sugar sugar honey！ 甘くとろける恋をしよう

第二章 Lion Heart

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　放課後の待ち合わせの場所に車を止めると窓を開けた。
　川べりの道は春特有の土の匂いと咲き乱れるたんぽぽで黄色く染まっている。
　夕暮れのグラデーションを背に蜜が歩いてくるのが見えた。

　少し早足に近づいて周防の車を確認するとホロっと表情を綻ばせた。
　普段学校では見せることのない安心しきった空気が蜜を包んでいる。

　フロントガラス越しに目が合うと、ヒラっと小さく胸の前で手を振った。その姿の愛らしいこと！
　この可愛さに敵うものがあるなら持ってこい！　っと叫んでしまいそうだった。世の中全てのカワイイを集めても絶対に負けないだろう。

「お疲れ」

　助手席のドアを開けると周りに誰もいないか慎重に確認してから乗り込んできた。ふわりと蜜の香りが届く。

「今日も忙しかったか？」

　聞くと頷き「最近すごく混むんですよね」と不思議そうに首を傾げた。

　蜜は今年も図書委員を続けた。
　去年の吉崎の一件で図書室に近寄らなくなるかと思ったが、やっぱり本が好きなのと委員の仕事は好きだから続けたいと気持ちが決まったようだった。

　こういう時蜜の芯の強さを実感する。
　多少の困難もめげない。
　逃げるではなく進む道を模索する姿は若さゆえなのか蜜のもつ本質なのかわからないけど、周防にとってはまぶしく見える。

　見た目の綺麗さだけではない輝きはこういうところにあるんだろう。

　事件を起こした吉崎はあれからすぐに転校という形をとった。
　最後まで自分は被害者だと言い張り、怒鳴り込んできた両親に事の顛末を説明すると慌てたように転校を選んだのだ。
　あの両親に育てられたのが彼の悲劇なのだろう。
　結局蜜への謝罪はないままだったが、縁を切れたのでそれでいいと蜜はあっさりと受け入れた。

　総一郎さんと志穂さんは当然のように怒ったが、蜜の気持ちを尊重すると見守る選択をした。
　そこには「周防を信用するから」という暗黙の脅しがあることもわかっている。

　そうして2年も図書委員になった蜜なのだが、彼に会いたい一心で図書館通いを始める生徒が多発しているのだ。
　蜜がカウンターにいる日の稼働率はわが校始まって以来の記録をマークしている。

　お勧めの本は何ですか。
　新刊は入りましたか。
　初心者でも読みやすい本はどれですか。

　などなど、会話の糸口を探してあれこれやってくる生徒に丁寧に接するからか、最近は委員の仕事の終わりも遅く疲れていることも多い。

　今もシートにぐったりと体をうずめ瞼を閉じている。

　そのまま伸し掛かってキスをしたくなる衝動を押え、周防ハンドルを握った。

「どっか気晴らしにドライブするか？」

　つきあいはじめてからも二人ができることと言えば蜜が委員会のある日だけのドライブだけだった。
　普段は部活の顧問で遅くまで残っているし、それに蜜を待たせるわけにはいかない。委員会の日だけ同じような時間に帰れるのでその時だけが一緒にいれるのだ。

　とはいえ、遅くまで連れまわすわけにはいかないし、自宅までの道のりでちょっとだけ寄り道というのがギリギリできることだ。
　もっと一緒にいたいとは思うけど、自分たちの置かれた環境を思えばこれで満足するべきなんだろう。

　蜜は「海が見たい」と言った。

「先生と花火をした海」

「いいよ、行こうか」

　車は軽やかに動き出す。
　蜜はシートにもたれたままウトウトし始めた。いつも寝てしまう自分を悔しがっているけど、寝顔を見れる特権は自分だけだと思うとまんざらでもない。

　整った顔が安心しきったように緩む瞬間は、信用されている証のようで案外嬉しいものなのだ。少しだけあいた唇にそそられるけど、そこはグっと我慢する。
　
　海に到着して起こすと案の定蜜は寝てしまったことを謝り悔しがった。

「いいじゃん、寝てる蜜を見てるのも可愛くて好き」

「やっ、って、いうか。色々話とかしたかったし。あと可愛くはないですよね、だらしなくなかったですか？」

「だらしない顔を見せてくれるのも幸せなんだよ」

　そういうとさらに恥ずかしそうに頬を染めた。
　だからそういうところも可愛い。っていうか、蜜に関して可愛いって言葉をどれだけ発してるんだろう。もしかしてギネス記録を更新できるんじゃないのかってくらい可愛いを連発してしまう。それくらいメロメロ。