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第一章 First love
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カラオケといいながら結局大人数が入れて騒げる場所であればよかっただけなので、ほとんどBGMと化した音楽に負けない音声でみんなが盛り上がっている。
ジュースやお菓子や軽食がテーブルに山となってそれらをつまみながらトーク……という趣旨らしいが、蜜のテーブルは物静かなのか話題を出す人もいなく、互いにニコ~っと微笑みあっては困っている状況だった。
「ゴホ」と咳払いをして話し出したのはおとなしそうに見えた女子、関本さんだった。
「佐藤くんて男子校なんですよね」
「そうだね」
「じゃあやっぱり男ばっかりなんですか」
「まあ男子校だし。女子がいたら大変だろうね」
当然のことだろう。
女子がいたらそれは共学だ。
だけど関本さんは頬を高揚させながら隣に座る大人っぽい女子松川さんを肘でつついた。二人で目を合わせ口元を震わせている。
この反応ってなに?
困った蜜は三田に助けを求めたけれど役には立たなかった。
「男子校に女子がいたらマンガみてえ~」とウケている。
二人はメモを取り出すと刑事よろしく質問を続けた。
「えっと、不躾な質問ですけど……佐藤くんってきれいですけど男子に告白ってされたことはありますか」
「はい?」
えっと、と答えに詰まる。
実は何人かに告白はされている。
放課後の教室で。廊下で。屋上で。登下校の途中で。バスの中で。すべて断ってはいるけども。
自分の気持ちを告白する勇気ってすごいよなと今の蜜ならわかる。話したことのない人ならなおさら。
弱みにもなりえる部分を差し出すにはどれだけの覚悟が必要なのか。何が背中を押したのか。
告白にたどり着くまで、玉砕してから、どれもがわかるようになった。
それを茶化すように他人に言うのは違うと思ったから黙って誤魔化した。
「なんでそういうこと聞くの?」
「男子校だからそういうのってあるのかなって思って」
男子校だから、という理由がよくわからない。
じゃあ女子高だったら女子に告白されるのか?
「ぼくについてはノートコメント。でもわりと彼女がいる奴は多いよ」
「じゃあ、佐藤くんも彼女が?」
いないと答えると、彼女たちは目を合わせ満足げに頷いた。
それはどういう意味なんだ。
彼女がいないんだってはははーって笑うつもりなのか。それとも彼女がいないならチャンスありってつもりなのか。
さっきから繰り出される質問といい反応といい、ケバケバしい女子たちに囲まれるのも拷問だけどこのメンバーもかなり謎に包まれている。
さっきから勢いよく取っているメモもなんなのか気になる。蜜の何かを記録されているのか。いったい何のために。
やっぱり女子ってよくわからない。
だけど次々と繰り出される質問に答えているうちにひょっこり、周防のことを話してしまった。
仲良くしている先生はいるけど、という感じで。
「そこを!! 詳しく!!!」
最初の大人しそうな印象を覆すように二人は身を乗り出した。
高揚し食いついてくる女子二人に圧倒されるように蜜はポロポロと心のうちを吐き出してしまっていた。
なんて質問上手なんだ。答えやすいように的確な言葉を繰り出している。答えに詰まると少し趣を変えてくるテクニックは高校生のものとは思えないスマートさだった。
もしかして新聞部に所属とか?
男子校の秘密って記事を取材していたのか、もしかして。
いぶかしがる蜜をさらに混乱させたのが三田の存在だった。何故か女子たちに混ざって質問を繰り出していたのだ。
お前は味方じゃなく敵だったのか。
それとも三田も新聞部?
冷静に「落ち着け」と言い聞かせているのに三人がかりの誘導尋問は進み、あっさりと蜜は身ぐるみはがされてしまった。
最初に置いていた距離はあっさりと詰められ、何もかも吐かされていた。
これが刑務所だったら間違いなく蜜は黒だ。
実刑をくらうことになるだろう。
「は~。それは発展する確率は高いですよね。イケますよ、蜜さん。大丈夫、わたしたちめっちゃ応援していますから」
いつの間にか名前呼びにもなっている。
「するする! 蜜が誰かを好きになったら応援する!」
「わたしたち、蜜っちの味方ですから!!」
蜜っち?
「あ、ありがと……」
迫力に押され蜜はコクコクと頷くばかりだった。
周防の過去などはかろうじて避けたけど、誰かに聞いてもらうと少しだけ気が楽になった。
こんなこと太一や裕二には言えない。
普段の生活に接点のない人たちだから話せたのかもしれなかった。
思いがけず味方ができて、今回参加してみてよかったのかなと思った。
今までの蜜なら絶対に参加もしなければ、自分のことを話すこともなかった。
絶対に隠しきるし人に詮索されるのも嫌だったから。上辺だけのきれいな笑顔で乗り切ることが常だった。
やっぱり丸くなったのかな、と思う。
最後にみんなで連絡先を交換し合って、お開きになった。
「何か進展したり悩んだらいつでも連絡くださいね!!」
「いくらでも力になるから!!」
苦手だと思っていた女子だけど、わけもわからず仲良くなってしまった。また4人で会おうねと手を振りながら彼女たちは雑踏の中へと消えていった。
残された三田と二人でブラブラと街を歩く。
「あれってさ、なんだったんだろうな……」
呆然と呟くと三田は「あれでしょ、BL好きな人たち」という。
「BL?」
初めて聴く単語に首を傾げると「ボーイズがラブするやつ」と答えが届いた。
「へ? そんなのあるの?」
「あるある。うちの姉ちゃん大好きでさ。結構えげつないの。ウチのリビングに放置されてるの見たらびっくりするぜ」
そんなものがあるのか。全然知らなかった。
だから男子校だから男が恋人かって質問が飛び出すのか。
「あの子たちもそうだったんだな。かなり蜜に食いついてたもんね。今頃いいネタを仕入れたって盛り上がってるぜ。ちなみにおれのねーちゃんも蜜にインタビューしてみたいってうるさかった」
的確な質問は地盤があったからこそなのか。
蜜の知らない世界はまだまだたくさんあると思い知らされる。変に感心していると三田はさらに爆弾発言を仕掛けてきた。
「でもほんとのとこはどうなの?」
まっすぐな視線に射すくめられる。
「やっぱ好きなんだろ。その人の事」
ジュースやお菓子や軽食がテーブルに山となってそれらをつまみながらトーク……という趣旨らしいが、蜜のテーブルは物静かなのか話題を出す人もいなく、互いにニコ~っと微笑みあっては困っている状況だった。
「ゴホ」と咳払いをして話し出したのはおとなしそうに見えた女子、関本さんだった。
「佐藤くんて男子校なんですよね」
「そうだね」
「じゃあやっぱり男ばっかりなんですか」
「まあ男子校だし。女子がいたら大変だろうね」
当然のことだろう。
女子がいたらそれは共学だ。
だけど関本さんは頬を高揚させながら隣に座る大人っぽい女子松川さんを肘でつついた。二人で目を合わせ口元を震わせている。
この反応ってなに?
困った蜜は三田に助けを求めたけれど役には立たなかった。
「男子校に女子がいたらマンガみてえ~」とウケている。
二人はメモを取り出すと刑事よろしく質問を続けた。
「えっと、不躾な質問ですけど……佐藤くんってきれいですけど男子に告白ってされたことはありますか」
「はい?」
えっと、と答えに詰まる。
実は何人かに告白はされている。
放課後の教室で。廊下で。屋上で。登下校の途中で。バスの中で。すべて断ってはいるけども。
自分の気持ちを告白する勇気ってすごいよなと今の蜜ならわかる。話したことのない人ならなおさら。
弱みにもなりえる部分を差し出すにはどれだけの覚悟が必要なのか。何が背中を押したのか。
告白にたどり着くまで、玉砕してから、どれもがわかるようになった。
それを茶化すように他人に言うのは違うと思ったから黙って誤魔化した。
「なんでそういうこと聞くの?」
「男子校だからそういうのってあるのかなって思って」
男子校だから、という理由がよくわからない。
じゃあ女子高だったら女子に告白されるのか?
