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第一章 First love

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 全身を抑え込まれ、身動きが取れない。
 テーブルの上に転がったものだから足が床につかなくて力が入らない。膝をついて四つ這いになって伸し掛かる吉崎の方が有利だった。

「やめて、先輩!」

「そうやって怖がるふりをすれば男が喜ぶとでも思ってるのか? 何人たらし込んだ……君は! 可愛い顔をしながらこの売女め」

 わざとらしいくらい卑猥な言葉で責める吉崎は、自分に酔ったように瞳をギラギラとさせている。

「男だけじゃなく女まで虜にして、この体のせいか、それとも顔か。僕にも教えろよ」

「し、知らないっ! 誰のこともたらしこんでなんかないっ!」

「うそつき。みんな君に惹かれる……きれいな顔をして性悪め。君が悪いんだよ、ぼくがこうなったのもみんなお前のせいだ」

 真上から蜜を見下ろす吉崎は興奮して息が荒くなっている。はあはあと生暖かい呼吸が至近距離からかかる。知性がどこにも見当たらないくらい瞳が蜜を捕えた。

「でも許してあげる、蜜、僕だけの天使……」

 顔が近づいてくる。
 肌の隅々までみえてしまうような至近距離に蜜は顔をしかめた。なんとか逃れようと体をひねるが意外と力のある吉崎に抑え込まれどうにも動かない。

 せめてもの抵抗で顔を背けるとグっと頬を掴まれ仰向けにされた。指の力が尋常じゃないほどつよい。めり込む痛みに顔をしかめた。

「やめっ……」

 グリグリと首を振って抵抗したけれどそれは叶わず、まつ毛が触れたと思った瞬間ぬめるような気持ち悪さが蜜の唇を襲った。

「ん。ん-ーーんーーーー」

 顔を押える手をどけようと力を入れたけれどまったく敵わない。そのうち唇だけじゃなく顔中をなめくじのような舌がはい回った。
 気持ち悪い。
 生ぬるい舌が這った後は唾液が渇いて引きつっていく。

 ボロボロと涙がこぼれた。
 なんでこんな場所でこんな奴に襲われて好き勝手されなきゃいけないんだ。勝手に勘違いして被害妄想をぶちまけたと思うと一方的に好意を晒して行動に起こす。
 どこにも蜜への愛情なんか感じられない。身勝手な欲望。

 最悪だ。
 最低すぎる。

 こんな奴に好き勝手されている非力さにも腹が立つ。今すぐにでも押しのけて蹴飛ばして逃げ出したいのに。

(先生、助けて!)

 何度も心の中で叫んだ。
 周防に見られたくないのに助けて欲しい。

 誰よりも知られたくないのに救われたい。

「んんんんん!!!」

 キスに夢中になっている吉崎の力が抜けた瞬間を狙って渾身の力を込めて跳ね返した。
 だけど反撃はそこまでで跳ね返された吉崎は激しく蜜を打った。

 グラリと視界がブレた。目の奥に光が散る。
 頬がジンジンと痺れるように痛い。唇も切れたようで口の中に血の味が広がった。怖い。

「大人しくしていなよ。これくらいどってことないんだろ?」

 反射的に頬を押えた蜜をうつぶせに転がすと、背中の上にのしかかり今度はうなじへと唇を這わせた。

 細い首から耳の後ろへと吸い付きながら舌を這わせている。
 全身に鳥肌が立った。悪寒に震えるとそれを快感だと思い込んだ吉崎は嬉しそうに喉を鳴らした。

「なんだ、やっぱり気持ちよくなってるんじゃないか。淫乱め」

「気持ちよくなんか、なるはずないだろっ」

「うるさいよ。君は僕の下で喘いでいればいいんだよ」

 抑えつけられたこめかみがテーブルに押し付けられてギリギリと痛んだ。

 ふいにベルトが外されシャツの裾を引っ張りあげられた。空いたスペースに吉崎の手が入ってきて無防備な肌を撫でる。

「ああ……君は肌もなめらかで美しいんだな……」

 伸びてきた指が胸の先端をかすめ、小さなふくらみを擦った。

「ふふ、可愛い顔に似合う小さな乳首だね」

「やめろっ!!」

 こねるように摘ままれても気持ち悪いだけで蜜は体をよじった。それを気持ちよさに悶えたと捕えた吉崎は気をよくしたように反対側にも手を伸ばす。

「あんたっ、……頭おかしいよ。こんなの、犯罪だよ」

 こんなこと許されるはずがない。絶対に許さない。蜜は、は、と鼻を鳴らすと吉崎をなじった。

「ぼくを好きだって? 冗談でしょ。本当に好きな人にこんな扱いするはずない。自分の自信のなさを誤魔化すために暴力で、こういうの浅ましいっていうんだよ」

 ギリギリと押えられながらも絶対に好きにさせないと吉崎を仰ぎ見た。嘲るように笑みを見せる。

「まじで気持ち悪いよ、先輩」



 
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