sugar sugar honey! 甘くとろける恋をしよう

乃木のき

文字の大きさ
上 下
50 / 119
第一章 First love

2

しおりを挟む
 会場である繁華街にあるカラオケは、にぎやかな音と色が氾濫していた。
 普段来ることのない場所に少し怯みながら入ると受付カウンターのそばに元クラスメイト達がワラワラと集まっているのが見えた。
 目敏くこちらに気がついた女子たちのキャーっという歓声が上がる。

「佐藤くん、こっちこっち!」

 久しぶりの苗字呼びに懐かしさを覚える。
 中学の頃は今以上に女子が苦手で距離を置いていたから、蜜を名前で呼ぶのは男子くらいなものだった。

「どうも……」と愛想もない返事を返しても、女子たちはキャッキャと盛り上がりすぐに囲まれた。逃げられない。

「久しぶり! 来てくれて嬉しいよお♡」

「高校に入ってさらに美しさに磨きがかかってるう♡」

「や~ん王子様健在♡」

 語尾にハートが飛び交う女子パワーに怯むように口元が引きつった。早く誰か助けてくれ。

 中学の頃はまだもう少し素朴だった気がする女子たちは、蛹が蝶に化けたようにキラキラと眩さをまき散らしている。
 こんなにケバかったっけ、と思うくらいしっかりとしたメイク。
 押し付けるような甘い匂いが強く香って酔ってしまいそうだ。
 
 やっぱり女子は苦手だとさりげなく帰ろうと逃げ腰になった時だ。「みーつーけーたーぞー」と襟首を捕まえられた。

「さり気なく帰ろうとすんな」

 振り返ると三田だった。
 見逃して、と手を合わせたけれど許してもらえなかった。

「ここまで来て逃げるなよなあ」

 たった数か月は同じように制服姿だった三田もかなり気合の入ったオシャレをしていた。髪型もちゃんと整えられている。あの頃寝癖をつけたまま登校していた三田とは思えない変わりっぷりだった。
 それでも人懐っこい笑顔はそのままだ。

「この前の電話ぶりだけど久しぶりだな」

「うん。っていうかめっちゃおしゃれになってない? びっくりした」

 女子だけじゃない。
 男子だって負けずにみんなおしゃれになっている。普段着に毛が生えた程度の蜜の方が場違いのようだった。

「そういう蜜は相変わらずキラッキラの王子様だなあ。天然100%無添加って感じ」

「なにそれ。バカにしてる?」

 唇を尖らせると三田は「してないしてない」と背中をバシバシと叩いた。

「蜜はなんもしなくても昔からかっこいいねってこと。でもちょっと雰囲気が変わったな」

「そう、かな」

 実はここ最近いろんな人に言われるようになっていた。
 なんとなく雰囲気が変わったねって。柔らかくなったという。それはきっと周防の影響だ。
 彼とのことで蜜は大きく成長したと自分でも思う。

 小さな殻をメキメキと破って大人への階段を一段飛ばしくらいでかけあがっている。それでも遅いくらいだ。遥か先にいる周防には全然届かない。

 だから褒められるのは嬉しい。
 ほんの少しだけ周防に近づける気がするから。

 ああ、やっぱり駄目だな。
 どこにいても、誰と話していても全部周防に結びついていく。

 ふたりで話し込んでいると近くにいた女子たちが様子を探るように近づいてきて、会話に乗り込んできた。

「楽しそうだね、わたしたちも混ぜてよ♡」

「三田ばっかりずるいよお。独り占め禁止♡」

 囲まれて逃げ場がない。まるで獲物を狙う肉食獣のような欲望がにじみ出ていて、恐怖にかられるくらいだ。
 下手したら食われる、と本能が危険を叫んでいる。

「今日はゆっくり話そうね♡」

 やっぱり今からでも帰りたい。
 三田に助けを求めると女子たちに囲まれてウキウキなのか鼻の下が伸びている。全然役に立たない男だ。

 みんな集まったからとゾロゾロ入ったのは大きな個室で、広めのソファにテーブルというセットがいくつも並んでいる。

「はーい席順を決めまーす」と用意のいい幹事がマイクを手に開催の準備を始めた。
 クジを引き自分の座る場所が決まると、ラッキーなことに三田と同じテーブルになった。
 人見知りが治らない蜜にとってはかなり心強い。
 三田も安心したようにうなずいている。

 その他に女子2人が同じテーブルになった。名前をかろうじてわかるくらいの接点のない人たちだった。

「よろしくね」と大人びた女子が髪をかき上げた。もう一人は大人しそうな子でアンバランスな組み合わせだけれど二人は仲が良さそうだった。
 静かな雰囲気にホッとする。

「こちらこそ」

 蜜から遠く離れた女子たちからブーイングが起きていたけれど、そこから離れられてよかったと密かに胸をなでおろした。あんな一軍に入っていたら精神が持たない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました

葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー 最悪な展開からの運命的な出会い 年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。 そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。 人生最悪の展開、と思ったけれど。 思いがけずに運命的な出会いをしました。

没落貴族の愛され方

シオ
BL
魔法が衰退し、科学技術が躍進を続ける現代に似た世界観です。没落貴族のセナが、勝ち組貴族のラーフに溺愛されつつも、それに気付かない物語です。 ※攻めの女性との絡みが一話のみあります。苦手な方はご注意ください。

処理中です...