女とじゃイケなかったので男としたらめくるめく経験をして恋に落ちました。

乃木のき

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 耳朶を噛みながら遊里は腰を押しつけてきた。ぬるりと滑るように狭間を行き来する。

「……や、今、は、まだダメ」
「っていうのは口だけ。ここは早くって言ってるんだよね」

 背中を大きなてのひらで押され、露わになったうなじに遊里の歯が食い込む。吸われるより強い刺激にぎゅっと目を閉じる。

「この前さ~ライブに来てくれたファンの子に見せられた本がなんっていったかな。忘れたけどそれに出てきた男がうなじを噛んだら好きな人と番になるとかなんとかって。いいよね、噛んだくらいで一生いてくれるなんてさ」

 歯形の跡を確かめるように遊里はうなじを舐めた。

「こんな風に好きな人に痕を残して、これは俺のものだぞって所有欲を満たすのはわかるけど」

 そのまま首筋に下りてきてきつく吸う。

「彰仁さんならこの程度じゃ俺のものになってくれないよね」

 じゅうっとわざと大きな音を立ててさらにもう一か所。
 目立つ場所にキスマークは嫌だと言っているのになんのスイッチが入ったのか遊里は次々に痕を残した。

「馬鹿。会社で見つかったらどうすんだよ」
「いいじゃん。キスマのひとつひとつに俺の印鑑も押したい。花村印。ウケル」
「そんな印がなくたっておれはお前の……」

 言いかけた途中で遊里が入り込んでくる。
 狭い道を我が物顔で押し開き、彰仁の中をいっぱいにする熱で。

「マジで。ほんとにそう思ってていいの。彰仁さんは俺のものだって、やばいね、興奮する」
「あっ、いきなりっ」
「だって彰仁さんが悪い。おれのものだから好きにしていいってことでしょ。すごいね、愛されてるわ」

 ゆっくりとした動きで根元まで埋め、入りきらない場所に届くとギリギリまでぬいた。形をわからせるような抽送に背筋が粟立つ。

「でもね俺も彰仁さんのものだよ。好きにしてください」
「お前なんか全然言う事聞かないくせに」
「聞くよ、言ってよ。え? もっと奥まで欲しいって? いいよあげるね」

 勝手に人の言葉を作って遊里はさらにもぐりこんでくる。
 腰を引き寄せて逃げられないようにしながらグリグリと押し付ける。

「奥っ、だめ」
「ダメじゃないでしょ。欲しいって言って」
「ほらやっぱり人の言う事きかない」
「大丈夫。心の声がしっかり聞こえてるから。可愛いな彰仁さん」

 口では勝手なことを言いながら遊里は彰仁の反応を見逃さない。小さな変化を汲み取って欲しいことをしてくれる。こうしてくれたら、なんて思う暇もないくらい満たされる。

「ん、奥っ、すごい……気持ちいい……」
「ほらね、彰仁さんの願いなんてすぐにわかってるから安心して愛されていて」
「あっ、遊里、」
「好きだよ、彰仁さん。大好き」
 
 ゆっくりだった動きは次第に早くなり声が出なくなるまで喘ぎまくった。
 遊里が上手なのか二人の相性がいいのか一度の絶頂は信じられないほどの満足を与えてくれる。
 これ以上の至福はないと思うのに、触れているとまた次が欲しくなる循環に怖いと思った。 
 呆れるほど遊里とのセックスに溺れている自覚はあった。今までの欠乏を忘れるほどの濃い経験は途方もない不安をもたらす。

 もし遊里がいなくなったら。
 もし飽きられてしまったら。

 セックスだけがすべてじゃないけどこれがなくなったらどうなってしまうのだろう。

「ねえ彰仁さん」
 広いとも言えない湯船に背中から抱かれながら浸かる。
 遊里の髪は洗うとさらにもしゃもしゃになって肩口にぽたりと水を落とした。

「なに?」
「さっきの話。うなじを噛んでカップルになるとさ、男でも孕むんだって。彰仁さんのここにもそういう機能があればいいのにな」

 後ろからお腹を撫でられ彰仁は振り向いた。

「子供が欲しいとかいうタイプだと思わなかったけど」
「そういうんじゃなくて」
「じゃあなに?」
「ん~うまく言えないけど、圧倒的にかっこよくて男らしい彰仁さんが俺の種を腹に仕込んでいるって考えたら萌えるなって話」

 よくわからなくて首を傾げると遊里も困ったように眉を下げた。

「意味わかんないよね、ごめん。そうだな、これは俺のものだって独占欲が芽生えちゃたみたい」
「そんなの……」

 彰仁だってそうだ。
 ライブ会場でたくさんの女の子が遊里に向かって愛を叫んでいる時、あれはおれのものだぞと言いたくなることもある。
 離れている時間にそれぞれのそばに女の気配があることを知っているから。どうしたって意識してしまう。

 いつか、そっちがいいって別れを切り出されてしまうかもしれない不安。

「でも、おれはお前以外と付き合う気はないよ」

 お腹をさする遊里の手の上に手を重ねて、指を絡めた。

「今好きなのは遊里だし、おれをこんなに満たせるのもお前しかいないって思ってるし」

 男とか女とか関係なく。
 まさか自分がそんなことを想うなんて想像したこともないけれど。

「嬉しい彰仁さん」

 遊里は肩口に頭をすり寄せて甘えるようにこすりつけた。

「そんなに俺の事好きになってくれたなんて知らなかったな」
「お前がおれを好きな気持ちの方が強そうだけど」
「そうだね。彰仁さん大好き選手権があったら優勝間違いないわ」
「なんだそれ」
「それくらい大好きってこと」

 三日月の笑みが近づいてきて唇を受け止めながら、幸せすぎて怖いってこういう事かと思った。
 どうか壊れないでと強く願うほど現実は牙をむく。

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