに溌溂としたしゃべり方は変わっていなくて、つい表情が緩む。
「大丈夫です。先生もお変わりなさそうで」
「そうでもないよ。もういいオッサンだ。おまえも元気にしてるか?」
「はいお陰様で」
高校を卒業してから不義理を続けた周防を責めないで、かわらない態度で接してくれることにホッとした。
水野は歳がそれほど違わなかったけれど、とても一生懸命で親身になってくれた先生だった。
恩師の佐々木先生とは違う方面で周防の支えになってくれた人だ。
辛いことがあったけれどアメフトをやってきたことに後悔はなかった。あのチームで戦えたことも、顧問の指導も全て周防の血肉になっている。
「近いうちに時間を取れないかな。話したいことがあるんだが」
「夜でよければいつでも」
いったいなんだろうと思ったけれど、会えるのは楽しみだった。
少しだけ世間話をして、また連絡すると言って電話は切れた。
続けられなくなってからもアメフトは好きだし、見ると血は騒ぐ。だけど母校に行く勇気はなくて卒業以来一歩も足を踏み入れていない。
ここから遠いことを言い訳にした。高速に乗ればたった一時間の場所なのに、距離より心理的に離れてしまったのだ。
今あのフィールドにたったらどんな気持ちになるんだろう。やっぱりズキズキと痛むのだろうか。
約束の日はすぐに来て指定されたお店に行くと水野はもう到着していた。久しぶりの再会なのにお互い変わっていなくてすぐにわかった。
でかい体の二人が個室に入るとギュウギュウに狭い。4人掛けの掘りごたつの部屋が小さく見えるほどだった。
「現役じゃなくても体はでかいままだな」
「や、それでも体重は結構落ちましたし、筋肉量とかは全然」
高校時代の方が今より大きく筋肉質だった。あの頃の服はガバガバにでかくてもう着ることが出来ないほどだ。
「もともといい素質があったもんな。今でも何かやってるのか?」
「黙ってるのは気持ち悪いので簡単な筋トレ程度は。でも激しいのはもう無理ですかね」
よく雨の日は古傷が痛むというけれど、周防もそうだった。気圧や天候によって治ったはずの場所がジクジクと痛む。
「そうか、守ってやれなくてすまなかったな」
頭を下げられて慌ててそれを阻んだ。
「先生は何も悪くない。あれは逃げ切れなかった俺が未熟だったせい」
反則を仕掛けられてもうまくかわせばよかっただけなのだ。あの頃は相手を恨んでいたけれど。最近になってようやく受け止めきれるようになった。
「そうか……もう大人なんだな」
水野は嬉しそうに頷いた。いつまでも誰かを恨んでいないことに安心したのだろう。
お酒を飲みながらあの頃のメンバーのあれこれを話していると懐かしく時間が戻っていくような気がした。
会うのもつらいと勝手に距離を置いていたけれど、みんな今でも周防のことを気にかけていると水野は言う。
「あの時助けられなかった自分たちが情けないってずっと悔やんでいるようだけどな。でもお前が前を向いているならよかったよ」
「そっか、あいつらが」
大事なチームメイトだった。
しんどい練習も試合で負けた時も、勝った時も、いつも一緒にいた仲間たち。お互いのことを自分の事のように味わって共に戦ったメンバーはかけがえのない大切な存在だった。
周防の痛みを一緒に抱えてくれていた。
知らなかっただけで、ずっと隣で支えてくれていたのだ。
自分ばかりが辛いと思っていたあの頃も一人じゃなかった。
今は蜜の受け持ちクラスじゃないから一緒に移動することは叶わない。だけど行先は同じなのだ。
「ワクワクドキドキ初めての旅行♡」
と、小石川が心の声をアテレコするから後頭部を教科書ではたいてやる。放課後の周防の教務室でのことだった。
「お前が言うとやらしくて18禁だわ」
「いやいやいや、絶対レオの頭の中の方が18禁だろ。20禁くらいのやばいやつ」
「うっせ。人の頭の中を勝手に覗くな」
「え、マジでヤバイくらいの妄想が……?!」
えっちーとはしゃぐ小石川を追い出そうとしたら「まてまて」と引き留められた。
「これマジの話。少しくらい二人きりになれるように協力してあげよっか」
「結構です。学校行事でそんなことをするつもりはありません」
「え、そんなつもりって別にエッチできるほどのものをあげるつもりはないんですけど」