「ぼくについてはノートコメント。でもわりと彼女がいる奴は多いよ」
「じゃあ、佐藤くんも彼女が?」
いないと答えると、彼女たちは目を合わせ満足げに頷いた。
それはどういう意味なんだ。
彼女がいないんだってはははーって笑うつもりなのか。それとも彼女がいないならチャンスありってつもりなのか。
さっきから繰り出される質問といい反応といい、ケバケバしい女子たちに囲まれるのも拷問だけどこのメンバーもかなり謎に包まれている。
さっきから勢いよく取っているメモもなんなのか気になる。蜜の何かを記録されているのか。いったい何のために。
やっぱり女子ってよくわからない。
だけど次々と繰り出される質問に答えているうちにひょっこり、周防のことを話してしまった。
仲良くしている先生はいるけど、という感じで。
「そこを!! 詳しく!!!」
最初の大人しそうな印象を覆すように二人は身を乗り出した。
高揚し食いついてくる女子二人に圧倒されるように蜜はポロポロと心のうちを吐き出してしまっていた。
なんて質問上手なんだ。答えやすいように的確な言葉を繰り出している。答えに詰まると少し趣を変えてくるテクニックは高校生のものとは思えないスマートさだった。
もしかして新聞部に所属とか?
男子校の秘密って記事を取材していたのか、もしかして。
いぶかしがる蜜をさらに混乱させたのが三田の存在だった。何故か女子たちに混ざって質問を繰り出していたのだ。
お前は味方じゃなく敵だったのか。
それとも三田も新聞部?
冷静に「落ち着け」と言い聞かせているのに三人がかりの誘導尋問は進み、あっさりと蜜は身ぐるみはがされてしまった。
最初に置いていた距離はあっさりと詰められ、何もかも吐かされていた。
これが刑務所だったら間違いなく蜜は黒だ。
実刑をくらうことになるだろう。
「は~。それは発展する確率は高いですよね。イケますよ、蜜さん。大丈夫、わたしたちめっちゃ応援していますから」
いつの間にか名前呼びにもなっている。
「するする! 蜜が誰かを好きになったら応援する!」
「わたしたち、蜜っちの味方ですから!!」
蜜っち?
「あ、ありがと……」
迫力に押され蜜はコクコクと頷くばかりだった。
周防の過去などはかろうじて避けたけど、誰かに聞いてもらうと少しだけ気が楽になった。
こんなこと太一や裕二には言えない。
普段の生活に接点のない人たちだから話せたのかもしれなかった。
思いがけず味方ができて、今回参加してみてよかったのかなと思った。
今までの蜜なら絶対に参加もしなければ、自分のことを話すこともなかった。
絶対に隠しきるし人に詮索されるのも嫌だったから。上辺だけのきれいな笑顔で乗り切ることが常だった。
やっぱり丸くなったのかな、と思う。
最後にみんなで連絡先を交換し合って、お開きになった。
「何か進展したり悩んだらいつでも連絡くださいね!!」
「いくらでも力になるから!!」
苦手だと思っていた女子だけど、わけもわからず仲良くなってしまった。また4人で会おうねと手を振りながら彼女たちは雑踏の中へと消えていった。
残された三田と二人でブラブラと街を歩く。
「あれってさ、なんだったんだろうな……」
呆然と呟くと三田は「あれでしょ、BL好きな人たち」という。
「BL?」
初めて聴く単語に首を傾げると「ボーイズがラブするやつ」と答えが届いた。
「へ? そんなのあるの?」
「あるある。うちの姉ちゃん大好きでさ。結構えげつないの。ウチのリビングに放置されてるの見たらびっくりするぜ」
そんなものがあるのか。全然知らなかった。
だから男子校だから男が恋人かって質問が飛び出すのか。
「あの子たちもそうだったんだな。かなり蜜に食いついてたもんね。今頃いいネタを仕入れたって盛り上がってるぜ。ちなみにおれのねーちゃんも蜜にインタビューしてみたいってうるさかった」
的確な質問は地盤があったからこそなのか。
蜜の知らない世界はまだまだたくさんあると思い知らされる。変に感心していると三田はさらに爆弾発言を仕掛けてきた。
「でもほんとのとこはどうなの?」
まっすぐな視線に射すくめられる。
「やっぱ好きなんだろ。その人の事」
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