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第一章 First love
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想像より上手に歌い切った周防は満足そうに頬を高揚させ、「お次は誰?」とマイクを差し出した。
蜜を見ているのは絶対気のせいだと思いたい。
あの日、車で送ってもらってから周防との距離が少しだけ近づいた。
といっても特別どうこうするわけではなく、なんとなく話をしやすくなったとかその程度のことだ。
蜜の実家が和菓子屋だということも誰にも言わないでくれている。
嫌なわけじゃないけど、高校生になってまで親の職業についてとやかく言われたくなかったのだ。
「だ~れ~に歌ってもらおうかな~」
視線を感じる蜜はひたすら俯き首を横に振り続けた。絶対無理だから!
「ハイッ」っと手を上げ立ち上がったのは太一だった。
「おっ、太一くんいっちゃう?」
「ここはおれの出番かなって♪」
ホッとして見上げた太一の頼もしさよ。
盛大な拍手で盛り上げようじゃないか。
「二番手。鈴木太一、行きます」
でも周防に続いたその挨拶はしなきゃいけないのか。
センチメンタルな前奏が流れると太一はスマートに歌いだした。
しょっぱじめの美声にどよめきが走る。
それもそうだ。
中学のころからバンド活動をしている太一はピアノ兼ヴォーカルで、市内では結構人気のグループのリーダーらしかった。ファンクラブもあるらしい。
それを知ったのはつい最近のことだ。
ライブの配信があるからとアドレスを教えてもらったのがきっかけだった。
今でもそのメンバーと活動しつつ、高校でのチームなどいくつか掛け持ちしているということだった。
これからマラソンを走る悲壮感を感じさせない爽やかなラブソングはバスの中を大いに盛り上げた。数人ほど目がハートになっているのは気のせいか。
体の前で手を組み祈るように「太一キュン」とハートを飛ばしている。
これでファン確保だな、と裕二が囁いた。
「そういう裕二はどうなんだよ」
「まあ、普通だろ。でもレオくんと太一の後には歌いたくねーな」
「確かに」
これだけ魅力的に歌われてしまうと、後に続くには勇気がいる。
「I LOVE♪」と熱い視線を向けられながら歌われて、蜜もぽっと頬を赤らめてしまった。それくらい色っぽく情熱的だった。
盛り上がった男子高校生たちの勢いはとまらず、猛者たちのカラオケは到着してバスが止まってもほんの少しだけ続いた。
「あっという間だったな」
ステップの前では先に下りていた周防が手を差し出し、降りる補助をしていた。
「レオくん王子様みたい~」
「どうぞ、姫。足元お気をつけて」
ノリノリで手を取り合う周防に蜜はどうしようかとためらった。
こうなったらみんなに合わせて支えてもらうべきか、一人で平気と振り払うべきか。
でもそっちの方が意識しているみたいで恥ずかしいような。どうするのが正解なんだ?
結局前の人に倣って、蜜も手を差し出してもらった。
周防が予想外だと目を見開いた。
「おっ、どうぞ、蜜姫」
「姫言わないでください」
やっぱり振り払えばよかった。
恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまったじゃないか。
蜜を見ているのは絶対気のせいだと思いたい。
あの日、車で送ってもらってから周防との距離が少しだけ近づいた。
といっても特別どうこうするわけではなく、なんとなく話をしやすくなったとかその程度のことだ。
蜜の実家が和菓子屋だということも誰にも言わないでくれている。
嫌なわけじゃないけど、高校生になってまで親の職業についてとやかく言われたくなかったのだ。
「だ~れ~に歌ってもらおうかな~」
視線を感じる蜜はひたすら俯き首を横に振り続けた。絶対無理だから!
「ハイッ」っと手を上げ立ち上がったのは太一だった。
「おっ、太一くんいっちゃう?」
「ここはおれの出番かなって♪」
ホッとして見上げた太一の頼もしさよ。
盛大な拍手で盛り上げようじゃないか。
「二番手。鈴木太一、行きます」
でも周防に続いたその挨拶はしなきゃいけないのか。
センチメンタルな前奏が流れると太一はスマートに歌いだした。
しょっぱじめの美声にどよめきが走る。
それもそうだ。
中学のころからバンド活動をしている太一はピアノ兼ヴォーカルで、市内では結構人気のグループのリーダーらしかった。ファンクラブもあるらしい。
それを知ったのはつい最近のことだ。
ライブの配信があるからとアドレスを教えてもらったのがきっかけだった。
今でもそのメンバーと活動しつつ、高校でのチームなどいくつか掛け持ちしているということだった。
これからマラソンを走る悲壮感を感じさせない爽やかなラブソングはバスの中を大いに盛り上げた。数人ほど目がハートになっているのは気のせいか。
体の前で手を組み祈るように「太一キュン」とハートを飛ばしている。
これでファン確保だな、と裕二が囁いた。
「そういう裕二はどうなんだよ」
「まあ、普通だろ。でもレオくんと太一の後には歌いたくねーな」
「確かに」
これだけ魅力的に歌われてしまうと、後に続くには勇気がいる。
「I LOVE♪」と熱い視線を向けられながら歌われて、蜜もぽっと頬を赤らめてしまった。それくらい色っぽく情熱的だった。
盛り上がった男子高校生たちの勢いはとまらず、猛者たちのカラオケは到着してバスが止まってもほんの少しだけ続いた。
「あっという間だったな」
ステップの前では先に下りていた周防が手を差し出し、降りる補助をしていた。
「レオくん王子様みたい~」
「どうぞ、姫。足元お気をつけて」
ノリノリで手を取り合う周防に蜜はどうしようかとためらった。
こうなったらみんなに合わせて支えてもらうべきか、一人で平気と振り払うべきか。
でもそっちの方が意識しているみたいで恥ずかしいような。どうするのが正解なんだ?
結局前の人に倣って、蜜も手を差し出してもらった。
周防が予想外だと目を見開いた。
「おっ、どうぞ、蜜姫」
「姫言わないでください」
やっぱり振り払えばよかった。
恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまったじゃないか。
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