36 / 119
第一章 First love
4
しおりを挟む
「まあ詳しくはわからないけど、そうやって悩むのはいいことだよ、たくさん苦しめばいい。そうしないとなんもわかんない大人になっちゃうからね。鈍いまま大人になる方がヤバイ」
「でも、なんかさ、はあ……」
ふがいなさに大きなため息が出た。
わかっているのだ、頭では。
周防にも過去があるし、大人になるまでにたくさんのことがあっただろう。一人で生きているわけじゃないからいろんな人と出会って付き合いがあって、いろんなことがあって今に繋がっている。
理屈ではわかっている。
父や母と昔出会っているのも悪いことは何一つない。蜜の方が後から出会って、しかもまだほんの数か月しか付き合いがない。そりゃ関係の深さが違うことくらいわかっている。
わかっているけど悔しい。
蜜を特別にしてほしいから。
他の誰より理解していたいから。
周防が自分のものになればいいのに。
誰かを好きだというのが独占欲でしかないならそれって幸せなんだろうか。
恋ってもっとウキウキしているものじゃないのか。
「しんどいなー」
カウンターに突っ伏して呟くと、父の大きなてのひらが蜜の頭を撫でた。周防とは違う手。懐かしい父の手。
「しんどくても悩め。答えを見つけて大人になってくんだから。でもしんどかったらちゃんと息抜きもしろ。いつでもここに来ればいいしさ、話なんていくらでも聞いてやるから」
「ん……ありがと」
離れていてもやっぱり父は蜜の父だった。秘密基地のように安心して逃げ込める。頼れる避難所のような場所。
モヤモヤがあるといつだって蜜はここにきて、辛いカレーを食べて話してスッキリして帰る。
父と話すといつも思考がクリアになって楽になる。今回もそうだ。解決はしないけど悩めばいいのかと開き直った。
「ありがと、めっちゃスッキリした」
ここに来た時の鬱屈とした気持ちが今は楽になっている。来てよかった。
「お店も始まるでしょ。そろそろ帰るね」
蜜は立ち上がると財布を取り出した。それを見た父が「バカ」と怒った。
「こどもに飯を食わせて金を取る親がどこにいるんだっつの」
「そっか、うん、ごちそうさまでした」
「送っていけないけど、気をつけて帰れよ」
「ありがと」
ドアを開けようとした蜜の背中に声がかかる。
「めいっぱい悩めよ。で、またいつでもおいで。もっとうまいカレーを食わせてやるからさ」
「楽しみにしてる」
店を出ると同時にお客さんが入っていった。父のいらっしゃいませという声が外まで聞こえてくる。
商売繁盛だ。
佐藤の父との関係もうまくいっているけれどどうしても深い話をすることにためらいがある。遠慮してしまうというか、やっぱり他人だからという気持ちがどこかにあるのだ。
だからこそ、あんなに嫉妬してしまうのかもしれない。
これが父が相手だったらどうだったんだろう。仕方ないかなとすぐに思えたのだろうか。いや、やっぱり嫉妬する。
周防を繋ぎとめるのは自分でいたい。
自分の中にこんな欲望があるなんて知らなかった。
他の誰でもない周防が欲しい。自分だけを見て欲しい。好きになってほしい。
蜜はバスを乗り継ぎながらずっとそのことを考えていた。
「でも、なんかさ、はあ……」
ふがいなさに大きなため息が出た。
わかっているのだ、頭では。
周防にも過去があるし、大人になるまでにたくさんのことがあっただろう。一人で生きているわけじゃないからいろんな人と出会って付き合いがあって、いろんなことがあって今に繋がっている。
理屈ではわかっている。
父や母と昔出会っているのも悪いことは何一つない。蜜の方が後から出会って、しかもまだほんの数か月しか付き合いがない。そりゃ関係の深さが違うことくらいわかっている。
わかっているけど悔しい。
蜜を特別にしてほしいから。
他の誰より理解していたいから。
周防が自分のものになればいいのに。
誰かを好きだというのが独占欲でしかないならそれって幸せなんだろうか。
恋ってもっとウキウキしているものじゃないのか。
「しんどいなー」
カウンターに突っ伏して呟くと、父の大きなてのひらが蜜の頭を撫でた。周防とは違う手。懐かしい父の手。
「しんどくても悩め。答えを見つけて大人になってくんだから。でもしんどかったらちゃんと息抜きもしろ。いつでもここに来ればいいしさ、話なんていくらでも聞いてやるから」
「ん……ありがと」
離れていてもやっぱり父は蜜の父だった。秘密基地のように安心して逃げ込める。頼れる避難所のような場所。
モヤモヤがあるといつだって蜜はここにきて、辛いカレーを食べて話してスッキリして帰る。
父と話すといつも思考がクリアになって楽になる。今回もそうだ。解決はしないけど悩めばいいのかと開き直った。
「ありがと、めっちゃスッキリした」
ここに来た時の鬱屈とした気持ちが今は楽になっている。来てよかった。
「お店も始まるでしょ。そろそろ帰るね」
蜜は立ち上がると財布を取り出した。それを見た父が「バカ」と怒った。
「こどもに飯を食わせて金を取る親がどこにいるんだっつの」
「そっか、うん、ごちそうさまでした」
「送っていけないけど、気をつけて帰れよ」
「ありがと」
ドアを開けようとした蜜の背中に声がかかる。
「めいっぱい悩めよ。で、またいつでもおいで。もっとうまいカレーを食わせてやるからさ」
「楽しみにしてる」
店を出ると同時にお客さんが入っていった。父のいらっしゃいませという声が外まで聞こえてくる。
商売繁盛だ。
佐藤の父との関係もうまくいっているけれどどうしても深い話をすることにためらいがある。遠慮してしまうというか、やっぱり他人だからという気持ちがどこかにあるのだ。
だからこそ、あんなに嫉妬してしまうのかもしれない。
これが父が相手だったらどうだったんだろう。仕方ないかなとすぐに思えたのだろうか。いや、やっぱり嫉妬する。
周防を繋ぎとめるのは自分でいたい。
自分の中にこんな欲望があるなんて知らなかった。
他の誰でもない周防が欲しい。自分だけを見て欲しい。好きになってほしい。
蜜はバスを乗り継ぎながらずっとそのことを考えていた。
5
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。

僕の部下がかわいくて仕方ない
まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

確率は100
春夏
BL
【完結しました】【続編公開中】
現代日本で知り合った2人が異世界で再会してイチャラブしながら冒険を楽しむお話。再会は6章。1話は短めです。Rは3章の後半から、6章からは固定カプ。※つけてます。5話くらいずつアップします。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~
松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。
ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。
恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。
伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる