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「年下に言われたくないよ」
「だからあんまり変わらないんだってば」
「いいからお前も食え」

 もう一個のパンを袋から取り出すと遊里の口の中に突っ込んでやった。

「よく噛んで食べれよ」
「人の口に突っ込んでおきながらよく言うよ」

 遊里はモグモグと咀嚼しながら「ああ」と思いついたように言った。

「今度彰仁さんの口におれの突っ込んでもいい?」

 食事をしながらとんでもないことを言い出す。
 思わずむせると「なにやってるのかなあ~」と笑いながら背中を叩かれた。

「馬鹿。お前何言って……っ」
「いや~無理矢理奥まで突っ込んで口に出してやるのも興奮するかなって」
「しないから」
「えっ、うそ。してよ」

 あまりにも真顔でショックを受けるからおかしくなって声を立てて笑ってしまう。しかも口を開けば下ネタばっかりだし、遊里のファンの子に見せてやりたい。絶対がっかりするぞ。

「もーお前はほんとそればっかりだな」
「笑った」

 遊里はふわりと笑うと彰仁のほっぺたをつついた。

「そうやって笑っててよ、彰仁さん」

 そう言う遊里があまりにも優しい表情を見せるから、つい見惚れてしまう。こんなに優しい顔もできるんだ。心臓が高鳴った。
 顔が赤くなっていくのが分かって慌ててうつむいた。

「笑って、って、」
「彰仁さんはさ、何もないって、出来損ないだっていうけど違うでしょ。ずっと努力してきた人だ。誰かと比べるんじゃなくてさ、彰仁さんでいてくれれば十分。かっこいいよ。だからいつも自信もって笑っててよ」
「遊里……」

 そんな風に言われたかった。
 そんな風に自分で思いたかった。

 両親や兄たちと違うけど彰仁だって努力をしてきた。
 その結果が思わしくなかったとしても身に着けてきたスキルは彰仁だけのものだ。それにきっと彰仁にだからできることがある。

「あー泣かないで。参ったな」
「泣いてないし」
「うん、そうだね、彰仁さんは泣いてないけどちょっとだけぎゅってさせてね」

 震える肩を強く抱きしめられる。
 女の子と違って柔らかくない胸に顔を押しつけた。昨日から着ていた服には遊里の匂いが染みついていて深く息を吸う。
 香水の匂いが薄れたTシャツは少し汗ばんでいて男くさい。
 
「汗臭くてごめんね」

 遊里がしゃべると胸から声が響いてきた。
 その振動を愛おしいと思うほどには彰仁は心を開いてしまっている。認めたくないけど、この男を手離したくないと思い始めている。
 甘やかされたいわけじゃないけど誰かが分かってくれるというのはこんなに安心するのか。

「ほんとだよ」
「酷い」

 笑う遊里の声につられるように彰仁も笑った。
 今度はおかしさに肩を震わせる。ああ、かなわないな。遊里に助けられてばっかりだ。

「時々だったら口でしてもいいよ」

 言うと驚いたように彰仁を引き離した。
 顔をのぞき込んで「マジで?」と声を震わせる。

「してくれんの?」

 他の男だったら絶対にしてやらないけど。
 遊里だったら、まあ、時々ならしてもいい。彰仁の下で喘ぐ姿を見てみたい気もするから。

「でも無理矢理突っ込むのは無しな」
「しない。紳士的に入れる」
「紳士的って、もう、お前はほんとに」

 彰仁は息を吐くと遊里の腰に手を回してぎゅっと抱きついた。
 コンプレックスの塊だった彰仁を緩めて愛してくれた体を味わうように頬をすり寄せた。

「まあお手柔らかにな。おれは初心者なので」
「わかってる。っていうかマジでセックスでイケないって誰の話だよってくらい感じやすい彰仁さんをどんどん開花させようと思います」

 ぐっと抱きしめ返して余計な宣言をする遊里の胸をドンと叩いて彰仁は抗議の声をあげた。塞がれてすぐに甘い吐息に変わる。
 だけど彰仁だって少しだけ楽しみだ。
 こんな風に心も体も繋がって満たされたのは初めてだから。

「彰仁さん、大好きだからね」

 そういう遊里の言葉を信じてみてもいいかな。

「うん……おれも好きだよ」

 そう答える彰仁に遊里はこの上なく幸せそうに笑った。
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