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第一章 First love
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それはまるでフワフワ漂っていたシャボン玉がパチンと弾けるような一瞬のできごとだった。
今までわからなかったことが点と線でつながるようなクリアな思考。
あ、と声が出る。慌てて口をふさいだ。
好きなんだ。
先生を好きになっていたんだ。
たどり着いた答えは思いがけず、蜜は口を押えながらうそだろと呟いた。
周防のそばで幸せなのも苦しいのも、イライラするのも嫉妬や特別になりたい感情も全て。
周防を好きになっているからだ。
(好き?)
今までどうしてもわからなかった感情が、いま、蜜を突き動かしている。
これが恋なんだ。
なんて激しい。
それにしても初めての恋はずいぶんとハードルが高すぎないか。
担任の先生で
一回りも年上で
同性だし
なにより自分の父がライバルかもしれないなんて。
衝撃を受けている蜜の隣で周防と父は懐かしい話に花を咲かせている。
こっちはそれどころじゃない。
蜜は助けを求めるように周防を見上げた。自分を混乱に陥れた当の本人に助けてほしいなんておかしな話だけれど。
「あら」と声がして母が顔をのぞかせたのはその時だった。
「何か声がしてると思ってみてみたら」
2歳になる弟の三和を抱きながら裏口から姿を現す。そして周防を認めると「やだ!」と声をあげた。
「え、もしかしてレオくん?」
「です。ご無沙汰しています」
父と同じやり取りが繰り返される。どうやら母も顔見知りだったようだ。蜜の知らないところでこの人たちは繋がっていた。
自分だけが何も知らなくて悔しい。
周防のことを誰より知りたいしそばにいたいのに。
母は隣に蜜がいることに気がつくとさらに「あら」と声を上げる。
「蜜も一緒だったの? どういうこと?」
「前に言ったじゃん、担任の先生に送ってもらったって。それ周防先生だから」
「えー! やだ今まで全然知らなかったわ。世界は狭いわね……」
変に感心しながら母は頷いた。
そんな母の腕に抱かれた三和は周防にもすぐに愛想を振りまき始めた。彼は父と母の息子で蜜とは半分血がつながっている。
「蜜の弟?」
周防は隣に立つ蜜に声をかけた。こくんと頷くと「似てるね」と笑った。
「小さい頃の蜜もこんな感じだったのかなって」
「でしょ、似てるってよく言われるの」
「ふたりとも志穂ちゃんに似て綺麗な顔をしてるからなあ」
いたって普通という風貌の父は、照れ臭そうに頭をかいた。確かに蜜と三和は父が違うのににとても良く似ている。
誰が見ても本当の兄弟に見えるだろう。遺伝子の不思議だ。
周防は三和のほっぺたをつつくと「柔らかい」と感心したように呟き何度も触りまくっている。
その手つきが蜜を触る時と似ていて、自分も子ども扱いされていたのかとむっと口を尖らせた。
「先生、予約のお菓子取りに行くんでしょ」
ツンとシャツの袖を引っ張ってここに来た用事を思い出させると周防は今まで忘れていたように、ハッと蜜を見た。
「そうだった」
今までわからなかったことが点と線でつながるようなクリアな思考。
あ、と声が出る。慌てて口をふさいだ。
好きなんだ。
先生を好きになっていたんだ。
たどり着いた答えは思いがけず、蜜は口を押えながらうそだろと呟いた。
周防のそばで幸せなのも苦しいのも、イライラするのも嫉妬や特別になりたい感情も全て。
周防を好きになっているからだ。
(好き?)
今までどうしてもわからなかった感情が、いま、蜜を突き動かしている。
これが恋なんだ。
なんて激しい。
それにしても初めての恋はずいぶんとハードルが高すぎないか。
担任の先生で
一回りも年上で
同性だし
なにより自分の父がライバルかもしれないなんて。
衝撃を受けている蜜の隣で周防と父は懐かしい話に花を咲かせている。
こっちはそれどころじゃない。
蜜は助けを求めるように周防を見上げた。自分を混乱に陥れた当の本人に助けてほしいなんておかしな話だけれど。
「あら」と声がして母が顔をのぞかせたのはその時だった。
「何か声がしてると思ってみてみたら」
2歳になる弟の三和を抱きながら裏口から姿を現す。そして周防を認めると「やだ!」と声をあげた。
「え、もしかしてレオくん?」
「です。ご無沙汰しています」
父と同じやり取りが繰り返される。どうやら母も顔見知りだったようだ。蜜の知らないところでこの人たちは繋がっていた。
自分だけが何も知らなくて悔しい。
周防のことを誰より知りたいしそばにいたいのに。
母は隣に蜜がいることに気がつくとさらに「あら」と声を上げる。
「蜜も一緒だったの? どういうこと?」
「前に言ったじゃん、担任の先生に送ってもらったって。それ周防先生だから」
「えー! やだ今まで全然知らなかったわ。世界は狭いわね……」
変に感心しながら母は頷いた。
そんな母の腕に抱かれた三和は周防にもすぐに愛想を振りまき始めた。彼は父と母の息子で蜜とは半分血がつながっている。
「蜜の弟?」
周防は隣に立つ蜜に声をかけた。こくんと頷くと「似てるね」と笑った。
「小さい頃の蜜もこんな感じだったのかなって」
「でしょ、似てるってよく言われるの」
「ふたりとも志穂ちゃんに似て綺麗な顔をしてるからなあ」
いたって普通という風貌の父は、照れ臭そうに頭をかいた。確かに蜜と三和は父が違うのににとても良く似ている。
誰が見ても本当の兄弟に見えるだろう。遺伝子の不思議だ。
周防は三和のほっぺたをつつくと「柔らかい」と感心したように呟き何度も触りまくっている。
その手つきが蜜を触る時と似ていて、自分も子ども扱いされていたのかとむっと口を尖らせた。
「先生、予約のお菓子取りに行くんでしょ」
ツンとシャツの袖を引っ張ってここに来た用事を思い出させると周防は今まで忘れていたように、ハッと蜜を見た。
「そうだった」
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