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第一章 First love
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「そんなに驚くなよ」
周防は困ったように眉を落とした。
そうするといつもの余裕のある姿が消えてすごく頼りなげな大人に見える。
「まあ、オトナになった分上手にやれるようにはなったけど、基本は不器用なの。失敗ばかりだしさ」
「想像できません」
「そ、じゃあ大人のフリが成功してるってことだな」
周防の言っていることはいまいちわからなかった。
大人だからしっかりしてるように見せかけているということか。じゃあ周防のほんとうのすがたってどんな感じなんだろう。
誰かに見せたことがあるんだろうか。
ずっと一緒だった小石川は素の周防を知っているんだろうか。ずるい。
突然湧き上がる独占欲に蜜は困惑した。
誰かにこんな風に興味を持ったことも、深く知りたいと思ったこともない。周防はやけに蜜を揺り動かす。
「先生の事、知りたいです」
口にするとその言葉に蜜は再び驚く。何を言ってるんだ。なんでそんなに周防のことを知りたいんだ。
突き動かされる衝動に身をゆだねた。
「あー、そう、だな。そんなに特別な事ってとくにないんだけど……何が知りたい?」
だけど周防は嫌がるでもなく蜜のわがままを受け入れてくれた。
「先生の高校生の時ってどんな感じだったんですか?」
今のように大らかでちゃらんぽらんに見えて、頼もしかったんだろうか。
周防は少しだけだまり、トン、とハンドルを指でたたいた。
どう答えようか迷っているみたいだった。
「高校生の時って、そうだな……まあ君たちとたいして変わんないよ。楽しいこともあって、青春したり失敗したり、時々うまくいかないことに泣いたりさ」
「先生も泣くんですか?」
「ま、そりゃね、時々はそんなこともあるだろ」
今日の周防はサングラスをかけているせいか、うまく表情が見れなかった。夕日に照らされた姿はいつもより距離を感じさせて、これ以上深く追求してはならない気がした。
だけど止められない。
「じゃあ、ゆめのやの一番好きなお菓子って何ですか」
会話が途切れるのが怖くて、どうでもいい質問をしてしまった。普段の蜜なら沈黙なんて全然平気なのに。
周防といるとペースが崩れる。
「一番かあ、そりゃ難しい質問だな。選べないし。っていうか、総一郎さんの作るお菓子は何でも好きだからなあ」
は、と蜜は耳を疑った。
今、総一郎さんと言ったか?
それは佐藤の父の名前だった。普通、好きなお菓子屋さんがあったとしても店主の名前を呼ぶだろうか。
蜜だったらお店の人の名前なんて興味も持たない。
「総一郎さん、て」
蜜の声に不審が混じっていたのだろう。周防はしまったというように蜜に視線を投げた。困ったように眉を寄せる。
「う~ん、実はゆめのやの前のお店の時から知ってんだ」
それは蜜がまだ市原蜜だった頃の話だった。
周防は困ったように眉を落とした。
そうするといつもの余裕のある姿が消えてすごく頼りなげな大人に見える。
「まあ、オトナになった分上手にやれるようにはなったけど、基本は不器用なの。失敗ばかりだしさ」
「想像できません」
「そ、じゃあ大人のフリが成功してるってことだな」
周防の言っていることはいまいちわからなかった。
大人だからしっかりしてるように見せかけているということか。じゃあ周防のほんとうのすがたってどんな感じなんだろう。
誰かに見せたことがあるんだろうか。
ずっと一緒だった小石川は素の周防を知っているんだろうか。ずるい。
突然湧き上がる独占欲に蜜は困惑した。
誰かにこんな風に興味を持ったことも、深く知りたいと思ったこともない。周防はやけに蜜を揺り動かす。
「先生の事、知りたいです」
口にするとその言葉に蜜は再び驚く。何を言ってるんだ。なんでそんなに周防のことを知りたいんだ。
突き動かされる衝動に身をゆだねた。
「あー、そう、だな。そんなに特別な事ってとくにないんだけど……何が知りたい?」
だけど周防は嫌がるでもなく蜜のわがままを受け入れてくれた。
「先生の高校生の時ってどんな感じだったんですか?」
今のように大らかでちゃらんぽらんに見えて、頼もしかったんだろうか。
周防は少しだけだまり、トン、とハンドルを指でたたいた。
どう答えようか迷っているみたいだった。
「高校生の時って、そうだな……まあ君たちとたいして変わんないよ。楽しいこともあって、青春したり失敗したり、時々うまくいかないことに泣いたりさ」
「先生も泣くんですか?」
「ま、そりゃね、時々はそんなこともあるだろ」
今日の周防はサングラスをかけているせいか、うまく表情が見れなかった。夕日に照らされた姿はいつもより距離を感じさせて、これ以上深く追求してはならない気がした。
だけど止められない。
「じゃあ、ゆめのやの一番好きなお菓子って何ですか」
会話が途切れるのが怖くて、どうでもいい質問をしてしまった。普段の蜜なら沈黙なんて全然平気なのに。
周防といるとペースが崩れる。
「一番かあ、そりゃ難しい質問だな。選べないし。っていうか、総一郎さんの作るお菓子は何でも好きだからなあ」
は、と蜜は耳を疑った。
今、総一郎さんと言ったか?
それは佐藤の父の名前だった。普通、好きなお菓子屋さんがあったとしても店主の名前を呼ぶだろうか。
蜜だったらお店の人の名前なんて興味も持たない。
「総一郎さん、て」
蜜の声に不審が混じっていたのだろう。周防はしまったというように蜜に視線を投げた。困ったように眉を寄せる。
「う~ん、実はゆめのやの前のお店の時から知ってんだ」
それは蜜がまだ市原蜜だった頃の話だった。
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