5 / 66
2
しおりを挟む
店の中は想像通り華やかでギラギラしていた。
カウンターの中にも店内のあちこちにも濃いメイクと派手な衣装のドラァグクイーンたちがひしめいている。
うっと気おくれしたけれど笹屋はワクワクと目を輝かせていた。
「やっだ~♡キャシーちゃんったらイケメンご一行様を捕獲してきたわよ♡」
「こっちこっち~一緒に飲みましょうよ~」
グイグイと腕をひかれてカウンター席に案内されると、すかさずおしぼりとナッツが差し出された。
「何にする? バーテンはちゃんとした子だから美味しいわよ」
カウンターの中にいる人は少し年齢がいっているのか落ち着きがあり、バチンと音がするような盛大なウインクを寄越しながらテキパキと働いていた。
「じゃあ、軽めのカクテルを」
さんざん飲んで食ってをしてきた後だ。そこまでガッツリ欲しいわけじゃない。ほんの少し腰を下ろしたらすぐにおいとまするつもりだった。
もう来ることもないだろうし、と、興味本位で店内を見渡した。
よくドラマや映画にありがちなゲイのたまり場かと思えばそんなことはなく、どちらかといえば恭介と同じくらいの年齢の、男女もおなじくらいの比率に見えた。
店内は広いカウンターの他にいくつかのテーブル席、そして小さなステージがあった。
男ばかりの店なのによく磨かれ清潔な感じがしている。
うるさく見えた彼女たちだがさすがプロともいうべきか、客あしらいもうまく気配りも忘れない。
恭介を拉致してきたキャシーも連れてきたからには楽しませようとサービス精神旺盛に面白トークを繰り広げている。
「初めてきたけど、めっちゃ楽しくない?」
笹屋は3杯目のカクテルに口をつけながら高揚した顔を見せた。赤く染まった頬がツヤツヤと輝いている。
普段から面白い奴だけど、こんなことに興味を持つとは知らなかった。
「そうだな」
言いながらも恭介だってどこか楽しい気持ちでいる。
ドラアグクイーンとの最初の出会いこそ最悪だったけど、今ここにいる人たちに嫌な感じはしない。
その瞬間店内のライトが落ちた。
何事かと席を立ちあがりかけた恭介を眩いライトが照らす。と同時にノリのいい音楽が流れ、ステージの上ではドラアグクイーンたちのショーがはじまった。
「ようこそ place to dreamへ。今宵も歌と踊りの夢の世界へ皆さまを誘います」
と、大きな羽を背負ったドラアグクイーンたちがステージの奥からでてきては優雅に踊った。
それはまるでNYにでもいるような華やかなショーだった。
見知ったゴツいドラアグクイーンばかりではなく、中には本物の女より美しい男もいた。歌もダンスもかなりのレベルで、店内の客たちからも口笛が飛ぶ。
煌めくライトに照らされた彼女たちはスターだった。
「どう? 楽しんでる?」
カウンターの中にいるオーナーのジョセフィーヌがタバコを燻らせながら恭介に声をかけた。
「軽めのカクテルだけじゃ物足りないんじゃない?」
「そうですね。じゃあ次はオススメなのを」
「了解♡」
笹屋は身を乗り出し一緒になって身体を揺らしている。
差し出されたパープルのカクテルを口につけるとジョセフィーヌは恭介の顔をじっと見つめ首を傾げた。
「ね、どこかで会ったことない?」
「俺とですか? 記憶にはないと思いますけど」
「そう? なんかどこかで見たことあるのよ」
「ナンパの手口かな」
返すとジョセフィーヌはグっと顎をひいた。
「いうわね。でも残念。どちらかといえばあなたより彼の方がタイプよ」
腕を引き締め、クイっと腰をねじりながら笹屋を指さした。
「ピュアで可愛い。あなたはちょっとスレてて」
「それは申し訳ない」
カクテルもうちのホテルに負けないくらい上品な味だった。
こんな路地裏のお店にも腕の立つバーテンダーがいるなんて知らなかった。もう少し外を知ったほうがいいなとステージに視線を戻す。
ホテルとは全くベクトルが違うけれどゲストを楽しませるしかけがあちこちにあって、サービスという点ではこちらのお店の方に勝敗があがるかもしれない。
悔しいけれど。
格式とかマナーとかそういう堅いものに拘束されたホテルには自由がない。それは面白みに欠けると言えばそうなのかもしれなかった。
いろんなことを考えながらグラスを重ねたせいだろう。
気がつけばカウンターにつっぷして眠りこけてしまっていた。こんなこと普段なら絶対にないのに、今日は緊張したフレンチから始まって焼き鳥屋、そしてここの店とはしごをしてきて限界が来たのだろう。
そっと耳元で名前を呼ばれた気がした。
肩に柔らかなぬくもりがかけられる。薄目を開けると毛布が恭介を包んでいて、その奥に真っ赤なドレスの女・デイジーの顔があった。
「もう少し休んでても大丈夫よ」
「……いや、」
起きなきゃと思うのにアルコールの染みわたった身体は動こうともしない。隣では同じように笹屋も眠りこけているようだった。
___今日あなたお仕事だったんじゃない?
遠のく意識の奥で話し声が聞こえている。
___もしかしてこの子があなたの大好きな恭介くんかと思って連絡したけど正解だったわね。
大好きな恭介くんって俺のことか?
___そう。まさか今日二回も会えるなんて思ってなかったらラッキーよ。
二回もって、どういうことだ?
会ったか、今日、この場所以外で?
