真っ赤な口紅の純情 ~ドラアグクイーンに惚れられたホテルマンが恋に落ちるまで!~

乃木のき

文字の大きさ
上 下
54 / 66

8

しおりを挟む
「でもね♡ は、じ、め、て、の朝でしょ。ずっと恭介さんを見つめていたいの。寝るなんてもったいなくて……でも恭介さんは寝ていいのよ。時間になったら勝手に出ていくし。鍵はポストに入れておくから安心して」

そうは言うものの一人で寝るのは寂しい。
手を伸ばしてベッドサイドにいるデイジーのレースのショーツに指を引っ掛けた。

「1人で寝ろってこと?」

一緒にいるのに?
自分でも甘えた声が出たと思う。鼻にかかったようなとろけた声。まだ余韻が全身に残っているせいだろう。
それを聞いたデイジーは瞳をキラキラとさせて「キャワイーーー」と悶えている。

「恭介さんが甘えてくれてる♡ あー食べちゃいたい。可愛くてどうしたらいいかわかんないわ」

セットアップの下着姿のデイジーはクネクネを身を悶えさせると布団をめくりベッドの中へと入ってきた。

「じゃあ少しだけ♡」
「……ん、」

1人で寝るには広めのセミダブルがデイジーと一緒ならぎゅうぎゅうになってしまう。だけど腕枕をされ背中に手を当てられると安心してうとうとしてきた。
そばで見るデイジーのメイクはすっかりと取れてしまっている。
つけまつげを外した目元のほくろをみて、そうだ、初めて日永に会った時に色っぽいと思ったんだと記憶が甦った。

もしかしたら無意識に惹かれ始めていたのかもしれない。

いつ、どこでデイジーを好きになったのかはどう考えてもわからなかった。いつの間にかそばにいて、いろんなことを話せて互いを知って。友達じゃない好意を持った瞬間ってどこだったんだろう。

「どうしたの? 考え事?」
「ううん。初めて日永さんに会った時のことを思い出してた」

あの日、日永の料理を食べたのに焼き鳥を欲したんだった。その後にバーに連れ去られ再会し……怒涛の日々でここまできた。

「ああ。あの日ね~」とデイジーも懐かしそうにうなずいている。
「恭介さんから焼き鳥を食べに行ったって聞いた時はショックだったわ~まだまだ修行が足りないって気持ちが引き締まったわよ」
「ごめん……でも言い訳をすると上司に囲まれて食べていたから緊張で一口くらいずつしか食べれなくて。どっちかっていうと接待的な。だからホッとしたら庶民的な焼き鳥が食べたくなったって言うか」

美味しかった。間違いなくどこよりも美味しかったのに仕事として食べたからあまり味わえ切れなかったのだ。

「今度は絶対他の物を口にしたくないって思わせるから」
「楽しみにしてる」

いつか日永のレストランでフルコースを食べようと笹屋と予約した日がもうすぐ来るのだ。何か月も待っている間に二人の関係もたいぶ変わってしまった。
恭介はデイジーの胸に顔をおしつけるとそのまままぶたを閉じた。
まだ話していたのに眠たくして仕方がない。
デイジーの心臓の音を聞きながらそっと深い海の中へと意識を手離した。

次に目を覚ました時にはデイジーの姿はなかった。
仕事なんだから仕方がないけどやっぱりさみしい。立ち上がろうとして腰がひどく痛んだけれど、さっきよりはだいぶ動けるようになっている。
ぐっすり眠っていたのかもう昼近くになっていた。

水を飲もうとキッチンへと向かうと鍋に具沢山のスープが用意されていて、お皿におにぎりが置かれていた。
恭介が寝てから作ってくれたんだろう。
デイジーから向けられる愛情がくすぐったくて、シンクに寄りかかりながらおにぎりを頬張った。
疲れた体に塩気多めのおにぎりが美味い。
中は梅干しと鮭だった。
改めてスープを温めてテーブルに持っていくと日永からメッセージが届いた。

(体調はいかがですか?)

二重人格かと思うほどデイジーと日永は違う。どっちの人格かによって言葉使いさえ全く変わる。どっちも恭介を溺愛しているところだけが一緒だった。

(おにぎりとスープありがとう。今起きてたべるところ)
(あと、体は大丈夫そう。腰は痛いけど)

明日には動けるようになっているだろう。じゃなきゃ困る。

(それならよかったです。今日はゆっくり休んでください)
(日永さんもね)
(今日はレストランだけなので大丈夫です)

そっか。じゃあもしかして夜は少し時間があるのかな。
そんなことを考えて何とはなしに返信する。

(じゃあ、来る?)

送ってからしまったと思った。
恭介と違って彼は寝ていない。恭介の世話を終えてそのまま仕事に行っているのだ。やっぱり休ませなきゃと思うのに続けてしまう。

(いないとちょっとさみしい)

1人暮らしは長いし、さみしいなんて思ったことはないのに。デイジーとの濃密な時間がぽっかりとした穴を作ってしまったみたいだ。もっと一緒にいたい。もっとそばにいたい。
あふれてくる欲は今まで恭介が感じられなかったものばかりだ。

それなりに恋愛をしてきたはずなのに、日永と作っていくものは全然違って恭介を変えていってしまう。少しだけ怖いけど、それ以上にもっと先を見てみたくなった。

(少し遅くなってもいいですか?)
(ごめん、うそ。疲れてるから帰って寝て。ワガママ言っちゃった)
(自分が逢いたいんです)
(恭介さん愛しています。逢いに行ってもいいですか?)

逢いたいと言ってくれる言葉に口元が緩んだ。心が浮き立つ。

(じゃあ待ってる)

まさか自分がこんなに溺れてしまうとは思ってもいなかった。クールだったはずなのに日永の対応ひとつひとつが嬉しくて飛び跳ねたくなる。
あと数時間したらまたあいつに会える。
そう思うだけで鼻歌の一つも出るってもんだ。

デイジーの作ったスープはしみじみと美味しくて、愛された身体に染み込んでいった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました

葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー 最悪な展開からの運命的な出会い 年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。 そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。 人生最悪の展開、と思ったけれど。 思いがけずに運命的な出会いをしました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

処理中です...