53 / 119
第一章 First love
醜い暴走。
しおりを挟む
二学期最後の大きなイベントは文化祭だった。
中学とは全然違う規模の大きさに初めて体験する一年生は大いに盛り上がっていた。
クラスだけじゃなく部活や委員会などそれぞれのパーツに別れて繰り出される出し物に、みんな力が入って毎日遅くまで準備に取り掛かった。
蜜は委員会の方に出る予定だった。
このタイミングで吉崎と顔を合わせるのはかなり不安だったけど、遠くからジトっと見つめてくるだけで騒ぎを大きくする気配はなかった。
もちろん誤解だし、ホテルになんか入っていないから確認してもらえれば一発で間違いだったとわかってもらえるだろう。
ただ粘着質な彼の性質は一抹の不安を残していた。
とはいえ、準備期間中はほどんとみんな同時に活動していたし吉崎と二人きりになることもなかったので問題は起こらなかった。
蜜がなるべく接点を持とうとしなかったのもある。
時間が経てば落ち着いてくれるかもしれないと甘い期待があるのも事実だ。冷静に考えれば蜜が男とホテルから出てくるなんてあるわけがないのだ。
図書委員の出し物は「本ソムリエが選ぶあなたにお勧めの一冊」という真面目な催しだった。
あまり本を読まない人にも親しんでもらおうと興味のあることや好きなことなどをチャートでたどるとお勧めの作家や本の系統などを案内できるようになっている。
蜜たち図書委員はソムリエとつけているだけあって、白いワイシャツに黒いパンツとベスト、そしてソムリエエプロンといういで立ちでお客様を出迎える。
一般公開当日、本格的に決めた格好は部員たちから見てもかっこよく、まるで本物のソムリエになった気分がしてテンションもあがっていた。
もちろん蜜もそのスタイルで一日を過ごすこととなる。
「おお~みっつかっこいいなあ」
校内の見回りに来ていた小石川がさっそく蜜をからかいに顔を出した。
「オススメのワインをください」
「先生、ここは学校です。アルコールの提供はありません」
ズバっと切り捨てるとええ~っと哀しそうに泣くふりをする。
「せっかくソムリエにオススメを頂けると思ったのにい」
「先生。ここは図書室ですから」
「ですよね~」と相変わらずのテンションだ。
遅れて周防も顔を出しに来てくれて、やっぱり蜜のソムリエ姿を褒めてくれた。
「いいな。めっちゃ似合ってる。写真撮ってやろっか」
「じゃあみっつとのツーショットでよろ」と小石川が肩を組み、写真におさまろうとした。
「なんで圭吾が入った写真撮んなきゃならんの」
「いいじゃん。かっこいいみっつと写真欲しい」
どうする? と一応蜜に確認を取ってくれる。
「いらないでしょ」と切り捨てると小石川は傷心のままとぼとぼとどこかへ消えていった。
「いっちゃった」
「また戻ってくるよ、絶対。あいつは諦めてないはずだから」
「そうなんですか」
周防は図書室の中ものぞき込み、オススメコーナーなどを眺めている。
「面白そうでいいじゃん。本が好きな子が増えるといいよな」
「これをきっかけに手に取ってもらえればと思って」
周防と話をしているとピリっとした強い視線を感じて、見ると吉崎だった。図書室のイスに腰を掛けながら廊下で話し込む蜜たちをじっとみつめている。その瞳に色はなく背筋を冷たいものが流れた。
もしかしてまだ勘違いしたまま根に持っているのだろうか。
こうして周防と話していると余計なことを勘ぐられそうで、蜜は周防に先を促した。
「先生、忙しいと思うのでどうぞ行ってください。ぼくもそろそろ始まるので」
「そうか? じゃあがんばれよ」
まるで押し返すような態度の悪さを気にしないように周防は手を振りながら先へ進もうとした。
その時だった。
「蜜っち~~~♪」と賑やかな一段が現れたのは。
中学とは全然違う規模の大きさに初めて体験する一年生は大いに盛り上がっていた。
クラスだけじゃなく部活や委員会などそれぞれのパーツに別れて繰り出される出し物に、みんな力が入って毎日遅くまで準備に取り掛かった。
蜜は委員会の方に出る予定だった。
このタイミングで吉崎と顔を合わせるのはかなり不安だったけど、遠くからジトっと見つめてくるだけで騒ぎを大きくする気配はなかった。
もちろん誤解だし、ホテルになんか入っていないから確認してもらえれば一発で間違いだったとわかってもらえるだろう。
