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第十二章

12-19 出張の意義とは

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子供たちが帰って来た。

「おっちゃん、すっげー美味かった!それに、すっげーヒトが並んでたぞ。」
「そうか、そりゃ良かったな。」

4号店も順調に進んでいるんだな。
俺が直接関与せずとも動いていくものであれば、自由にやらせていくことにしよう。
ミオとケイシーなら問題ないな。

2号店はアデリンさん、4号店はミオとケイシーに任せておける。
1号店はレイケシアさんで3号店はルカさん。シェルフールを統括するのがジーナさんとサーヤさん。
シェルフールはこれで大丈夫だな。

メリアさんにシェルフールの店とヒトの配置を説明すると、メリアさんも同意してくれた。

「メリアさん、これでシェルフールは任せても問題ないかな。」
「そうですね。これでカズさんの負担も少なくなります。
 あとはクローヌですが、ここも大勢のヒトを雇う事で回っていくかと思います。」
「だね。あ、ディートリヒ、クローヌの情報は入ってきているかな。」
「はい。ザック様の土建班の方も3日前に到着し、先ず下水道の排水場から造成しております。
 それが終われば上水道の敷設、その後が道路の整備へと移ります。」
「じゃ、ここに残っているヒトは5日後に馬車でクローヌに来るように伝えてもらい、俺たちは先に行くか。」
「カズ様、向こうで雇用する執事と家事を行う者を探す必要がありますね。」
「奴隷…でしょうか…。」
「本来であれば、クローヌで雇う必要がありますが、そう居ないでしょうね。
 ですので奴隷を購入していく方が効率的であると考えます。」
「そうか…。んじゃ、カルムさんの店に行こうか。」
「その前にカズさん、3人でお話しがございます。」

ん?顛末か?

「うん、いいよ。」
「では、寝室に行きましょう。」

言われるままついていく。
部屋に入ると、二人に抱き着かれた。

「どうしたんだ?」
「カズさん、すみませんでした。
 私が闇に葬るという言葉を発してしまったために、カズさんに余計な負担を与えてしまいました。」
「あ、それは別にいいよ。俺がやるべき事をやっただけだからね。」
「ただ、ヒトを殺すという耐性も持たぬまま、殺めてしまうと必ず心に闇が宿るのです。」

 あ、そういう事か…。
確かに堪えたけど、そこじゃないんだよね…。

「メリアさん、ディートリヒ、別にヒトを殺めることに抵抗は無かったんだ。
 ただね…、俺って何だろうって思って。」
「カズ様はカズ様です。」
「俺が“規格外”と言われようと、“化け物”と言われようとも?」

2人がハッとした。

「カズさん自身がどう思われているかという事ですね…。」
「そう…。“渡り人”の宿命なのかな…。神様からいろんな力を貰えることになり…」

これまでの事をすべて話した。
そして、自分がポリアモリーであることも伝えた。

「カズさん、その…ポリアモリーがカズさんとどんな関係があるのでしょうか。」
「一人を愛せないという事…。」
「では、良かったです。これでみんなを愛してもらえるのですからね。」
「へ?」
「私たちはカズさんを独占しようと思っておりませんよ。それにカズさんは皆を独占しようともしておりません。私たちの個人を尊重してくださって、いろいろと自由にさせていただいております。」
「それだと我慢することになってしまうだろ。」
「いいえ、私たち9人は全員意思疎通ができております。
 カズさんと夜を共にさせていただくことは皆が望んでいることです。でも、一人で独占しようとは思いませんよ。」
「カズ様、私たちは一緒に居れるだけで幸せなんです。」
「ディートリヒは前にもそんな事を言ってたね。でも、それで良いのか?」
「はい。私たち伴侶はそれで満足です。
 ただ、奥方様は別です。奥方様はニノマエという名を受け継いでいかれます。
 ですので、奥方様には優しくしてあげてください。それとできれば世継ぎを…。」
「ディーさん、何考えているの?
 俺は“渡り人”で、52歳のおっさんだ。そんなおっさんが子供を、って…、もしかして、あの5人を見てそう思ったの?」
「はい…。」

 確かにそうだ。
ポリアモリーだってことを向こうの世界でも隠していた。
社会の流れに身を任せ、地方公務員にもなったし、結婚もした。そして子供も産まれ育った。
仕事柄、ポリアモリーを隠すこと、それが当たり前だと思っていた。
でも怖かった。こんな俺が自分を隠していきながら、これまでの世界では子供もいた。
でも、それで良かったのか、いつも自問自答していた。

「あのな…」
「分かっております。カズさんは向こうの世界の常識をこちらに置き換えておられることも。
 でも、ここはカズさんが住んでいた世界とは違います。
 こんな事を言ってはいけないと思いますが、私たちはカズさんに助けられたヒトです。
 そのヒト達の事を忘れて、カズさんの思いだけで放置させられても困るだけです…。
 私たちは、カズさんが居ない世界は考えられないのですよ。
 ポリアモリーか、ポリアンモリリンが何かは知りませんし、それがカズさんの個性なのではないですか。」

 個性か…。

心の中の何かが崩れた…。

・・・

「そうなんだね…。俺自身が意固地になってただけなんだ。」
「そうです。今はカズ様がどんな方かは断片的にしか分かりません。
 ゆっくりと教えてください。
 それでも、なにがあってもカズ様すべてを愛しているのは私たちだけなのです。
 ですから、どうか私たちを置いていかないでください。」

 皆、そこを心配していたんだ。
“渡り人”だから、いずれどこかに渡っていく…。前の“渡り人”のように…。

完全に吹っ切れた。

メリアさんとディートリヒを抱きしめる。

「ごねんな。そこまで心配してくれて嬉しいよ。
 それと2人だけに言っておくよ。」

メリアさんとディートリヒが固唾を飲む。

「俺は、この世界で出張という形ではなく、この命が尽きるまで居るよ。
 そのため、これまでの世界と決別する。
 みんなと一緒に暮らしたいんだ。
 “規格外”とか“化け物”とか言われる俺を、この世界は受け入れてくれるかい?」

2人の顔が明るくなり、そして強く抱きしめてくれる。

「カズさん、ありがとうございます。受け入れるも何も、ここがカズさんの住む世界です。
 でも向こうのご家族は良いのですか?」
「それは俺が考える事だからね。」
「そうはいきません。一度私をカズさんが話されている神様に会わせてもらえませんか。」
「私もです。カズ様。」

ここは寝室だ。像もある。
コンタクトしてみるか…。



『セネカ様、いらっしゃいますか?』
『はい。今回はいろいろとお考えになられたようですね。
 それと、この世界に骨をうずめてもらえる事、嬉しいです。』
『これまでも散々悩んでました。でも、ここに居る2人…否、9人が俺の個性を認めてくれるのです。』
『そうですね。あちらの世界では、道徳とか宗教という言葉で個性を排除されてしまう可能性もありますからね…。LGBTsでしたか?それもようやく最近になって認識されるようになったくらいですからね。』
『そういった意味で言えば、こちらは個性という観点ではすごく進んでいるんですよ。
 これも文化だと思います。』
『ニノマエさん…、ようやく気付いてくれたんですね。
 文化を1レベル上げるというのは、ニノマエさんが住んでいる文化がある一面で優位に立っているという事であって、こちらの文化がすべて低いという訳ではないんですよ。
 こちらの文化もあちらの文化に比べて進んでいる事も多々あるんです。
 その部分を理解していただいた上で、ニノマエさんが何をお考えになり、レベルを上げるのかを知りたかったのです。』
『セネカ様、気づかせてくださり、ありがとうございました。
 俺の生きる世界…、決めました。
今日は愛するヒトを2人紹介したいのですが、良いですか?』
『はい。構いませんよ。』



コンタクトを終え、深呼吸をして2人を見る。

「神様がお話しさせてくださるようだよ。
 念話と同じだからね。」
「はい(はい)。」


『セネカ様、お待たせしました。俺の妻であるメリアドールと伴侶のディートリヒです。』
『はい。いつも見ていますよ。』
『は、はじめてお会いします…、じゃなくお話しさせていただきます。
 メリアドールと申します。』

『メリアさんでも狼狽することもあるんだね。』
『カズさん、し!です。これでも緊張しているんです。』

『わ、わたくす、ディートリヒと申します。』

 ディーさん…、噛んだ…。

『ディートリヒさんですね。これまであなたの望みを叶えてあげられず、すみませんでした。』
『いえ!その代わりもっと素晴らしい夢を叶えていただきました。』
『それがニノマエさんですね。』
『はい!』

『メリアドールさん、ディートリヒさん。
 これまでニノマエさんを助けてくださり、ありがとうございました。
 ようやくニノマエさんが結論を出していただけた事、とても嬉しいです。』
『この世界に残っていただけるという事ですか?』
『その点は嬉しい誤算ですね。
 私はニノマエさんに1か月間出張してもらうことで、この世界の文化を1ランク上げて欲しいとお願いしました。それに対しニノマエさんはこの世界の文化を1レベルも2レベルも上げていただきました。
 でも、文化を上げれば必ずどこかに歪が生まれるのです。
 ニノマエさんは、その部分を理解していただけたんです。
 確かにマヨネーゼや石鹸、シャンプー、下着はこの世界を変えるでしょう。
 それはあちらの文化が優れているという判断があったものです。
 でも、こちらの文化も優れているという点をようやく理解していただいたんですよ。』
『セネカ様、それは何でしょうか。』

『ニノマエさんの心の中にあるものですよ。』

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