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第一章 First love
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勢いよくドアが開くと周防が飛び込んできた。
「蜜!!」
蜜を認めるとギュっと抱きしめた。
あんな乱暴な事をしてどこも怪我をしていないのか、慌てて確かめるとそれどころじゃないだろと怒鳴られた。
抱きしめる腕にさらに力がこめられる。
息が苦しいくらいなのに周防の腕の中にすっぽり収まると安堵から力が抜けた。こんな安全な場所に包まれたらもう大丈夫だ。
安心したからかポロリと涙がこぼれた。
周防は大きな手の甲で涙をぬぐうと、腫れあがった顔をいたわるようにそっと撫でた。
「怖かったな……でももう大丈夫だ」
固い声にこくりと頷く。
周防は蜜の頭を押さえると口に押し込められたハンカチをそっと取り出した。殴られた時に切れた血がハンカチを所々赤く染めていた。
口に手をかけて中を覗きこむ。
「あー切れてんな……」
鉄の味が広がってジンジンと熱を持つように痛む。
縛られた手が解放されると手首には赤く跡がついていた。あばれたときにこすれたのだろう擦り傷もできている。
まるで自分が痛みを感じているように周防は顔をしかめた。
「……酷いことしやがって」
テーブルの下に転がっている吉崎を見つけると無表情で見下ろした。見たことのない冷淡な視線に蜜はビクリと体をすくませる。
「お前がやったの?」
「うう……」
頭を押さえて唸り声をあげる吉崎の状態を確認すると、たんこぶがひとつできているくらいで他に外傷はなさそうだった。
「お前がこんなことしたの?」
静かな声には大きな怒りが含まれていた。
触れた瞬間ぶっ飛ばされかねない勢いに吉崎はひ、と喉を鳴らした。ガタガタと震えている。
普段は優しい周防の中にこんな獰猛さがあるなんて知らなかった。
まさに眠れる獅子のような迫力に蜜はしがみついた。
「先生、暴力はダメ!」
今にも殴りかかりそうな気配を必死に止める。ここで暴力をふるったら全部周防が悪いことになってしまう。
こんなことをしたけれど吉崎は生徒で周防は教師だから。
どうしたって分が悪い。
「先生ぼくは無事だったので、大丈夫だから」
「無事って何? その姿のどこが無事?」
じっと見つめられて体をすくめる。
着衣の乱れに周防はチっと舌打ちをした。
「とりあえず服を着て」
「は、はい」
慌てて服を着ようとしたけれど震えていてうまくできない。周防は肩をかして服を着るのを手伝ってくれた。
その間も無言で蜜にも腹を立てているのかと不安になる。
だけど周防は、はあ、っと大きく息を吐くとガバっと頭を下げた。
「こんなことになるまで気がつかなくてごめん! ホントに腹が立って、自分が情けなくて、もう、なんて言っていいかわからないけど……申し訳なかった」
「先生?!」
そんなことを思っていたのか。
周防は何も悪くない。悪かったのは蜜の方だ。
慌ててそれを否定した。
「謝らないでください! 先生は全然悪くないから。ぼくが油断したから」
吉崎の様子がおかしいって事には気がついていた。
あの時背中を見せた蜜が悪い。
鍵を借りて自分だけで処理すればよかったのに、先輩だからと気遣ってしまったのがミスの最初だった。
最初から疑ってかかればこんなことにはならなかった。
「でももっと早く気がついていたらこんな怪我なんかさせなかった」
周防は本気で自分を責めているようだった。
「先生違うよ。助けに来てくれてありがとう。何度も呼んだの聞こえていた?」
「聞こえたよ」
周防は顔を上げるとじっと蜜を見つけた。
「お前の声ならどこにいてもちゃんと聞こえてるよ。蜜に呼ばれてるって心配になって探しに来た。まさかって思ったけどこんなことになってて……助けを呼んでくれた時にすぐにこれなくてごめん」
聞こえていた。
遠く離れていたけれどちゃんと届いていた。蜜の声を聴いていてくれた。それだけで十分だ。
周防は横目で吉崎を確認すると「おい」と声をかける。コソコソと逃げ出そうとしていたのをとっ捕まえる。
「お前は逃げれるくらい元気そうだな」
「は、離せ!」
吉崎は逆切れして周防にも殴り掛かろうとした。だけどあっけなく抑え込まれ、うう、っとうめき声をあげる。
「……まずはこいつをどうにかしないと。なるべく蜜に被害が出ないようにするけど、ちょっと我慢してな」
周防はスマホを取り出すと誰かに連絡を入れた。
まもなく数人の教師が駆けつけてくる。吉崎のクラスの担任と教頭先生と保健医だった。
「これは一体……」
