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第一章 First love
in the summer break
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夏と言えば花火大会である。
夏休みに入ってすぐに催される大会に誘われると蜜は「残念ながら……」と断りを入れた。
「えー行かないの? なんでえ?」
一緒に行こうと誘ってくれた太一は非難ごうごうである。もちろん蜜だって行けるなら行きたい。
「夏だよ? 花火だよ? 青春満喫しようぜー」
「いや、行きたいんだよぼくだって」
でもゆめのやのバイトが入っている。
毎年夏になると繁忙期を迎える店の手伝いをするのが恒例になっている。
最初からあてにされているし、蜜だってバイト代が欲しいから両方にとって都合がいいのだ。
「ほんとごめん。マジで行きたいんだけど、バイトがあってさ」
「バイトなら仕方ないけど~……つか、何のバイトしてんの?」
切り返された質問に一瞬だまる。
実家が和菓子屋なんてなんとなく言いにくくて、隠したいわけじゃないのに黙っていた。
普通に会社員って答えられたらいいのにな。
だけど太一に嘘を言いたくないから重たい口を開いた。
「和菓子屋」
思いがけない答えだったんだろう。太一が「ほえ?」っと変な声で返した。
「和菓子屋?」
「そう、実家が和菓子屋なんだ」
その後の決まった言葉は「だから蜜っていうのか」だ。だけど太一はそうは返さず「おれどら焼き好きなんだけど」とよくわからない感想を述べた。
「いいな~どら焼き食いたい」
あまりにのんびりとした太一に蜜は力が抜けて笑ってしまった。やっぱりいいなこの人と思う。
「いいよ、今度持って行ってあげる」
「まじで? ラッキー」
「1個180円ね」
「金とんのかよ」
事情が分かったから仕方ないと太一はあっさりと諦めた。
「そのかわりどっかで海行こうぜ。それか水族館か遊園地」
「行こう行こう」
「絶対な、約束な。バイトがんばれよ」
電話を切ると蜜はカレンダーを眺めた。
長い夏休みだ。周防に会えなくなるのはさみしいけど、きっとお菓子を買いに来ることもあるだろう。
「先生何してんの」と連絡を入れることは簡単だけどそうしにくいものもある。生徒と教師がそもそもプライベートで仲良くするのも難しい。
「会いたいんだけどなあ」
こういう時、周防が顧問をしている部活のやつらがうらやましい。毎日会えるし、試合の遠征や合宿で一緒にいる時間がたくさんあるだろう。
だけどそのためにサッカー部に入るのはためらわれた。
いまさらいいプレイができるとも思えないし、なにより運動が苦手な蜜にあんなハードなスポーツができるはずがない。
死ぬ。もしくは倒れる。か、怪我をして病院行きになる予感しかない。
こうなれば偶然という名の出会いを待つしかない。
ひたすらバイトをがんばり買い物に来た周防にバッタリ会おう。
夏休みに入ってすぐに催される大会に誘われると蜜は「残念ながら……」と断りを入れた。
「えー行かないの? なんでえ?」
一緒に行こうと誘ってくれた太一は非難ごうごうである。もちろん蜜だって行けるなら行きたい。
「夏だよ? 花火だよ? 青春満喫しようぜー」
「いや、行きたいんだよぼくだって」
でもゆめのやのバイトが入っている。
毎年夏になると繁忙期を迎える店の手伝いをするのが恒例になっている。
最初からあてにされているし、蜜だってバイト代が欲しいから両方にとって都合がいいのだ。
「ほんとごめん。マジで行きたいんだけど、バイトがあってさ」
「バイトなら仕方ないけど~……つか、何のバイトしてんの?」
切り返された質問に一瞬だまる。
実家が和菓子屋なんてなんとなく言いにくくて、隠したいわけじゃないのに黙っていた。
普通に会社員って答えられたらいいのにな。
だけど太一に嘘を言いたくないから重たい口を開いた。
「和菓子屋」
思いがけない答えだったんだろう。太一が「ほえ?」っと変な声で返した。
「和菓子屋?」
「そう、実家が和菓子屋なんだ」
その後の決まった言葉は「だから蜜っていうのか」だ。だけど太一はそうは返さず「おれどら焼き好きなんだけど」とよくわからない感想を述べた。
「いいな~どら焼き食いたい」
あまりにのんびりとした太一に蜜は力が抜けて笑ってしまった。やっぱりいいなこの人と思う。
「いいよ、今度持って行ってあげる」
「まじで? ラッキー」
「1個180円ね」
「金とんのかよ」
事情が分かったから仕方ないと太一はあっさりと諦めた。
「そのかわりどっかで海行こうぜ。それか水族館か遊園地」
「行こう行こう」
「絶対な、約束な。バイトがんばれよ」
電話を切ると蜜はカレンダーを眺めた。
長い夏休みだ。周防に会えなくなるのはさみしいけど、きっとお菓子を買いに来ることもあるだろう。
「先生何してんの」と連絡を入れることは簡単だけどそうしにくいものもある。生徒と教師がそもそもプライベートで仲良くするのも難しい。
「会いたいんだけどなあ」
こういう時、周防が顧問をしている部活のやつらがうらやましい。毎日会えるし、試合の遠征や合宿で一緒にいる時間がたくさんあるだろう。
だけどそのためにサッカー部に入るのはためらわれた。
いまさらいいプレイができるとも思えないし、なにより運動が苦手な蜜にあんなハードなスポーツができるはずがない。
死ぬ。もしくは倒れる。か、怪我をして病院行きになる予感しかない。
こうなれば偶然という名の出会いを待つしかない。
ひたすらバイトをがんばり買い物に来た周防にバッタリ会おう。
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