真っ赤な口紅の純情 ~ドラアグクイーンに惚れられたホテルマンが恋に落ちるまで!~

乃木のき

文字の大きさ
上 下
41 / 66

ひとつひとつ

しおりを挟む
日永とつきあって一週間以上がたった。
互いに忙しいからそんなに会えるわけでもない。このまえのような濃密な時間を取るには余裕がなさ過ぎた。
まあそのうち会えるかと思っていたらあっという間に時間が過ぎていった。
 
それにもうひとつ重要な問題がある。
日永のアレ問題だ。

この前は手だけで気持ちよくなってしまったけど、多分、この先もっと進むんだろう。恭介だって触れたい。同じ男同志の身体なのに日永の身体は恭介の憧れでもあり、欲望の対象になってしまった。
だからといってアレはちょっと。

仕事帰りのスーパーで野菜を選びながらふと足を止める。
そこには艶と張りがあるさつまいもが山となって売られていた。横のケースには「石焼き芋」と書かれ、ホカホカな芋が包まれている。
確かにこの季節に欲しくなるぬくもりだ。
だが恭介の目を引いているのはそれではない。
太さと言い長さと言い、日永の凶器のように見えてしまって思わず手に取ってしまった。
ずっしりと重く、皺のよった皮が血管が浮き出たアレそのもののようで「いやー」と首を傾げる。コレをどうこうってやっぱ無理じゃないか。
その隣には山芋が。
性的な事にそんなに興味がなかったのに最近考えるのはそのことばかりだ。

「あらっ?」っと声をかけられたのは、サツマイモを手にして思い悩んでいた時だ。

「恭介さん?」

聞き覚えのある声に顔を上げるとそこには見知らぬ男が立っていた。坊主頭にサングラスをかけかなりイカツイお兄さんがこちらを見ている。ファッションもなかなか攻めている。フワッフワのファーがついた革ジャンに細身のパンツ。
関わったらヤバそうな雰囲気の男がじっと恭介を見ている。

こんな知り合いいませんけど。
聞き違いかと思って無視をすると、その男は近づいてきてひょいっと恭介の手元を覗き込んだ。

「やっだー。オイモ握ってやらしい」
「はっ?」
「アレに似てるの見つけたわね~」

グフフフと口元を抑えた笑い声はジョセフィーヌのものだった。

「ジョセ」と言いかけた恭介の口を押えて「ノン」と言う。

「この格好をしている時はJoeよ」
「じょ、ジョー?」
「発音が違う。Joe 」

大して変わんない発音をして見せるジョセフィーヌに呆れつつ、自分もイモを手に何をやってるんだと情けなくなった。こんな大切な食材をいやらしい目で見てしまってごめんなさい。
温もってしまったサツマイモを責任をもって購入しようとカゴに入れると「じゃ」とあいさつをしてその場を去ろうとした。だけどJoeが後をついてくる。

「何の用?」
「特に用はないんだけど~。ちょうど恭介さんがいるのが見えたのよ。何やら難しい顔をしていたけどお悩み?」

ゴッツイ見た目にオネエ的しゃべり方をするジョセ、いやJoeにすれ違う客たちがギョッとしたような視線を向ける。そもそも彼の格好自体がヤバイ男認定されていてできれば離れたい。
だけどJoeはまったく気にしないようで、鼻歌交じりに恭介の買い物に付き添ってくる。

「今日はお店は?」
「用事があって遅れたの。これから行くわよ」
「じゃあ急いだほうがいいんじゃないの?」
「アタシがいなくても大丈夫よ~」

それより♡ とJoeは耳に口を寄せた。

「オイモ持って悩むなんて水臭いわよ~相談してよ」
「何をだよ」
「ウフフッ」っとJoeは楽しそうな声をあげた。

「デイジーちゃんとそういう事するときに立ちはだかるわよね~アノ問題。あの子のちょっとやばいもの」

まるで全部お見通しだと言わんばかりのセリフに慌てて振り返った。もしかしてあの時のことをしゃべったのか? 
顔色を変える恭介にJoeは「ノンノン違うわよ~」と指を振る。

「あの子から何も聞いてないわ。でも恭介さんを見てピーンと来たの。クイーンは勘が鋭いのよ。なんでもお見通しってね♡ でも当たっていたでしょ?」
「……さあ」
「すっとぼけなくてもいいのよ~。相談に乗るってば。恭介さん男とそういうこと初めてでしょ? だったら色々わからないのも当然よ。アタシがいろいろレクチャーしてあげるけど、聞きたくない?」

確かに何もかもわからないことだらけだ。
そもそも今まで付き合ってきた女の子と体の構造も違うし、日永に流されるまま気持ちよくなってしまったけどこの先がまったく見えない。

「……別に困ってない」
「アラ~そうなの。じゃあそのオイモは練習用ってこと?」
「違う。アレだ、あの、焼き芋が食べたくなっただけだ」
「だったら焼いてるやつの方が良くない?」

ああ言えばこう言うで、うるさい!

「っていうか普通に買い物してるだけだから。ついてこないで。あと、ここ、外だから。あまり不適切な発言ばかりしていると通報しますよ」
「こわあい」

Joeはやっと諦めたのかパッと離れた。

「わかったわ。でもデイジーちゃんのはやばいわよ。初めて見た時になんて凶器を仕込んでるのかとびっくりしたもの。でも愛があれば大丈夫。いつでも教えてあげるわ」

やっぱりアレは尋常じゃないんだ。
チラリとカゴの中のイモに目を落とした。こんなものを相手に大丈夫なんだろうか。
Joeはサングラスをかけなおすと「じゃあ行くわ」と手を振った。優雅な動きはさすがクイーンだけある。

「今日はデイジーちゃんも出勤よ。よければ来てね」
「明日も早いから帰るよ」
「そう? でもオイモは入れちゃだめよ。危ないわ」
「ばか!」

思わず叫ぶと一斉に視線が集まった。
すみません、と謝る顔が赤く染まる。ほんとにもう勘弁してくれ。
ヒラヒラと踊るように出ていくJoeを見送ると、どっと疲労が襲ってきた。一日働いたよりあの人の相手の方がよっぽど疲れる。



※食べ物をそういう扱いしてごめんなさ~いm(__)m
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました

葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー 最悪な展開からの運命的な出会い 年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。 そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。 人生最悪の展開、と思ったけれど。 思いがけずに運命的な出会いをしました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

氷の騎士様は実は太陽の騎士様です。

りつ
恋愛
 イリスの婚約者は幼馴染のラファエルである。彼と結婚するまで遠い修道院の寄宿学校で過ごしていたが、十八歳になり、王都へ戻って来た彼女は彼と結婚できる事実に胸をときめかせていた。しかし両親はラファエル以外の男性にも目を向けるよう言い出し、イリスは戸惑ってしまう。  王女殿下や王太子殿下とも知り合い、ラファエルが「氷の騎士」と呼ばれていることを知ったイリス。離れている間の知らなかったラファエルのことを令嬢たちの口から聞かされるが、イリスは次第に違和感を抱き始めて…… ※他サイトにも掲載しています ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

one night

雲乃みい
BL
失恋したばかりの千裕はある夜、バーで爽やかな青年実業家の智紀と出会う。 お互い失恋したばかりということを知り、ふたりで飲むことになるが。 ーー傷の舐め合いでもする? 爽やかSでバイな社会人がノンケ大学生を誘惑? 一夜だけのはずだった、なのにーーー。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~

みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。 成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪ イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)

処理中です...