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近衛兵
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言葉通り夫を増やした羽蟲にわざわざ清翅が嫌味を言いにきた、という噂は瞬く間にかけめぐり、神殿だけでなく王宮の人々にも知るところとなった。いわく、国王が側室を持ったことに、神子清翅は傷ついている。国王は神子を蔑ろにし、新たな夫に現を抜かして骨抜きにされている。国王は神子を傷つけた、とんでもなく罰当たりな愚か者で、側室となった夫も同類だ。……など。
羽蟲の評判は元々悪い。いつもぼんやりして意志がない神殿の傀儡、王宮の下働きさえもそう蔑んでいる。今さら醜聞が増えたところでさして変わらないため、いつものことと割りきれたが、しかし自分の望みに応えて夫になってくれた瀬漣まで同時に悪評を流されているのは辛かった。瀬漣自身は気にする様子もなく実際そう言って羽蟲を慰めたが、それでもやはり、瀬漣の王宮での立場を悪くしたのではないかと羽蟲は気に病み、なるべく瀬漣と共にいるところを他人に見せないようにしようと心に決めた。
そもそもやはり夫を増やしたこと自体が間違いだったのだろうか。
次の公務は神殿の息がかかった隣国の官僚との対談であると告げられたため、既に学習済みの隣国の言語や情勢について自室で振り返りながら、羽蟲はため息をついた。瀬漣は他に仕事があるとかで傍を離れている。夜の営みの頻度について話し合おうと言っていたが、そういう気分になれず結局うやむやになってしまった。大切なものを扱うような瀬漣の接し方は羽蟲に幸福感を与えてくれたが、もうこのまま離縁したほうが瀬漣のためになるのではないかと考えていた。羽蟲の側室という立場は彼の得にはならないだろうし、なにより清翅が嫌そうだった。これ以上清翅に冷たくされるのは耐えられない。
公務の準備も身に入らず夫たちのことを考えていた羽蟲は、部屋に誰かが入ってきたことにしばらくの間気がつかなかった。机に向かいながら何度もため息を吐き、長い時間一向にペンを進めない羽蟲を窺うように、背後から声がかかる。
「……陛下、羽蟲陛下」
「……えっ」
誰もいないと思っていた羽蟲は、突然の誰かの声に驚き意識を現実に戻して、椅子に座ったまま振り返った。
前回の公務に同行した近衛兵が、そこにいた。左側に眼帯を装着した榛色の眼と髪の、あの男だ。
「あ……っ、え?」
「お仕事中に無礼を承知で失礼致します。先ほどから顔色が良くありませんが……体調が優れないのでしょうか?」
声を聞いたのは初めてだったが、近衛兵らしい、背が高く鍛えられた容姿に反し、労るような優しい声だ。王の間に羽蟲と瀬漣以外の者がいることは滅多になく、また羽蟲に声をかける者もほとんどいないため、突然現れた男に声をかけられたことに羽蟲はひどく動揺した。
「た、体調は悪くありません。大丈夫です」
「そうですか……それならば良かったです。何度もため息を吐きながら困った顔をされていたので、お加減が悪く助けが必要なのかと……失礼致しました」
「あ……ごめんなさい、考え事があって……ちょっとぼーっとしていました」
無意識のうちに取っていた自分の態度で、相手を誤解させたことに羽蟲が頭を下げると、近衛兵はぎょっとした様子で敬礼の姿勢を取った。
「滅相もございません、私こそ不敬にも陛下にお声かけして驚かせてしまい、申し訳ありませんでした」
「いえ、そんな……ありがとうございます、勉強しないといけないのに他のことを考えてしまっていたので、声をかけてもらって助かりました。……でもなぜあなたがここに?」
近衛兵は通常部屋の前で警備にあたっている。羽蟲が中にいるときは大抵瀬漣も共にいるため、女官すら最低限の用事以外は滞在しない。だから誰かに自分の姿を見られているとも、話しかけられるとも思わず驚いたのだが、なぜこの近衛兵が室内にいたのかわからず羽蟲は首をかしげた。
「瀬漣様に命じられました。自分が離れている間、時折室内を窺うようにと。陛下はご無理をなさることが多いから自分の代わりに見守るように……とも。私は現在陛下の専属護衛を任されておりますので」
それで様子を見るために中を覗いたら、羽蟲が同じ姿勢でため息ばかりついているから思わず声をかけてしまった……、と近衛兵は苦笑するように語った。
瀬漣がそのように羽蟲を気にかけていること、近衛兵も羽蟲を心配して声をかけてくれたことに羽蟲は衝撃を受け、顔が熱くなった。他人にとって自分が取るに足らない、むしろ話しかけることも厭うような嫌悪すべき存在だと思われていることを自覚している羽蟲にとって、誰かからそんな扱いを受けるなど信じられない。たとえ瀬漣に命じられたとしても、無視して誤魔化すことも可能だったろうに律儀に見守ってくれた近衛兵に、羽蟲は立ち上がり、皮膚が固くなったその手を取った。
「……あなたのお名前を聞いてもいいでしょうか?」
突然羽蟲に両手を握られたことに焦った様子の近衛兵だったが、まさか振り払うわけにもいかず、ひとつしかない目を泳がす。しかし羽蟲がまっすぐに自分を見つめてそう訊ねるので、手を握られたまま片足の膝を床に付くと、羽蟲を見つめ返した。
「……火乱(カロン)と申します、陛下」
「……かろん」
「陛下にこの名を知っていただけたこと、光栄に思います」
微笑みながら名乗った羽蟲の騎士は、優しく羽蟲の手を引き寄せると、その手の甲に口づけた。暖かい、少しかさついた唇の感触に、羽蟲は思わず握った手を離して飛び退いてしまう。特殊な立場の国王である羽蟲は恭しく接されることに慣れていない。このような場合にどう返したらいいのかわからず、戸惑ったゆえの反応だったが、忠誠と敬愛を示してくれた火乱に対して失礼な行動だと思い至り、慌てて言い訳した。
「わっ、あっ……!違う、違うんです火乱、嫌だったんじゃないんです!あの、全然嫌なんかじゃなくて、ただびっくりしてしまって……。あの……」
しかしなんと言えばわかってもらえるかわからない。せっかく優しくしてくれたのに、やっぱり嫌なやつだと思われてしまうだろうか。なんとか自分の思いを伝えようとするが、他人と会話することが滅多になかった羽蟲は上手く言葉にできず、焦るばかりだ。段々涙眼になってくる。
そんな羽蟲に火乱は嫌な顔せず、くすりと笑って立ち上がり、羽蟲の眼に浮かんだ涙を指で拭った。
「……あなたは私の知る王や王族とは、随分違いますね。王の行動に臣下がどう感じようが、王が気にされる必要はないのですよ」
「あ、でも……」
「あなたがどのような扱いを受けてきたのかは知っているつもりです、羽蟲陛下。……あなたが巷でどのように噂されているのかということも」
噂、という言葉に羽蟲の体がびくりと震えた。今いちばん、羽蟲を苛んでいるものだ。火乱も王宮に勤めるひとりなのだから、もちろん羽蟲や瀬漣の悪評は耳にしているのだろう。それを聞いてなにを感じたのか、恐る恐る火乱の様子を窺う。火乱はすっと目を細めると、遠くを見つめるような目で言葉を続けた。
「しかし、噂など当てにならない。私が陛下の専属になってまだ日が浅いですが、陛下は勤勉で実直で、真面目に公務をこなしておられる。良き王であると、私は思います」
「え……?」
「陛下、縁あって近衛兵をさせていただいていますが、私はこの国の出身ではないのです。文化も宗教も異なる国から来ました」
良い王と誉められたことも衝撃だが、他国出身と告げられたことにも驚いて羽蟲は目を見開いた。アメイ国は一部の同盟国とわずかばかり交流を持ってはいるが、どちらかというと閉鎖的な国だ。国民が他国へ移住することも、他国民を受け入れることもほとんど認められない。あまつさえ、王族や要人を警護する近衛師団に所属するまで登り詰めた他国民がいたなど信じられなかった。
「そう……それは……火乱はとても、優秀な兵だったのですね。すごいなぁ」
「いいえ、本当にたまたま、縁に恵まれただけなのですが……。そういうわけで、私は他の民に比べると神子様を敬う心が欠けているのです。だからこそ私は、くだらない噂や悪評より、私の目で見た陛下の人となりを信じます」
「火乱……」
「傷ついた様子のあなたを見るたび、何とかして差し上げたいと思いました。……翅の美しさや、能力の高さだけで判断する者たちの悪意から、あなたを護る盾となりたい、と」
火乱は再び片膝を付く姿勢をとった。先ほどは忠誠を示すためのものだったが、しかし、今回は別の意味を込めた。
言葉を返せない羽蟲を、眩しいもののように見つめて火乱は言った。
「いちばん傍であなたをお護りしたい。……私をあなたの夫に、加えてくださいませんか?」
余計なことをしやがって、と瀬漣はここしばらく苛立ちを隠せず、舌打ちと煙草の量が増えていた。
神殿での騒動だ。
せっかく羽蟲への日頃の態度を改め、処遇を改善させ、自分を夫として愛していれば良いことがある、と羽蟲に刷り込んでいた途中だったのに。羽蟲は神殿で清翅に罵られた日以来、自分の行動が清翅を怒らせ、清翅が怒ったということは間違っているのは自分なのだと落ち込んでいる。そもそも他の男とまぐわえと言い放ったのは、当の清翅であるにも関わらず。
羽蟲にも感情が、意志があるのはわかったが、自分で考えて何かを決めるということは苦手なようだった。というよりできない。すべて神殿に、夫に従っていればいいと思っており、また夫の中で最もその優先度が高いのは現状正室である清翅だ。清翅がやはり側室を持つのは辞めろと告げれば即座に瀬漣との婚姻を解消せんばかりに、盲目的に従っている。
瀬漣もそれは元々理解していた。そういう部分で自分は清翅には太刀打ちできない。ならば清翅には不可能な分野で、羽蟲の中で自分に比重が傾くように仕向ければいい。神殿の一件以前、羽蟲の側室となったときからの、瀬漣の狙い所。
羽蟲が側室を持つに至った理由、すなわち、羽蟲の性欲の解消に務めればいい。もはやそれを与えてくれるのは瀬漣だけだと、羽蟲の肉体にゆっくり刻み込んでいく。幸い羽蟲は快楽には弱そうなので、さして難しいことではないだろう。
自分の夫としての価値をそう楽観視していた瀬漣は、嫌味しか言わない揚羽への経過報告を終えて戻った王の間で、羽蟲から信じられない言葉を聞くことになる。
羽蟲の評判は元々悪い。いつもぼんやりして意志がない神殿の傀儡、王宮の下働きさえもそう蔑んでいる。今さら醜聞が増えたところでさして変わらないため、いつものことと割りきれたが、しかし自分の望みに応えて夫になってくれた瀬漣まで同時に悪評を流されているのは辛かった。瀬漣自身は気にする様子もなく実際そう言って羽蟲を慰めたが、それでもやはり、瀬漣の王宮での立場を悪くしたのではないかと羽蟲は気に病み、なるべく瀬漣と共にいるところを他人に見せないようにしようと心に決めた。
そもそもやはり夫を増やしたこと自体が間違いだったのだろうか。
次の公務は神殿の息がかかった隣国の官僚との対談であると告げられたため、既に学習済みの隣国の言語や情勢について自室で振り返りながら、羽蟲はため息をついた。瀬漣は他に仕事があるとかで傍を離れている。夜の営みの頻度について話し合おうと言っていたが、そういう気分になれず結局うやむやになってしまった。大切なものを扱うような瀬漣の接し方は羽蟲に幸福感を与えてくれたが、もうこのまま離縁したほうが瀬漣のためになるのではないかと考えていた。羽蟲の側室という立場は彼の得にはならないだろうし、なにより清翅が嫌そうだった。これ以上清翅に冷たくされるのは耐えられない。
公務の準備も身に入らず夫たちのことを考えていた羽蟲は、部屋に誰かが入ってきたことにしばらくの間気がつかなかった。机に向かいながら何度もため息を吐き、長い時間一向にペンを進めない羽蟲を窺うように、背後から声がかかる。
「……陛下、羽蟲陛下」
「……えっ」
誰もいないと思っていた羽蟲は、突然の誰かの声に驚き意識を現実に戻して、椅子に座ったまま振り返った。
前回の公務に同行した近衛兵が、そこにいた。左側に眼帯を装着した榛色の眼と髪の、あの男だ。
「あ……っ、え?」
「お仕事中に無礼を承知で失礼致します。先ほどから顔色が良くありませんが……体調が優れないのでしょうか?」
声を聞いたのは初めてだったが、近衛兵らしい、背が高く鍛えられた容姿に反し、労るような優しい声だ。王の間に羽蟲と瀬漣以外の者がいることは滅多になく、また羽蟲に声をかける者もほとんどいないため、突然現れた男に声をかけられたことに羽蟲はひどく動揺した。
「た、体調は悪くありません。大丈夫です」
「そうですか……それならば良かったです。何度もため息を吐きながら困った顔をされていたので、お加減が悪く助けが必要なのかと……失礼致しました」
「あ……ごめんなさい、考え事があって……ちょっとぼーっとしていました」
無意識のうちに取っていた自分の態度で、相手を誤解させたことに羽蟲が頭を下げると、近衛兵はぎょっとした様子で敬礼の姿勢を取った。
「滅相もございません、私こそ不敬にも陛下にお声かけして驚かせてしまい、申し訳ありませんでした」
「いえ、そんな……ありがとうございます、勉強しないといけないのに他のことを考えてしまっていたので、声をかけてもらって助かりました。……でもなぜあなたがここに?」
近衛兵は通常部屋の前で警備にあたっている。羽蟲が中にいるときは大抵瀬漣も共にいるため、女官すら最低限の用事以外は滞在しない。だから誰かに自分の姿を見られているとも、話しかけられるとも思わず驚いたのだが、なぜこの近衛兵が室内にいたのかわからず羽蟲は首をかしげた。
「瀬漣様に命じられました。自分が離れている間、時折室内を窺うようにと。陛下はご無理をなさることが多いから自分の代わりに見守るように……とも。私は現在陛下の専属護衛を任されておりますので」
それで様子を見るために中を覗いたら、羽蟲が同じ姿勢でため息ばかりついているから思わず声をかけてしまった……、と近衛兵は苦笑するように語った。
瀬漣がそのように羽蟲を気にかけていること、近衛兵も羽蟲を心配して声をかけてくれたことに羽蟲は衝撃を受け、顔が熱くなった。他人にとって自分が取るに足らない、むしろ話しかけることも厭うような嫌悪すべき存在だと思われていることを自覚している羽蟲にとって、誰かからそんな扱いを受けるなど信じられない。たとえ瀬漣に命じられたとしても、無視して誤魔化すことも可能だったろうに律儀に見守ってくれた近衛兵に、羽蟲は立ち上がり、皮膚が固くなったその手を取った。
「……あなたのお名前を聞いてもいいでしょうか?」
突然羽蟲に両手を握られたことに焦った様子の近衛兵だったが、まさか振り払うわけにもいかず、ひとつしかない目を泳がす。しかし羽蟲がまっすぐに自分を見つめてそう訊ねるので、手を握られたまま片足の膝を床に付くと、羽蟲を見つめ返した。
「……火乱(カロン)と申します、陛下」
「……かろん」
「陛下にこの名を知っていただけたこと、光栄に思います」
微笑みながら名乗った羽蟲の騎士は、優しく羽蟲の手を引き寄せると、その手の甲に口づけた。暖かい、少しかさついた唇の感触に、羽蟲は思わず握った手を離して飛び退いてしまう。特殊な立場の国王である羽蟲は恭しく接されることに慣れていない。このような場合にどう返したらいいのかわからず、戸惑ったゆえの反応だったが、忠誠と敬愛を示してくれた火乱に対して失礼な行動だと思い至り、慌てて言い訳した。
「わっ、あっ……!違う、違うんです火乱、嫌だったんじゃないんです!あの、全然嫌なんかじゃなくて、ただびっくりしてしまって……。あの……」
しかしなんと言えばわかってもらえるかわからない。せっかく優しくしてくれたのに、やっぱり嫌なやつだと思われてしまうだろうか。なんとか自分の思いを伝えようとするが、他人と会話することが滅多になかった羽蟲は上手く言葉にできず、焦るばかりだ。段々涙眼になってくる。
そんな羽蟲に火乱は嫌な顔せず、くすりと笑って立ち上がり、羽蟲の眼に浮かんだ涙を指で拭った。
「……あなたは私の知る王や王族とは、随分違いますね。王の行動に臣下がどう感じようが、王が気にされる必要はないのですよ」
「あ、でも……」
「あなたがどのような扱いを受けてきたのかは知っているつもりです、羽蟲陛下。……あなたが巷でどのように噂されているのかということも」
噂、という言葉に羽蟲の体がびくりと震えた。今いちばん、羽蟲を苛んでいるものだ。火乱も王宮に勤めるひとりなのだから、もちろん羽蟲や瀬漣の悪評は耳にしているのだろう。それを聞いてなにを感じたのか、恐る恐る火乱の様子を窺う。火乱はすっと目を細めると、遠くを見つめるような目で言葉を続けた。
「しかし、噂など当てにならない。私が陛下の専属になってまだ日が浅いですが、陛下は勤勉で実直で、真面目に公務をこなしておられる。良き王であると、私は思います」
「え……?」
「陛下、縁あって近衛兵をさせていただいていますが、私はこの国の出身ではないのです。文化も宗教も異なる国から来ました」
良い王と誉められたことも衝撃だが、他国出身と告げられたことにも驚いて羽蟲は目を見開いた。アメイ国は一部の同盟国とわずかばかり交流を持ってはいるが、どちらかというと閉鎖的な国だ。国民が他国へ移住することも、他国民を受け入れることもほとんど認められない。あまつさえ、王族や要人を警護する近衛師団に所属するまで登り詰めた他国民がいたなど信じられなかった。
「そう……それは……火乱はとても、優秀な兵だったのですね。すごいなぁ」
「いいえ、本当にたまたま、縁に恵まれただけなのですが……。そういうわけで、私は他の民に比べると神子様を敬う心が欠けているのです。だからこそ私は、くだらない噂や悪評より、私の目で見た陛下の人となりを信じます」
「火乱……」
「傷ついた様子のあなたを見るたび、何とかして差し上げたいと思いました。……翅の美しさや、能力の高さだけで判断する者たちの悪意から、あなたを護る盾となりたい、と」
火乱は再び片膝を付く姿勢をとった。先ほどは忠誠を示すためのものだったが、しかし、今回は別の意味を込めた。
言葉を返せない羽蟲を、眩しいもののように見つめて火乱は言った。
「いちばん傍であなたをお護りしたい。……私をあなたの夫に、加えてくださいませんか?」
余計なことをしやがって、と瀬漣はここしばらく苛立ちを隠せず、舌打ちと煙草の量が増えていた。
神殿での騒動だ。
せっかく羽蟲への日頃の態度を改め、処遇を改善させ、自分を夫として愛していれば良いことがある、と羽蟲に刷り込んでいた途中だったのに。羽蟲は神殿で清翅に罵られた日以来、自分の行動が清翅を怒らせ、清翅が怒ったということは間違っているのは自分なのだと落ち込んでいる。そもそも他の男とまぐわえと言い放ったのは、当の清翅であるにも関わらず。
羽蟲にも感情が、意志があるのはわかったが、自分で考えて何かを決めるということは苦手なようだった。というよりできない。すべて神殿に、夫に従っていればいいと思っており、また夫の中で最もその優先度が高いのは現状正室である清翅だ。清翅がやはり側室を持つのは辞めろと告げれば即座に瀬漣との婚姻を解消せんばかりに、盲目的に従っている。
瀬漣もそれは元々理解していた。そういう部分で自分は清翅には太刀打ちできない。ならば清翅には不可能な分野で、羽蟲の中で自分に比重が傾くように仕向ければいい。神殿の一件以前、羽蟲の側室となったときからの、瀬漣の狙い所。
羽蟲が側室を持つに至った理由、すなわち、羽蟲の性欲の解消に務めればいい。もはやそれを与えてくれるのは瀬漣だけだと、羽蟲の肉体にゆっくり刻み込んでいく。幸い羽蟲は快楽には弱そうなので、さして難しいことではないだろう。
自分の夫としての価値をそう楽観視していた瀬漣は、嫌味しか言わない揚羽への経過報告を終えて戻った王の間で、羽蟲から信じられない言葉を聞くことになる。
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