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「でもね♡ は、じ、め、て、の朝でしょ。ずっと恭介さんを見つめていたいの。寝るなんてもったいなくて……でも恭介さんは寝ていいのよ。時間になったら勝手に出ていくし。鍵はポストに入れておくから安心して」
そうは言うものの一人で寝るのは寂しい。
手を伸ばしてベッドサイドにいるデイジーのレースのショーツに指を引っ掛けた。
「1人で寝ろってこと?」
一緒にいるのに?
自分でも甘えた声が出たと思う。鼻にかかったようなとろけた声。まだ余韻が全身に残っているせいだろう。
それを聞いたデイジーは瞳をキラキラとさせて「キャワイーーー」と悶えている。
「恭介さんが甘えてくれてる♡ あー食べちゃいたい。可愛くてどうしたらいいかわかんないわ」
セットアップの下着姿のデイジーはクネクネを身を悶えさせると布団をめくりベッドの中へと入ってきた。
「じゃあ少しだけ♡」
「……ん、」
1人で寝るには広めのセミダブルがデイジーと一緒ならぎゅうぎゅうになってしまう。だけど腕枕をされ背中に手を当てられると安心してうとうとしてきた。
そばで見るデイジーのメイクはすっかりと取れてしまっている。
つけまつげを外した目元のほくろをみて、そうだ、初めて日永に会った時に色っぽいと思ったんだと記憶が甦った。
もしかしたら無意識に惹かれ始めていたのかもしれない。
いつ、どこでデイジーを好きになったのかはどう考えてもわからなかった。いつの間にかそばにいて、いろんなことを話せて互いを知って。友達じゃない好意を持った瞬間ってどこだったんだろう。
「どうしたの? 考え事?」
「ううん。初めて日永さんに会った時のことを思い出してた」
あの日、日永の料理を食べたのに焼き鳥を欲したんだった。その後にバーに連れ去られ再会し……怒涛の日々でここまできた。
「ああ。あの日ね~」とデイジーも懐かしそうにうなずいている。
「恭介さんから焼き鳥を食べに行ったって聞いた時はショックだったわ~まだまだ修行が足りないって気持ちが引き締まったわよ」
「ごめん……でも言い訳をすると上司に囲まれて食べていたから緊張で一口くらいずつしか食べれなくて。どっちかっていうと接待的な。だからホッとしたら庶民的な焼き鳥が食べたくなったって言うか」
美味しかった。間違いなくどこよりも美味しかったのに仕事として食べたからあまり味わえ切れなかったのだ。
「今度は絶対他の物を口にしたくないって思わせるから」
「楽しみにしてる」
いつか日永のレストランでフルコースを食べようと笹屋と予約した日がもうすぐ来るのだ。何か月も待っている間に二人の関係もたいぶ変わってしまった。
恭介はデイジーの胸に顔をおしつけるとそのまままぶたを閉じた。
まだ話していたのに眠たくして仕方がない。
デイジーの心臓の音を聞きながらそっと深い海の中へと意識を手離した。
次に目を覚ました時にはデイジーの姿はなかった。
仕事なんだから仕方がないけどやっぱりさみしい。立ち上がろうとして腰がひどく痛んだけれど、さっきよりはだいぶ動けるようになっている。
ぐっすり眠っていたのかもう昼近くになっていた。
水を飲もうとキッチンへと向かうと鍋に具沢山のスープが用意されていて、お皿におにぎりが置かれていた。
恭介が寝てから作ってくれたんだろう。
デイジーから向けられる愛情がくすぐったくて、シンクに寄りかかりながらおにぎりを頬張った。
疲れた体に塩気多めのおにぎりが美味い。
中は梅干しと鮭だった。
改めてスープを温めてテーブルに持っていくと日永からメッセージが届いた。
(体調はいかがですか?)
二重人格かと思うほどデイジーと日永は違う。どっちの人格かによって言葉使いさえ全く変わる。どっちも恭介を溺愛しているところだけが一緒だった。
(おにぎりとスープありがとう。今起きてたべるところ)
(あと、体は大丈夫そう。腰は痛いけど)
明日には動けるようになっているだろう。じゃなきゃ困る。
(それならよかったです。今日はゆっくり休んでください)
(日永さんもね)
(今日はレストランだけなので大丈夫です)
そっか。じゃあもしかして夜は少し時間があるのかな。
そんなことを考えて何とはなしに返信する。
(じゃあ、来る?)
送ってからしまったと思った。
恭介と違って彼は寝ていない。恭介の世話を終えてそのまま仕事に行っているのだ。やっぱり休ませなきゃと思うのに続けてしまう。
(いないとちょっとさみしい)
1人暮らしは長いし、さみしいなんて思ったことはないのに。デイジーとの濃密な時間がぽっかりとした穴を作ってしまったみたいだ。もっと一緒にいたい。もっとそばにいたい。
あふれてくる欲は今まで恭介が感じられなかったものばかりだ。
それなりに恋愛をしてきたはずなのに、日永と作っていくものは全然違って恭介を変えていってしまう。少しだけ怖いけど、それ以上にもっと先を見てみたくなった。
(少し遅くなってもいいですか?)
(ごめん、うそ。疲れてるから帰って寝て。ワガママ言っちゃった)
(自分が逢いたいんです)
(恭介さん愛しています。逢いに行ってもいいですか?)
逢いたいと言ってくれる言葉に口元が緩んだ。心が浮き立つ。
(じゃあ待ってる)
まさか自分がこんなに溺れてしまうとは思ってもいなかった。クールだったはずなのに日永の対応ひとつひとつが嬉しくて飛び跳ねたくなる。
あと数時間したらまたあいつに会える。
そう思うだけで鼻歌の一つも出るってもんだ。
デイジーの作ったスープはしみじみと美味しくて、愛された身体に染み込んでいった。
そうは言うものの一人で寝るのは寂しい。
手を伸ばしてベッドサイドにいるデイジーのレースのショーツに指を引っ掛けた。
「1人で寝ろってこと?」
一緒にいるのに?
