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第一章 First love
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一般公開が終わるとようやく文化祭も最後のメインイベント、キャンプファイヤーと花火の打ち上げだけになった。
男子ばかりで火の回りをマイムマイムすると思うとかなりシュールな景色だったけれど、青春の1ページというのはそういうものだったりする。
おなじように部活の出し物に借り出されていた太一や裕二と片付けが終わったら連絡をしあうことにしていた。
図書委員はほとんど物をつかわなかったから、テーブルを戻したり飾っていた本を本棚に戻すくらいの簡単な作業ですぐにおわった。
私服に着替えて先に校庭にむかうとすでにかなりの人数が集まっていて、燃え盛る火を眺めながら余韻に浸っている。
さすがに疲れたと、縁石に座りながら火を眺めていた。
カバンからジュースを取り出し口をつける。まだ連絡が来ていなかったかなとスマホを取り出そうとしたらどこにもない。
着替える前には連絡を取るのに使っていたから間違いなくあった。
その後にどこかに置いてきたのか。
思い当たるのは図書室しかなく、蜜は一人で校内へと戻った。
さっきまで祭りの雰囲気一色だった校内も、飾りが撤去されいつもの姿に戻っていくのを見ると少しだけもの悲しさを感じる。
学校イベントは苦手な方だったしあまり楽しめた記憶がないけど、今年はすごく楽しかった。
三田たちも最後まで楽しんで帰っただろうか。
あとで連絡してみよう。
こんなことを考える自分がけっこういいな、と蜜は思う。
中学までだったら絶対にそんなことはしない。
友達の大切さとか楽しさとか、高校に入ってからの方が断然強い。この学校を選んで本当に良かった。
図書室のある3階はすでに人気もなく、蜜の足音だけが響く。廊下の電気がかろうじてついているのは助かった。真っ暗な中進むのはさすがに怖い。
図書室は誰もいなくなったのかあかりが消えていた。
一瞬だけ迷って、スイッチに手を伸ばす。
誰かに聞かれたら探し物に来たと言えば怒られないだろう。
3つに分かれた電気系統の入り口側だけをつけた。
準備室で着替えをしたからそっちにある可能性もある。黒板の裏側にある準備室をのぞき込むと、ふいに背中に声をかけられた。
「探し物?」
「わっ」
飛び上がってしまった。心臓がバクバクと音を立てている。
まさか誰かいるとはおもわなかった。
「すみません、スマホをわすれたみたいで」
振り返るとそこにいるのは吉崎だった。
曇った眼鏡のその奥の瞳がわからない。視線が合わない不確かさに心がざわついた。
ここ最近の様子のおかしさを考えると二人きりになるのは避けたかった。でも吉崎はニコリと笑うとポケットから準備室の鍵を取り出した。
「それは困るよね。最後の戸締りをしていたところだからちょうどよかった。今鍵を開けてあげる」
初めて会ったころのような人の好さそうな笑顔に、少しだけ警戒心を解く。さっさと見つけて帰ればいいだけだと言い聞かせた。
「ありがとうございます」
ドアを開けて中に入ると、着替えの時に使ったテーブルの上にスマホが置いてあるのが見えた。
「ありました」
すぐに見つかってよかったと胸をなでおろしたのも束の間、ガチャリと固い音が聞こえた。何事かと振り返るとドアの前に吉崎が経っていて、じっと蜜を見つめていた。
まさか閉じ込められたわけじゃないよな、と笑顔が引きつった。
「先輩、見つかったのでもう出ましょう?」
声が震えてしまいそうだった。怖がっているとバレたら弱みを握られそうでわざとなんともない雰囲気を装う。
怖くない。
平気。
なんともない。
何も起こらない。
「今日もさ、たくさんお客さん集まってきていたよね」
まるで世間話をするように吉崎は呟いた。
「最初は小石川。周防。そしてホテルの男、女。その他もみんな、君に会いに来ていた」
「先輩。早く出ましょうって」
「君はどこまで人をたらし込めば気が済むのかなあ? いつも誰かに囲まれてニコニコ笑って気に入られるように媚びをうって。綺麗な顔をしてるからっていい気なもんだ」
「先輩!」
ズカズカとドアに近づいて力づくで開けようと思った。背中にガートされているけれど吉崎くらいならなんとか勝てるかもしれないと目算もあった。
「君はなんで僕に対してだけそんなに冷たいんだ? 僕が君を好きな事くらい気がついているんだろう? どうして素直に受け止めてくれないんだ」
至近距離で見つめられた瞳は暗い色に染まっていた。
笑っているのに怖い。やばい。
「先輩」
「いい加減僕だけのものになれよお!」
どこにそんな力があるのかと思うくらいだった。