惨状に教師たちは顔色を無くした。
囲まれた吉崎は観念したのかグッタリと座り込んだまま動かない。膝を抱えてまるで被害者のようにふるまっている。
「蜜!!」
蜜を認めるとギュっと抱きしめた。
あんな乱暴な事をしてどこも怪我をしていないのか、慌てて確かめるとそれどころじゃないだろと怒鳴られた。
抱きしめる腕にさらに力がこめられる。
息が苦しいくらいなのに周防の腕の中にすっぽり収まると安堵から力が抜けた。こんな安全な場所に包まれたらもう大丈夫だ。
安心したからかポロリと涙がこぼれた。
周防は大きな手の甲で涙をぬぐうと、腫れあがった顔をいたわるようにそっと撫でた。
「怖かったな……でももう大丈夫だ」
固い声にこくりと頷く。
周防は蜜の頭を押さえると口に押し込められたハンカチをそっと取り出した。殴られた時に切れた血がハンカチを所々赤く染めていた。
口に手をかけて中を覗きこむ。
「あー切れてんな……」
鉄の味が広がってジンジンと熱を持つように痛む。
縛られた手が解放されると手首には赤く跡がついていた。あばれたときにこすれたのだろう擦り傷もできている。
まるで自分が痛みを感じているように周防は顔をしかめた。
「……酷いことしやがって」
テーブルの下に転がっている吉崎を見つけると無表情で見下ろした。見たことのない冷淡な視線に蜜はビクリと体をすくませる。
「お前がやったの?」
「うう……」
頭を押さえて唸り声をあげる吉崎の状態を確認すると、たんこぶがひとつできているくらいで他に外傷はなさそうだった。
「お前がこんなことしたの?」
静かな声には大きな怒りが含まれていた。
触れた瞬間ぶっ飛ばされかねない勢いに吉崎はひ、と喉を鳴らした。ガタガタと震えている。
普段は優しい周防の中にこんな獰猛さがあるなんて知らなかった。
まさに眠れる獅子のような迫力に蜜はしがみついた。
「先生、暴力はダメ!」
今にも殴りかかりそうな気配を必死に止める。ここで暴力をふるったら全部周防が悪いことになってしまう。
こんなことをしたけれど吉崎は生徒で周防は教師だから。
どうしたって分が悪い。
「先生ぼくは無事だったので、大丈夫だから」
「無事って何? その姿のどこが無事?」
じっと見つめられて体をすくめる。
着衣の乱れに周防はチっと舌打ちをした。
「とりあえず服を着て」
「は、はい」
慌てて服を着ようとしたけれど震えていてうまくできない。周防は肩をかして服を着るのを手伝ってくれた。
その間も無言で蜜にも腹を立てているのかと不安になる。
だけど周防は、はあ、っと大きく息を吐くとガバっと頭を下げた。
「こんなことになるまで気がつかなくてごめん! ホントに腹が立って、自分が情けなくて、もう、なんて言っていいかわからないけど……申し訳なかった」
「先生?!」
そんなことを思っていたのか。
周防は何も悪くない。悪かったのは蜜の方だ。
慌ててそれを否定した。
「謝らないでください! 先生は全然悪くないから。ぼくが油断したから」
吉崎の様子がおかしいって事には気がついていた。
あの時背中を見せた蜜が悪い。
鍵を借りて自分だけで処理すればよかったのに、先輩だからと気遣ってしまったのがミスの最初だった。
最初から疑ってかかればこんなことにはならなかった。
「でももっと早く気がついていたらこんな怪我なんかさせなかった」
周防は本気で自分を責めているようだった。
「先生違うよ。助けに来てくれてありがとう。何度も呼んだの聞こえていた?」
「聞こえたよ」
周防は顔を上げるとじっと蜜を見つけた。
「お前の声ならどこにいてもちゃんと聞こえてるよ。蜜に呼ばれてるって心配になって探しに来た。まさかって思ったけどこんなことになってて……助けを呼んでくれた時にすぐにこれなくてごめん」
聞こえていた。
遠く離れていたけれどちゃんと届いていた。蜜の声を聴いていてくれた。それだけで十分だ。
周防は横目で吉崎を確認すると「おい」と声をかける。コソコソと逃げ出そうとしていたのをとっ捕まえる。
「お前は逃げれるくらい元気そうだな」
「は、離せ!」
吉崎は逆切れして周防にも殴り掛かろうとした。だけどあっけなく抑え込まれ、うう、っとうめき声をあげる。
「……まずはこいつをどうにかしないと。なるべく蜜に被害が出ないようにするけど、ちょっと我慢してな」
周防はスマホを取り出すと誰かに連絡を入れた。
まもなく数人の教師が駆けつけてくる。吉崎のクラスの担任と教頭先生と保健医だった。
「これは一体……」
惨状に教師たちは顔色を無くした。
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