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第一章 First love

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「まあ、みっつは知っててもいいのかなって思ってさ。ちょっとだけ教えてあげるけど、昔、レオが怪我で選手生命を絶たれたことは聞いてる?」

 蜜は首を振る。
 言葉の響きの重さに血の気が引いていく。よろけると「座りなよ」とイスを勧められた。
 大人しく従った。

「中学からあいつはアメフトをやってて……知ってる? アメフトって。めっちゃ激しいスポーツね。で、体もそこそこでかいし足も速いから結構活躍して有名な選手だったんだよ。

高校ももちろん特待生で日本代表も視野に入ってた。大学もスポーツ推薦が決まって順調な学生生活だったんだけどさ」

 思い切り強いタックルをくらって大けがを負ってしまったと小石川は声を落とした。

「複雑骨折に脳震盪。あとなんだっけ、肋骨もいっちゃってさ。レオをつぶせば勝てるって相手も反則プレーを仕掛けてきちゃって。モロくらってひっくり返って下敷きになって……そのまま救急車で運ばれて、おしまい」

 もう激しいスポーツはできないと医者に告げられたそうだ。
 だから体育の先生ではないし、マラソンもゆっくり最後を走っていたのか。そして怪我には人一倍敏感だった。

「その時の担任が古典の佐々木先生っておじーちゃんでさ、落ち込んで部屋から出てこなくなったレオに毎日和菓子を差し入れてたみたい。
それが総一郎さんが昔いたお店のお菓子で、そのうちレオもそこに通う様になって。
死にたいって言ってたレオが少しずつ元気になっていったのは、総一郎さんのおかげ。色々話をしたりして仲良くなったんだって。
誠実な人柄とか真摯に働く姿に影響を受けたって言ってた」

 その頃の父はまだ若く、一人前になって職人として独り立ちしたいともがいていたそうだ。

「で、推薦も取り消されちゃったレオは一年浪人して自力で大学に入ったわけさ。先生に恩返ししたいって古典の教師になって。レオが古典?! ってみんなで笑ったよな」

 昔を思い出したのか小石川はクククっと笑いを漏らす。あどけない笑顔だった。

「小石川先生と大学も一緒だって聞きました。先生も浪人して?」

「そう。つかおれは頭がめちゃくちゃいいのでストレートで合格していたんだけど、レオを待とうと思って一年海外を放浪してたの。で、翌年一緒に入学した」

「それはずいぶんと無茶苦茶なことを……」

 合格した大学を蹴って海外を放浪?! 
 呆れて言葉も出ない。だけど小石川は悪びれず続けた。

「だって一緒の学校生活を送りたかったんだもん。どうせ一年浪人したくらいで何かが変わるわけでもないしさ。まあそれなりにお金もあったし、実際どうでもいいくらいの誤差だったし」

 どう答えればいいのか。
 おかしいのスケールが違いすぎる。普通友達と一緒に入学したいからと一年を棒に振るか?

「もしかして先生も周防先生が好きなんですか?」

 ただの友達のためにそんなことはしないだろう。
 聞くと当然とばかりに頷いた。

「当たり前じゃん。レオ程好きなやつはいないよ。めっちゃ愛してる。だからあいつにはめちゃくちゃ幸せになってほしいの。
ホントはおれが幸せにしてやりたいんだけど友達状態が長すぎてなあ……もうギャグとしか受け取ってもらえないんだわ」

 しょぼけた小石川に思わず声を上げて笑ってしまった。
 純情と言うかとんちんかんと言うかなんというか……最初から周防を守るようにいた彼もただの不器用な男なんだ。
 少しだけ親近感がわく。

「バカですね、先生。早く好きだって言っちゃえばよかったのに」

「それな。言ってたはずなのに全く伝わってもなかった。はいはいそこに置いといてって感じ。もう今更だからみっつに期待したんだけどなあ。そうかあ、ダメだったかあ」

 うーんと項垂れた小石川に蜜は囁いた。

「でも諦めるつもりはないんで。好きになってもらえるように努力は怠らないって決めたから」

 当たり前だ。
 一回の失恋ごときで諦めてたまるか。

 恋を知って蜜は強くなった。

 今は子供だから仕方ない。
 でも大人になっていく。たくさん吸収して早く周防の隣にふさわしい男になるために必死で学ぶ。

 小石川はそれを聞くと嬉しそうに笑みを浮かべ「やだかっこいい。好きになっちゃう♡」と言った。

「どう。とりあえず今は失恋同士、おれと付き合って大人の階段のぼってみるっていうのは」

「お断りします。っていうか、教師は生徒と付き合ったらダメなんでしょ。そうフラれてるのに他の先生と付き合うとかありえないから」

「あ~ダメか。みっつのことも結構好きなんだけど」

「ダメですね。他を当たってください」

「また失恋~」と相変わらず小石川のテンションはわからない。

 時計を見て遅くなったことに小石川は「送ってく」と申し出てくれた。バスの本数もないから甘えることにする。

「お願いします」

「そこは素直か」
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