伸し掛かられ、準備室のテーブルの上にひっくり返った。背中を強くぶって息が止まりそうになる。
「痛っ」
「他の奴らになんか渡さないから……」
男子ばかりで火の回りをマイムマイムすると思うとかなりシュールな景色だったけれど、青春の1ページというのはそういうものだったりする。
おなじように部活の出し物に借り出されていた太一や裕二と片付けが終わったら連絡をしあうことにしていた。
図書委員はほとんど物をつかわなかったから、テーブルを戻したり飾っていた本を本棚に戻すくらいの簡単な作業ですぐにおわった。
私服に着替えて先に校庭にむかうとすでにかなりの人数が集まっていて、燃え盛る火を眺めながら余韻に浸っている。
さすがに疲れたと、縁石に座りながら火を眺めていた。
カバンからジュースを取り出し口をつける。まだ連絡が来ていなかったかなとスマホを取り出そうとしたらどこにもない。
着替える前には連絡を取るのに使っていたから間違いなくあった。
その後にどこかに置いてきたのか。
思い当たるのは図書室しかなく、蜜は一人で校内へと戻った。
さっきまで祭りの雰囲気一色だった校内も、飾りが撤去されいつもの姿に戻っていくのを見ると少しだけもの悲しさを感じる。
学校イベントは苦手な方だったしあまり楽しめた記憶がないけど、今年はすごく楽しかった。
三田たちも最後まで楽しんで帰っただろうか。
あとで連絡してみよう。
こんなことを考える自分がけっこういいな、と蜜は思う。
中学までだったら絶対にそんなことはしない。
友達の大切さとか楽しさとか、高校に入ってからの方が断然強い。この学校を選んで本当に良かった。
図書室のある3階はすでに人気もなく、蜜の足音だけが響く。廊下の電気がかろうじてついているのは助かった。真っ暗な中進むのはさすがに怖い。
図書室は誰もいなくなったのかあかりが消えていた。
一瞬だけ迷って、スイッチに手を伸ばす。
誰かに聞かれたら探し物に来たと言えば怒られないだろう。
3つに分かれた電気系統の入り口側だけをつけた。
準備室で着替えをしたからそっちにある可能性もある。黒板の裏側にある準備室をのぞき込むと、ふいに背中に声をかけられた。
「探し物?」
「わっ」
飛び上がってしまった。心臓がバクバクと音を立てている。
まさか誰かいるとはおもわなかった。
「すみません、スマホをわすれたみたいで」
振り返るとそこにいるのは吉崎だった。
曇った眼鏡のその奥の瞳がわからない。視線が合わない不確かさに心がざわついた。
ここ最近の様子のおかしさを考えると二人きりになるのは避けたかった。でも吉崎はニコリと笑うとポケットから準備室の鍵を取り出した。
「それは困るよね。最後の戸締りをしていたところだからちょうどよかった。今鍵を開けてあげる」
初めて会ったころのような人の好さそうな笑顔に、少しだけ警戒心を解く。さっさと見つけて帰ればいいだけだと言い聞かせた。
「ありがとうございます」
ドアを開けて中に入ると、着替えの時に使ったテーブルの上にスマホが置いてあるのが見えた。
「ありました」
すぐに見つかってよかったと胸をなでおろしたのも束の間、ガチャリと固い音が聞こえた。何事かと振り返るとドアの前に吉崎が経っていて、じっと蜜を見つめていた。
まさか閉じ込められたわけじゃないよな、と笑顔が引きつった。
「先輩、見つかったのでもう出ましょう?」
声が震えてしまいそうだった。怖がっているとバレたら弱みを握られそうでわざとなんともない雰囲気を装う。
怖くない。
平気。
なんともない。
何も起こらない。
「今日もさ、たくさんお客さん集まってきていたよね」
まるで世間話をするように吉崎は呟いた。
「最初は小石川。周防。そしてホテルの男、女。その他もみんな、君に会いに来ていた」
「先輩。早く出ましょうって」
「君はどこまで人をたらし込めば気が済むのかなあ? いつも誰かに囲まれてニコニコ笑って気に入られるように媚びをうって。綺麗な顔をしてるからっていい気なもんだ」
「先輩!」
ズカズカとドアに近づいて力づくで開けようと思った。背中にガートされているけれど吉崎くらいならなんとか勝てるかもしれないと目算もあった。
「君はなんで僕に対してだけそんなに冷たいんだ? 僕が君を好きな事くらい気がついているんだろう? どうして素直に受け止めてくれないんだ」
至近距離で見つめられた瞳は暗い色に染まっていた。
笑っているのに怖い。やばい。
「先輩」
「いい加減僕だけのものになれよお!」
どこにそんな力があるのかと思うくらいだった。
伸し掛かられ、準備室のテーブルの上にひっくり返った。背中を強くぶって息が止まりそうになる。
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