ただ粘着質な彼の性質は一抹の不安を残していた。
とはいえ、準備期間中はほどんとみんな同時に活動していたし吉崎と二人きりになることもなかったので問題は起こらなかった。
蜜がなるべく接点を持とうとしなかったのもある。
時間が経てば落ち着いてくれるかもしれないと甘い期待があるのも事実だ。冷静に考えれば蜜が男とホテルから出てくるなんてあるわけがないのだ。
図書委員の出し物は「本ソムリエが選ぶあなたにお勧めの一冊」という真面目な催しだった。
あまり本を読まない人にも親しんでもらおうと興味のあることや好きなことなどをチャートでたどるとお勧めの作家や本の系統などを案内できるようになっている。
蜜たち図書委員はソムリエとつけているだけあって、白いワイシャツに黒いパンツとベスト、そしてソムリエエプロンといういで立ちでお客様を出迎える。
一般公開当日、本格的に決めた格好は部員たちから見てもかっこよく、まるで本物のソムリエになった気分がしてテンションもあがっていた。
もちろん蜜もそのスタイルで一日を過ごすこととなる。
「おお~みっつかっこいいなあ」
校内の見回りに来ていた小石川がさっそく蜜をからかいに顔を出した。
「オススメのワインをください」
「先生、ここは学校です。アルコールの提供はありません」
ズバっと切り捨てるとええ~っと哀しそうに泣くふりをする。
「せっかくソムリエにオススメを頂けると思ったのにい」
「先生。ここは図書室ですから」
「ですよね~」と相変わらずのテンションだ。
遅れて周防も顔を出しに来てくれて、やっぱり蜜のソムリエ姿を褒めてくれた。
「いいな。めっちゃ似合ってる。写真撮ってやろっか」
「じゃあみっつとのツーショットでよろ」と小石川が肩を組み、写真におさまろうとした。
「なんで圭吾が入った写真撮んなきゃならんの」
「いいじゃん。かっこいいみっつと写真欲しい」
どうする? と一応蜜に確認を取ってくれる。
「いらないでしょ」と切り捨てると小石川は傷心のままとぼとぼとどこかへ消えていった。
「いっちゃった」
「また戻ってくるよ、絶対。あいつは諦めてないはずだから」
「そうなんですか」
周防は図書室の中ものぞき込み、オススメコーナーなどを眺めている。
「面白そうでいいじゃん。本が好きな子が増えるといいよな」
「これをきっかけに手に取ってもらえればと思って」
周防と話をしているとピリっとした強い視線を感じて、見ると吉崎だった。図書室のイスに腰を掛けながら廊下で話し込む蜜たちをじっとみつめている。その瞳に色はなく背筋を冷たいものが流れた。
もしかしてまだ勘違いしたまま根に持っているのだろうか。
こうして周防と話していると余計なことを勘ぐられそうで、蜜は周防に先を促した。
「先生、忙しいと思うのでどうぞ行ってください。ぼくもそろそろ始まるので」
「そうか? じゃあがんばれよ」
まるで押し返すような態度の悪さを気にしないように周防は手を振りながら先へ進もうとした。
その時だった。
「蜜っち~~~♪」と賑やかな一段が現れたのは。
5
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました
葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー
最悪な展開からの運命的な出会い
年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。
そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。
人生最悪の展開、と思ったけれど。
思いがけずに運命的な出会いをしました。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
没落貴族の愛され方
シオ
BL
魔法が衰退し、科学技術が躍進を続ける現代に似た世界観です。没落貴族のセナが、勝ち組貴族のラーフに溺愛されつつも、それに気付かない物語です。
※攻めの女性との絡みが一話のみあります。苦手な方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる