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なにもかも接点のない遊里の話は興味深かった。こんなことでもなきゃ絶対に知り合わないような人種だったろう。
後ろから抱かれながら、バスタブに身体を鎮めた。
覆いかぶさってくる体の大きさに少しだけ緊張する。女の子たちはこんな気分なのかなって思ったらもう少し優しくしようと省みる。
「また他の子のこと考えてる」
「そういうお前は勘が鋭いな」
「わかるよ、こうやって触れている肌から伝わってくるじゃん」
遊里は肩の上に顎を乗せた。さらに広い範囲で背中と胸が接触する。
「彰仁さんは筋トレとか何かやってんの?」
「おれは仕事が忙しいって理由をつけて何もしてないな。でもそろそろやんなきゃやばいかなって思ってたところ」
「ふーん」
スルリと手が伸びてきて、お腹の上で手を組まれた。
「そうかな、まあ平均的って感じじゃないの」
そのまま上にずらして胸を包み込む。ぺったんこで硬くてごめんなと思ったけれど気にする様子もなく、柔らかく揉みしだいている。
「胸筋はありそう」
「高校まで水泳をやっていたから。でももう10年以上泳いでない」
「鍛えていたならすぐ体は戻るよ。今度一緒にプールに行く?」
今度、という言葉に彰仁は振り返った。
たった一晩、お試し的に寝るだけかと思っていたけど違うのか?
遊里は、ん? というように首を傾げると、掬い取るように唇を重ねてきた。それがすぐに深いキスに変わる。
さっきまでの触れるだけのキスとは違う性的な意味を持つ触れ合いに、彰仁は身をこわばらせた。
本当にするのか?
ここまで来て急に実感がわいてきて、慌てたように押しのけた。
「どうしたの」
甘えるようにすり寄られて「いや、」と言葉を濁す。
今更やっぱりやめたいと言ったらどうなるんだろう。いいよわかったといってすぐに離してくれるのかもしれない。
風呂を上がってそれぞれ服を着て、じゃあねと別れて終わり。
やめるなら今が最後と思ったけれど、彰仁は遊里の髪をぐしゃぐしゃとかき乱した。
クルクルとした髪が柔らかく、実家で買っていた犬を思い出した。
そうだあいつもこんな風に人懐っこくてすぐに甘えたようにまとわりついてきたんだった。
「いいよ、行こう今度プール」
「俺けっこう泳ぐの早いよ」
「言ったな、じゃあプール後のビールをかけて競争な」
「やった。ごちそうさまです」
まるで子供の用に無邪気に遊里は笑う。
いいや、と決めた。
このまま流れに身を任せよう。
もういい加減嫌だった。あんな風にセックスのことで責められるのもがっかりされるのも呆れられるのも。
自分だってイケるならさっさとイキたい。気持ちよく放出したい。
もしあの地獄を抜け出せるキッカケになるならなんだってしてやる。
ボディーソープをこれ以上ないほど泡立てて、お互いの身体を洗いっこした。際どい場所にも触れ合って、呼吸を乱しながら先を期待する。
「お風呂の中で一回したいところだけど、のぼせそうだしベッドに行こう」
決定的なことは何もしないままバスルームを出て、ドライヤーで髪を乾かし合う。
子供の頃親戚たちが集まって、イトコとお風呂に入ったり髪を乾かし合ったことを思い出した。懐かしい。
遊里は初対面なのにそういう心の柔らかい場所にスルリと入ってくる不思議な男だった。だから抵抗もなく身体を委ねようとしてしまう。
ベッドに転がってからもどうでもいい話をしながら、体だけは触れ合った。時々キスをしたり足をこすり合わせたり、すぐに行為にうつるのではなく甘い時間を過ごす。
恋人たちとホテルに入った彰仁はどうだっただろうか。
自分の部屋で、彼女のベッドで、今度こそはと緊張していたかもしれない。もしくは諦めと。
「彰仁さんってさ、ちょろいって言われない?」
大型犬のようにのしかかってきながら遊里は耳朶を噛んだ。
「いいの? ホントにこんな出会ったばかりの男と寝ちゃって」
意味が分からず見つめ返すと、遊里は細い目をさらに細めて笑った。
「いつ我に返ってやめるっていうかなって思っていたんだけど」
「お前は嫌なのか?」
「そうじゃないよ。俺はバリバリやる気。ほら」
押しつけられた遊里のソレはすでに戦闘態勢に入ろうとしていた。ゴリっと太ももに固いものが触れる。
「お前こそいいのか。たまたま隣で飲んでいたオッサンなんかと」
「オッサンってほどじゃないでしょ。ほとんど変わんないよ」
聞けば遊里は2つ年下なだけだった。見た目のせいかもっと若いと思っていた。
「俺は彰仁さんがめっちゃ好みだし、イケないあなたがイキまくったら興奮すんなあって思ってるし、なんだったら潮も吹かせちゃいたい」
「潮って、いやいやおれは男だし」
「バカだなあ。彰仁さん、男も吹くよ」
さっきまでの飄々とした空気がガラリと変わった。
捕食者の色を纏って遊里が舌なめずりをしているようだ。ゾワリとしたものが背筋を這う。
「気持ちよくなってね」
囁きとともに深いキスが落ちてきた。
後ろから抱かれながら、バスタブに身体を鎮めた。
覆いかぶさってくる体の大きさに少しだけ緊張する。女の子たちはこんな気分なのかなって思ったらもう少し優しくしようと省みる。
「また他の子のこと考えてる」
「そういうお前は勘が鋭いな」
「わかるよ、こうやって触れている肌から伝わってくるじゃん」
遊里は肩の上に顎を乗せた。さらに広い範囲で背中と胸が接触する。
「彰仁さんは筋トレとか何かやってんの?」
「おれは仕事が忙しいって理由をつけて何もしてないな。でもそろそろやんなきゃやばいかなって思ってたところ」
「ふーん」
スルリと手が伸びてきて、お腹の上で手を組まれた。
「そうかな、まあ平均的って感じじゃないの」
そのまま上にずらして胸を包み込む。ぺったんこで硬くてごめんなと思ったけれど気にする様子もなく、柔らかく揉みしだいている。
「胸筋はありそう」
「高校まで水泳をやっていたから。でももう10年以上泳いでない」
「鍛えていたならすぐ体は戻るよ。今度一緒にプールに行く?」
今度、という言葉に彰仁は振り返った。
たった一晩、お試し的に寝るだけかと思っていたけど違うのか?
遊里は、ん? というように首を傾げると、掬い取るように唇を重ねてきた。それがすぐに深いキスに変わる。
さっきまでの触れるだけのキスとは違う性的な意味を持つ触れ合いに、彰仁は身をこわばらせた。
本当にするのか?
ここまで来て急に実感がわいてきて、慌てたように押しのけた。
「どうしたの」
甘えるようにすり寄られて「いや、」と言葉を濁す。
今更やっぱりやめたいと言ったらどうなるんだろう。いいよわかったといってすぐに離してくれるのかもしれない。
風呂を上がってそれぞれ服を着て、じゃあねと別れて終わり。
やめるなら今が最後と思ったけれど、彰仁は遊里の髪をぐしゃぐしゃとかき乱した。
クルクルとした髪が柔らかく、実家で買っていた犬を思い出した。
そうだあいつもこんな風に人懐っこくてすぐに甘えたようにまとわりついてきたんだった。
「いいよ、行こう今度プール」
「俺けっこう泳ぐの早いよ」
「言ったな、じゃあプール後のビールをかけて競争な」
「やった。ごちそうさまです」
まるで子供の用に無邪気に遊里は笑う。
いいや、と決めた。
このまま流れに身を任せよう。
もういい加減嫌だった。あんな風にセックスのことで責められるのもがっかりされるのも呆れられるのも。
自分だってイケるならさっさとイキたい。気持ちよく放出したい。
もしあの地獄を抜け出せるキッカケになるならなんだってしてやる。
ボディーソープをこれ以上ないほど泡立てて、お互いの身体を洗いっこした。際どい場所にも触れ合って、呼吸を乱しながら先を期待する。
「お風呂の中で一回したいところだけど、のぼせそうだしベッドに行こう」
決定的なことは何もしないままバスルームを出て、ドライヤーで髪を乾かし合う。
子供の頃親戚たちが集まって、イトコとお風呂に入ったり髪を乾かし合ったことを思い出した。懐かしい。
遊里は初対面なのにそういう心の柔らかい場所にスルリと入ってくる不思議な男だった。だから抵抗もなく身体を委ねようとしてしまう。
ベッドに転がってからもどうでもいい話をしながら、体だけは触れ合った。時々キスをしたり足をこすり合わせたり、すぐに行為にうつるのではなく甘い時間を過ごす。
恋人たちとホテルに入った彰仁はどうだっただろうか。
自分の部屋で、彼女のベッドで、今度こそはと緊張していたかもしれない。もしくは諦めと。
「彰仁さんってさ、ちょろいって言われない?」
大型犬のようにのしかかってきながら遊里は耳朶を噛んだ。
「いいの? ホントにこんな出会ったばかりの男と寝ちゃって」
意味が分からず見つめ返すと、遊里は細い目をさらに細めて笑った。
「いつ我に返ってやめるっていうかなって思っていたんだけど」
「お前は嫌なのか?」
「そうじゃないよ。俺はバリバリやる気。ほら」
押しつけられた遊里のソレはすでに戦闘態勢に入ろうとしていた。ゴリっと太ももに固いものが触れる。
「お前こそいいのか。たまたま隣で飲んでいたオッサンなんかと」
「オッサンってほどじゃないでしょ。ほとんど変わんないよ」
聞けば遊里は2つ年下なだけだった。見た目のせいかもっと若いと思っていた。
「俺は彰仁さんがめっちゃ好みだし、イケないあなたがイキまくったら興奮すんなあって思ってるし、なんだったら潮も吹かせちゃいたい」
「潮って、いやいやおれは男だし」
「バカだなあ。彰仁さん、男も吹くよ」
さっきまでの飄々とした空気がガラリと変わった。
捕食者の色を纏って遊里が舌なめずりをしているようだ。ゾワリとしたものが背筋を這う。
「気持ちよくなってね」
囁きとともに深いキスが落ちてきた。
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