自分でも甘えた声が出たと思う。鼻にかかったようなとろけた声。まだ余韻が全身に残っているせいだろう。
それを聞いたデイジーは瞳をキラキラとさせて「キャワイーーー」と悶えている。
「恭介さんが甘えてくれてる♡ あー食べちゃいたい。可愛くてどうしたらいいかわかんないわ」
セットアップの下着姿のデイジーはクネクネを身を悶えさせると布団をめくりベッドの中へと入ってきた。
「じゃあ少しだけ♡」
「……ん、」
1人で寝るには広めのセミダブルがデイジーと一緒ならぎゅうぎゅうになってしまう。だけど腕枕をされ背中に手を当てられると安心してうとうとしてきた。
そばで見るデイジーのメイクはすっかりと取れてしまっている。
つけまつげを外した目元のほくろをみて、そうだ、初めて日永に会った時に色っぽいと思ったんだと記憶が甦った。
もしかしたら無意識に惹かれ始めていたのかもしれない。
いつ、どこでデイジーを好きになったのかはどう考えてもわからなかった。いつの間にかそばにいて、いろんなことを話せて互いを知って。友達じゃない好意を持った瞬間ってどこだったんだろう。
「どうしたの? 考え事?」
「ううん。初めて日永さんに会った時のことを思い出してた」
あの日、日永の料理を食べたのに焼き鳥を欲したんだった。その後にバーに連れ去られ再会し……怒涛の日々でここまできた。
「ああ。あの日ね~」とデイジーも懐かしそうにうなずいている。
「恭介さんから焼き鳥を食べに行ったって聞いた時はショックだったわ~まだまだ修行が足りないって気持ちが引き締まったわよ」
「ごめん……でも言い訳をすると上司に囲まれて食べていたから緊張で一口くらいずつしか食べれなくて。どっちかっていうと接待的な。だからホッとしたら庶民的な焼き鳥が食べたくなったって言うか」
美味しかった。間違いなくどこよりも美味しかったのに仕事として食べたからあまり味わえ切れなかったのだ。
「今度は絶対他の物を口にしたくないって思わせるから」
「楽しみにしてる」
いつか日永のレストランでフルコースを食べようと笹屋と予約した日がもうすぐ来るのだ。何か月も待っている間に二人の関係もたいぶ変わってしまった。
恭介はデイジーの胸に顔をおしつけるとそのまままぶたを閉じた。
まだ話していたのに眠たくして仕方がない。
デイジーの心臓の音を聞きながらそっと深い海の中へと意識を手離した。
次に目を覚ました時にはデイジーの姿はなかった。
仕事なんだから仕方がないけどやっぱりさみしい。立ち上がろうとして腰がひどく痛んだけれど、さっきよりはだいぶ動けるようになっている。
ぐっすり眠っていたのかもう昼近くになっていた。
水を飲もうとキッチンへと向かうと鍋に具沢山のスープが用意されていて、お皿におにぎりが置かれていた。
恭介が寝てから作ってくれたんだろう。
デイジーから向けられる愛情がくすぐったくて、シンクに寄りかかりながらおにぎりを頬張った。
疲れた体に塩気多めのおにぎりが美味い。
中は梅干しと鮭だった。
改めてスープを温めてテーブルに持っていくと日永からメッセージが届いた。
(体調はいかがですか?)
二重人格かと思うほどデイジーと日永は違う。どっちの人格かによって言葉使いさえ全く変わる。どっちも恭介を溺愛しているところだけが一緒だった。
(おにぎりとスープありがとう。今起きてたべるところ)
(あと、体は大丈夫そう。腰は痛いけど)
明日には動けるようになっているだろう。じゃなきゃ困る。
(それならよかったです。今日はゆっくり休んでください)
(日永さんもね)
(今日はレストランだけなので大丈夫です)
そっか。じゃあもしかして夜は少し時間があるのかな。
そんなことを考えて何とはなしに返信する。
(じゃあ、来る?)
送ってからしまったと思った。
恭介と違って彼は寝ていない。恭介の世話を終えてそのまま仕事に行っているのだ。やっぱり休ませなきゃと思うのに続けてしまう。
(いないとちょっとさみしい)
1人暮らしは長いし、さみしいなんて思ったことはないのに。デイジーとの濃密な時間がぽっかりとした穴を作ってしまったみたいだ。もっと一緒にいたい。もっとそばにいたい。
あふれてくる欲は今まで恭介が感じられなかったものばかりだ。
それなりに恋愛をしてきたはずなのに、日永と作っていくものは全然違って恭介を変えていってしまう。少しだけ怖いけど、それ以上にもっと先を見てみたくなった。
(少し遅くなってもいいですか?)
(ごめん、うそ。疲れてるから帰って寝て。ワガママ言っちゃった)
(自分が逢いたいんです)
(恭介さん愛しています。逢いに行ってもいいですか?)
逢いたいと言ってくれる言葉に口元が緩んだ。心が浮き立つ。
(じゃあ待ってる)
まさか自分がこんなに溺れてしまうとは思ってもいなかった。クールだったはずなのに日永の対応ひとつひとつが嬉しくて飛び跳ねたくなる。
あと数時間したらまたあいつに会える。
そう思うだけで鼻歌の一つも出るってもんだ。
デイジーの作ったスープはしみじみと美味しくて、愛された身体に染み込んでいった。
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