「ばーか」
こっちはそういうことを考えないように必死なんだよ。
えっちどころか手を繋ぐのも一苦労なんだよ。キスなんてご褒美中のご褒美だ。
この前の水族館デートからかなり経っているけど、あれ以来接触はほとんどない。そもそも会える時間が圧倒的に足りない。
蜜不足で妄想がはかどってばかりだ。
「なんだつまんね」
問題発言をかます小石川を遠慮なく追い出すと同時にスマホがブルブルと震えた。
懐かしい番号に慌ててでると、周防の高校の時のアメフト部の顧問、水野からだった。
「先生ご無沙汰しています」
「おおレオ、今大丈夫か?」
あれから10年近くたつというのに溌溂としたしゃべり方は変わっていなくて、つい表情が緩む。
「大丈夫です。先生もお変わりなさそうで」
「そうでもないよ。もういいオッサンだ。おまえも元気にしてるか?」
「はいお陰様で」
高校を卒業してから不義理を続けた周防を責めないで、かわらない態度で接してくれることにホッとした。
水野は歳がそれほど違わなかったけれど、とても一生懸命で親身になってくれた先生だった。
恩師の佐々木先生とは違う方面で周防の支えになってくれた人だ。
辛いことがあったけれどアメフトをやってきたことに後悔はなかった。あのチームで戦えたことも、顧問の指導も全て周防の血肉になっている。
「近いうちに時間を取れないかな。話したいことがあるんだが」
「夜でよければいつでも」
いったいなんだろうと思ったけれど、会えるのは楽しみだった。
少しだけ世間話をして、また連絡すると言って電話は切れた。
続けられなくなってからもアメフトは好きだし、見ると血は騒ぐ。だけど母校に行く勇気はなくて卒業以来一歩も足を踏み入れていない。
ここから遠いことを言い訳にした。高速に乗ればたった一時間の場所なのに、距離より心理的に離れてしまったのだ。
今あのフィールドにたったらどんな気持ちになるんだろう。やっぱりズキズキと痛むのだろうか。
約束の日はすぐに来て指定されたお店に行くと水野はもう到着していた。久しぶりの再会なのにお互い変わっていなくてすぐにわかった。
でかい体の二人が個室に入るとギュウギュウに狭い。4人掛けの掘りごたつの部屋が小さく見えるほどだった。
「現役じゃなくても体はでかいままだな」
「や、それでも体重は結構落ちましたし、筋肉量とかは全然」
高校時代の方が今より大きく筋肉質だった。あの頃の服はガバガバにでかくてもう着ることが出来ないほどだ。
「もともといい素質があったもんな。今でも何かやってるのか?」
「黙ってるのは気持ち悪いので簡単な筋トレ程度は。でも激しいのはもう無理ですかね」
よく雨の日は古傷が痛むというけれど、周防もそうだった。気圧や天候によって治ったはずの場所がジクジクと痛む。
「そうか、守ってやれなくてすまなかったな」
頭を下げられて慌ててそれを阻んだ。
「先生は何も悪くない。あれは逃げ切れなかった俺が未熟だったせい」
反則を仕掛けられてもうまくかわせばよかっただけなのだ。あの頃は相手を恨んでいたけれど。最近になってようやく受け止めきれるようになった。
「そうか……もう大人なんだな」
水野は嬉しそうに頷いた。いつまでも誰かを恨んでいないことに安心したのだろう。
お酒を飲みながらあの頃のメンバーのあれこれを話していると懐かしく時間が戻っていくような気がした。
会うのもつらいと勝手に距離を置いていたけれど、みんな今でも周防のことを気にかけていると水野は言う。
「あの時助けられなかった自分たちが情けないってずっと悔やんでいるようだけどな。でもお前が前を向いているならよかったよ」
「そっか、あいつらが」
大事なチームメイトだった。
しんどい練習も試合で負けた時も、勝った時も、いつも一緒にいた仲間たち。お互いのことを自分の事のように味わって共に戦ったメンバーはかけがえのない大切な存在だった。
周防の痛みを一緒に抱えてくれていた。
知らなかっただけで、ずっと隣で支えてくれていたのだ。
自分ばかりが辛いと思っていたあの頃も一人じゃなかった。
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