考えようにもドロドロとした睡魔には勝てず、再び恭介は思考を放棄した。
カウンターの中にも店内のあちこちにも濃いメイクと派手な衣装のドラァグクイーンたちがひしめいている。
うっと気おくれしたけれど笹屋はワクワクと目を輝かせていた。
「やっだ~♡キャシーちゃんったらイケメンご一行様を捕獲してきたわよ♡」
「こっちこっち~一緒に飲みましょうよ~」
グイグイと腕をひかれてカウンター席に案内されると、すかさずおしぼりとナッツが差し出された。
「何にする? バーテンはちゃんとした子だから美味しいわよ」
カウンターの中にいる人は少し年齢がいっているのか落ち着きがあり、バチンと音がするような盛大なウインクを寄越しながらテキパキと働いていた。
「じゃあ、軽めのカクテルを」
さんざん飲んで食ってをしてきた後だ。そこまでガッツリ欲しいわけじゃない。ほんの少し腰を下ろしたらすぐにおいとまするつもりだった。
もう来ることもないだろうし、と、興味本位で店内を見渡した。
よくドラマや映画にありがちなゲイのたまり場かと思えばそんなことはなく、どちらかといえば恭介と同じくらいの年齢の、男女もおなじくらいの比率に見えた。
店内は広いカウンターの他にいくつかのテーブル席、そして小さなステージがあった。
男ばかりの店なのによく磨かれ清潔な感じがしている。
うるさく見えた彼女たちだがさすがプロともいうべきか、客あしらいもうまく気配りも忘れない。
恭介を拉致してきたキャシーも連れてきたからには楽しませようとサービス精神旺盛に面白トークを繰り広げている。
「初めてきたけど、めっちゃ楽しくない?」
笹屋は3杯目のカクテルに口をつけながら高揚した顔を見せた。赤く染まった頬がツヤツヤと輝いている。
普段から面白い奴だけど、こんなことに興味を持つとは知らなかった。
「そうだな」
言いながらも恭介だってどこか楽しい気持ちでいる。
ドラアグクイーンとの最初の出会いこそ最悪だったけど、今ここにいる人たちに嫌な感じはしない。
その瞬間店内のライトが落ちた。
何事かと席を立ちあがりかけた恭介を眩いライトが照らす。と同時にノリのいい音楽が流れ、ステージの上ではドラアグクイーンたちのショーがはじまった。
「ようこそ place to dreamへ。今宵も歌と踊りの夢の世界へ皆さまを誘います」
と、大きな羽を背負ったドラアグクイーンたちがステージの奥からでてきては優雅に踊った。
それはまるでNYにでもいるような華やかなショーだった。
見知ったゴツいドラアグクイーンばかりではなく、中には本物の女より美しい男もいた。歌もダンスもかなりのレベルで、店内の客たちからも口笛が飛ぶ。
煌めくライトに照らされた彼女たちはスターだった。
「どう? 楽しんでる?」
カウンターの中にいるオーナーのジョセフィーヌがタバコを燻らせながら恭介に声をかけた。
「軽めのカクテルだけじゃ物足りないんじゃない?」
「そうですね。じゃあ次はオススメなのを」
「了解♡」
笹屋は身を乗り出し一緒になって身体を揺らしている。
差し出されたパープルのカクテルを口につけるとジョセフィーヌは恭介の顔をじっと見つめ首を傾げた。
「ね、どこかで会ったことない?」
「俺とですか? 記憶にはないと思いますけど」
「そう? なんかどこかで見たことあるのよ」
「ナンパの手口かな」
返すとジョセフィーヌはグっと顎をひいた。
「いうわね。でも残念。どちらかといえばあなたより彼の方がタイプよ」
腕を引き締め、クイっと腰をねじりながら笹屋を指さした。
「ピュアで可愛い。あなたはちょっとスレてて」
「それは申し訳ない」
カクテルもうちのホテルに負けないくらい上品な味だった。
こんな路地裏のお店にも腕の立つバーテンダーがいるなんて知らなかった。もう少し外を知ったほうがいいなとステージに視線を戻す。
ホテルとは全くベクトルが違うけれどゲストを楽しませるしかけがあちこちにあって、サービスという点ではこちらのお店の方に勝敗があがるかもしれない。
悔しいけれど。
格式とかマナーとかそういう堅いものに拘束されたホテルには自由がない。それは面白みに欠けると言えばそうなのかもしれなかった。
いろんなことを考えながらグラスを重ねたせいだろう。
気がつけばカウンターにつっぷして眠りこけてしまっていた。こんなこと普段なら絶対にないのに、今日は緊張したフレンチから始まって焼き鳥屋、そしてここの店とはしごをしてきて限界が来たのだろう。
そっと耳元で名前を呼ばれた気がした。
肩に柔らかなぬくもりがかけられる。薄目を開けると毛布が恭介を包んでいて、その奥に真っ赤なドレスの女・デイジーの顔があった。
「もう少し休んでても大丈夫よ」
「……いや、」
起きなきゃと思うのにアルコールの染みわたった身体は動こうともしない。隣では同じように笹屋も眠りこけているようだった。
___今日あなたお仕事だったんじゃない?
遠のく意識の奥で話し声が聞こえている。
___もしかしてこの子があなたの大好きな恭介くんかと思って連絡したけど正解だったわね。
大好きな恭介くんって俺のことか?
___そう。まさか今日二回も会えるなんて思ってなかったらラッキーよ。
二回もって、どういうことだ?
会ったか、今日、この場所以外で?
考えようにもドロドロとした睡魔には勝てず、再び恭介は思考を放棄した。
20
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる